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きゃー! 流石す!!(凸さもも好物な人)
俺の名前は凸もり、普通の高校1年生だ。
今日から俺は家族と一緒に祖父母の家がある田舎へ10日間ぐらい泊まりに行くことになった。
その田舎っていうのが中々に自然溢れる場所で、家の傍には木々が生い茂る森、悠々と流れる川、繋がっている海は息を飲むほど絶景だ。
俺の普段住んでいるとこは都会だから祖父母の家まで電車で片道約2時間、古い無人駅に降りてそこから歩いて30分くらいで着く。しかしその歩きの大半が坂道だからちょっと辛い、さらに今年と来たら猛暑で、太陽がサンサンと差してくるもんだから両親と俺は汗だくになりながら祖父母の家まで歩いた。
「あらあら、よく来たわねぇ。スイカ、冷やしといたからねぇ。」
「久しぶりおばあちゃん!やった!」
祖父母の家に着くやいなや祖母が玄関で出迎えてくれて、迎え入れてくれた。冷えたスイカと聞き、俺のテンションは上がった。キャリーケースを居間に置いて祖母が居る厨房へ向かう。
「ばあちゃん、そういやじいちゃんは?」
「あの人ならぁ…川に釣りに行ってるわねぇ。そろそろ帰ってくると思うわよぉ。」
じいちゃんは釣りが大好きで、よく釣りの話を聞いてた。元は友人に誘われて始めたのだがその友人の教え方が上手く、直ぐに上達して釣りの世界へのめり込んだらしい。その友人について話を聞くと”今は分からない。中学の卒業式の後行方不明になった。”ということらしい。不思議な話で、俺はその友人の話を聞くといつもワクワクした。
「お”う、ただいま。」
不意に先程自分たちが入ってきた玄関の扉が開く、低い声と強い訛りの喋り方のただいまと、こちらへ近づいてくる足音が聞こえた。
「おかえりなさぁい」
「じいちゃんやっほー!」
「あんだぁ凸か。元気にしてだが?」
そう一言交わすと直ぐに居間の方へ行き両親と何か喋っている。その間にキンキンに冷えたスイカが切り終わってたので祖母と2人でそれを運び家族みんなで食べた。
俺はなんだか少年に戻ってこの土地を探索したくなったから、とりあえずリュックに水筒と保冷剤めっちゃ入れて冷めないようにスイカ二切れ、百均で買った折りたたみ式釣竿とエサを詰め込んで外へ出た。
来た時より太陽は雲に隠れていて少し涼しく感じたが、まだ暑いものは暑い。まぁ仕方ないと思いながらじいちゃんの自転車を借りて長い下り坂をくだって、俺は海へ向かった。
砂浜近くの開いてない商店の辺りに自転車を停める。海を見ると清々しく、太陽の光が反射してキラキラしている人っ子一人も居ない。ただただ綺麗な海が広がっていた。
「…なんで誰もいないんだ?」
こんなに綺麗なのに地元の人すら誰もいないのがかえって不気味に感じたがまぁいいか。ここで釣りをしてみよう。
「よっと…おし!」
いかにも釣りしてくださいと言うようなコンクリートの道の上で釣竿の準備を終える。早速釣りを始めようとした矢先、ふと横から先程までなかったはずの気配を感じた。
「そこ、なんも釣れないよ。」
「わ”ぁっ!?」
やっぱり人が居たんだ!?にしてもびっくりした、声的に男で…年が近そうだけど…と思いつつ、声の主の姿を確認する。
明るい茶髪に少し変な鮭の髪飾り、水色ベストに首からぶら下げた半透明のビー玉のネックレス。釣竿を持ったイケメンが居た。
…こんな奴、昨年来た時には居たか?
「ごめん、驚かせたよね。大丈夫?」
「だ、大丈夫…」
手をさしのべられる、それにつられ手を取り立ち上がると身長は俺より少し低いくらいだが、ほぼ同じくらいだとわかった。
「見ない顔だね、引っ越してきたの?」
「いや、母さんの実家がここでさ。今日から遊びに来てるんだよ。」
へぇ〜と言うような表情に呆気を取られ、さっき驚かせられた分の緊張がようやくほぐれてきたかのように思える。
「てか、ここって釣れないのか?」
「あぁそうそう。今僕も釣りに来たんだけど…一緒に来る?」
「うーん、何かの縁だし、行く!」
コンクリートの釣り場を降りて、一旦山の中を経由して行くらしい。少し不安だと思いつつ歩いている間、少し会話をした。
「あ、名前さ、なんて呼べばいいの?」
「えーと、俺の名前は凸もり。」
「凸さんでいい?」
「いいよ、君は?」
「…さーもん」
「さーもん?魚の?」
「好きなんだー、さーもん」
「っははwだからって名前にするかぁ?w」
少しヘンなやつだな、と思ったが、そいつのことを「さもさん」と呼ぶことにした。しばらくすると海が見えてきて山の斜面を下ると小さな砂浜に洞窟があった。
「ここ、僕の秘密基地。」
少し誇らしげに言うと洞窟の中へと入っていく、木で床が作られていて壁は布で覆われている、ふつーに暮らせそうだし少年心がくすぐられるな。
「荷物ここに置いていいよ。準備出来たら砂浜に来てよ。」
「わかった。」
準備はほぼできてるけど、洞窟の中が気になる。ちょっとあたりを見渡すとブラウン管テレビみたいなものや昭和の目覚まし時計みたいな、随分と古そうなものが多く置かれている。こういうレトロなものが好きなのかな…詮索はこれくらいにして、釣り始めるか。
「〜♪」
「となりいいよね。」
「勿論!」
