「バルドゥビーダさんには、一生ロックンローラーでいてほしかった気もします。在野精神を持って、自由で、気ままで、スケールがでかくて、激しくて、鋭くて、純粋で、オリジナルで、真実なあのギター。でも、今の音も好きです。優しく包み込む包容力、気配りがあって、それでいてスケールは大きくって、爽やかでアグレッシブで」
「君、知ってたのか」と羽田さんは言った。
「ってことは、羽田さんも元ジェットだったんですね」
副社長は碧い指輪をいじくり、ジェット、と小さく呟いたあと「占い師からも、当てられたことはないぞ」と言った。
「やっぱり、そうだったんだ。たまたま言って見ただけですよ」
立看板の中でも、群を抜いて大きな奴が、トラックに乗って正門前を通過した。仮設照明にかかると、「平成ギターマッチ 音楽帝国会長 米子大道 VS 在野の新星 出雲健太」という字が見えた。トラックは文学部キャンバス方面に曲がって消えた。
「俺が思うには、そして今も近くで見てて思うには、社長は今でもロックンローラーだよ。ただ、その後の絶望の中から立ち上がる中で、スタイルに加わったものがあるだけだ」
羽田さんの横顔を見る。確かに、ジェットのベーシストはこの鉤鼻だった。
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