非番の日はお茶会の日(2) 〜[完]〜
「何やら楽しそうなことしてはりますなぁ。お二人サン?」
「「!!?」」
明るい声で関西弁を話す人物は一人しかいない。そう思った日比野はゆっくりと顔を入口の方へと動かす。
「ほ、保科副隊長…」
そこには壁に背を預けた保科宗四郎がいた。
「…保科、入ってくるのは構わないがせめてノックを「しましたよ」…」
「ノックを三回、その上声までかけたっちゅーのに…それに気づかんくらいお楽しみ中やったんですね」
普段と変わりない声なのに、言葉にはどこか棘があった。そんな時、保科と日比野の目が合う。
「!」
日比野は今気づいた、過労人はもう一人いたと。
「…前から怪しいとは思っとりましたよ。カフカ、最近お前よく非番の日に隊長室を出入りしとるよなぁ?」
「え、ぁ…ま、まぁ…たまに?」
「たまにやのうて非番の日”絶対”に行っとるよなぁ」
「うぐっ…」
保科の強い言葉に日比野は言葉を詰まらせた。
「非番の日に隊長室に行くカフカ、そんでたまに紅茶の袋を持って歩いている亜白隊長」
「…」
「関係性はあると思てましたけど、まさか隊長室でこんな小洒落たお茶会を開いてるとは思うとりませんでしたよ」
ニコニコと笑っている顔がどうにも恐ろしく感じる。保科は体勢を立て直してこちらに向かって歩いてくる。日比野の前まで歩いた保科は、足を止めてから日比野の首に腕を回した。
「え、えっと〜…な、なんですか?」
「なんですかちゃうやろカフカ〜…お茶会にお客さんが来たんやで?おもてなししてや 」
これは断れないやつだ。そう思った日比野は素直に席を立ち「座って待っていてください」と言い残して紅茶を淹れる準備をしに行った。保科は気分を良くして日比野に言われた通りに椅子に腰掛ける。
「…どういうつもりだ、保科」
亜白の鋭い視線が保科に刺さるが、保科は気にも留めていない。
「僕はただカフカの淹れる紅茶がどんな味なんか気になっただけですよ亜白隊長」
「…嘘では無いな」
「そんな疑わんといてくださいよ、僕はホンマに思てたこと言うただけですって」
けらけらと笑いながら話す保科を亜白はじっと見つめる。そう、嘘はついていない。だが保科が言った言葉は半分は本音で半分は建前だ。一番の理由は単に気に食わなかったのだ。亜白と日比野が仲良く世間話をしながらお菓子や飲み物を口に運ぶ光景がどうにも保科の心をモヤモヤとさせていた。
◆◇◆◇
「副隊長、紅茶を淹れました」
声がする方に視線を向けるとそこにはふんわりと湯気が立っているティーカップを持った日比野がいた。すん、と鼻で空気を吸うと流れ込んできたのは優しい香り。その匂いに保科の口角は自然と上がった。
「おおきに」
保科はルンルンでカップを受け取り香りを楽しみながら縁に口をつけてくぴっと喉に紅茶を少し流し込んだ。
「!!」
とても飲みやすく、美味しい。この優しい味わいは元々この紅茶に含まれていたのか、それとも入れた人物の優しい 思いがこの一杯の紅茶に込められているのか、そう考えるだけでも保科の心はぽかぽかと暖かくなった。
「ど、どうっすか…?」
「…カフカ」
「はいっ!」
「お前、茶道とか習うとったんか?」
「え?いえ、キコルに教えてもらった淹れ方をそのまま真似しただけですけど…」
「…さよか」
四ノ宮キコル…アイツ茶道とか習うんか…?今度聞いてみよか。そんなことを頭の片隅で考えながら紅茶の味を楽しんだ。
◆◇◆◇
「というか、カフカはなんでそこに突っ立っとるん?」
ずっと椅子の横に立っている日比野にそう声を掛けると日比野は保科と目を合わせて言った。
「ええと…座る椅子がもうないんで…ああ、俺のことは気にしないでくださいね!」
ニッと笑った日比野を見て保科は顎に指を当てて考える。
「んー…ほんならやカフカ。ちょっとこっちに来ぃや」
「え?」
「ほれ、さーん…にーぃ…いーちぃ……」
「えっ、ちょっと待ってくださいよ!」
突然始まったカウントダウンに日比野は慌て保科が座っている椅子との距離が近いのにも関わらず駆け足で近づいた。
「えっと…来ましたけど…」
少し困ったような顔をした日比野の腕に目掛けて保科はそろりと手を伸ばしそれをガシリと掴み引っ張った。
「うわっ?!」
「!」
ぽすんっ
引っ張られた勢いを利用しくるりと日比野の体を回転させて保科は自身の膝の上に座らせ日比野の腹に両腕を回してしっかりホールドした 。日比野は何が起こったか分からず暫くフリーズしていたが、上官の膝の上に座っていることに気づき顔を青くしてじたばたと離れようと暴れるが、保科にホールドされているためそれは無意味な動きとなった。
「うっ、ふ、副隊長っ!手、離してください!」
「嫌や。お前手離したらすーぐ逃げてまうやろ」
「当たり前じゃないですか!」
「なら離せんな〜」
そう言ってホールドしたまま日比野の背中に頭をグリグリと押し付ける。
「こんな状態だったら紅茶も飲めないしクッキーも食べられないっすよっ!」
「あ〜、それはあかんなぁ」
「でしょ?!」
ニマニマと笑いながら答えた保科は「ほな…」と言いながら前のめりになり日比野の耳元に口を寄せた。
「カフカが僕に食べさせてや」
「はぁ?!!」
「紅茶も口移しで…な?」
にたりと悪く笑った保科の顔を間近で見た日比野は顔を赤く染め、唸りながら下を向いた。
「保科」
そこで静かに声がかかった、亜白だ。
「…」
「カフカ君が嫌がっているだろう。今すぐその手を離せ」
ギロリと睨みつけられた保科は渋々といった様子でホールドを解いた。手を離したことにより膝に座っているだけになった日比野は目にも留まらぬ速さでそこから飛び退いた。
「すまんかったわカフカ」
亜白に止められたことによりさすがにおいたが過ぎたか、と思った保科は素直に謝罪をした。日比野は数秒間保科を見つめたあと熱が引いていない顔を向けて言った。
「しっかり俺の作ったクッキーも食べてくださいね。お茶会用で作ったんで」
眉を下げてふにゃりと笑った日比野を見て保科の心臓は大きく跳ねる。
(あかん、クセになってまうわ…)
その音は見たことの無い表情を不意に見せられドキリとした音だった。
そして、お茶会の参加メンバーが増えた…
コメント
5件
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙もう最高ありがとうございます!「私もお茶会参加してぇ〜〜!」
今回も最高でした!!!保カフ最高…ぐへへへへ
一旦この「非番の日はお茶会の日」は終わりにします。他の話を書いている時に3、4も書くかもしれません