機嫌良さそうに鼻歌歌いながら立って釣りをする彼の横に置いてある、大きなバケツにはもう魚が1匹入っていた。
「もう釣ったのか」
「僕、釣り得意なんだ」
するとひょいっと釣竿をあげ、また1匹バケツの中へと入っていった。
「…全然かかんない」
「じゃ、コツ教えてあげるよ。」
竿を砂に置き、こちらへ近づいてくる。釣り竿を握っている右手に、横からさもさんの右手が重なってきて一瞬びっくりしたがさもさんは構わず話し続ける。
「先を見るんだ。」
「…先端?」
「ううん。」
「海の向こう側」
先端しか見えてなかった視線が海へ移る。広くて綺麗で息を飲んでいた。視力はいいハズなのに、何故かボヤけて見えてきた、丁度水面のキラキラしているとこがぼやけて、たくさん見えてきたのだ。
「今!」
その声にハッと我に帰りさもさんに掴まれていた右手を動かす、するとちいさくながらもちゃんと魚が釣れていた。
なんだか夢を見てるような感覚だった。
「どうだった?」
「…なんか、すごい疲れた。」
その回答に彼はくすっと笑った、何がおかしいんだと言いたくなったが口も疲れてて言い出せない。
「今日はここまでにしよう」
彼はバケツに入った魚を放した、俺もおぼつかない手でゆっくりやっと釣れた魚を放した。
「荷物持ってあげるから、帰ろう。」
「うん…」
肩を借りてやっと涼しくなってきた風を肌に感じながらさもさんと会った砂浜に戻ってきた。そこでさもさんは荷物を渡し、こう言った。
「明日も一緒に釣りしてくれるなら、あの洞窟に来て。でも、僕のことは内緒でね。」
ぼーっとしてる間にさもさんは消えてしまっていた。頭に残っているあの言葉だけはしっかり覚えているのは何故だろう。
「明日も会ってみるかぁ」
リュックに入れたスイカでも食べようと思い開けたら2切れ入れてたはずのスイカが1切れしか無くなっていた。
「…明日絶対問いただしてやる」
その後も俺は彼と会っては一緒に釣りをした。ただ、ずっとって訳ではなく家族といる日もあった。そういやさもさんの家族ってどんな人達なんだろうか、というかさもさんの本名ってなんなんだろう。
7日目を迎えた日、洞窟に行った日だった。
前と変わらず2人で釣りをしていただけだったが、その日はなんだかさもさんが色っぽく見えたっていうか、ちょっと気になる感じがした。
「どうしたの凸さん」
「なんでもないよ。」
少し顔が赤くなってたかもしれない。そう思い空いてる左手で頬を少し擦る。次の瞬間、とすっ、とさもさんの肩が俺の肩にぶつかった。
「さもさん大丈夫!?」
「ん、大丈夫…多分。ただちょっとよくない感じするし、洞窟で休むね。」
「心配だから俺も洞窟入る。」
「別にいいのに、凸さんやっさし〜w」
「うっせw」
若干茶化されつつ2人で洞窟に入る、すると外であめがぽつぽつ降ってきた。
「うわぁ最悪…」
「しばらく雨宿りだね」
仕方ないので2人で話していた、釣りやこの土地についての話、そしてまさか意外なことに恋バナが始まった。
「えぇ〜いないの?ウッソだ〜」
「ホントホント、さもさんは?」
「いるよ」
意外な答えに思わず「おっ」となり、気になって気になって仕方なくて、食い気味に誰なんだと質問した。
少し間を開けて、口を開いた
「凸もりさん」
雨と波の音がよく響いた
何がなんだか、分からなかった。
俺の視界に映ってるのは、洞窟の天井とさもさんの整っていてキレイな顔。
手と手が重なり合って、そこから伝わる体温は海水のように冷たかった。
「好きです、凸さん」
「一目惚れでした。」
ぼろぼろと泣き、俺の頬に涙を零すさもさんを見て、俺は生まれて初めて
「ごめん、忘れて」
「俺も、好き。」
恋に落ちた。
残りの2日間、俺とさもさんはその間だけの恋人になった。
変わらず釣りしたり、泳いだり、手繋いだり
キスしてみたり
恥ずかしかったけど、楽しかった。
そしてとうとう帰る日が来た
「凸、楽しかっだが?」
「楽しかったよ。」
「あら、少し元気ないんじゃない?大丈夫?」
母が俺のおでこに手を挙げ熱がないか確認してくる。違う、体調は悪くない。寂しいんだ。
坂を降りて駅へと向かう。祖父母のペースに合わせてゆっくりと歩いていく。ふと、海を見ると人影が見えた、間違いなく彼だった。
思わず荷物を置いて海へ走った。祖父母も両親も驚いていたがそんなこと気にとめず走った。
「わっ」
バシャンと音を立ててさもさんを押し倒す。さもさんは驚いていたが、俺は関係なしに伝えたいことを今、全部伝えるべきだと思った。
「好き、さもさん。愛してる。」
「来年も来るから、もっと、俺と恋人で居て」
ぼろぼろ涙を零して、ひっどい顔で泣いてたと思う、さもさんはそんな俺を抱き返して、泣きながら”待ってた”って言うような笑顔で言った
「うん…うん!待ってる!」
最後に顔と顔を合わせて俺らは分かれた。戻っていくと「急にどうしたんだ」と心配されまくり、どう言おうか悩んでいたとき。祖父が口を開いた。
「お”め、あがるい茶っ毛で釣り上手のやつに会ってだが?」
その質問があまりにも的確だったからつい「うん」と答えてしまった。
「そうがぁ…」
少し懐かしそうに笑う祖父を見て、不思議に思った。彼を何故知ってたのだろうか。
振り返って、もう一度海を見ると
そこは蜃気楼に包まれていた