テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
七瀬🍏
458
手首を一つにまとめて、空いた手のほうでゆっくりと涼ちゃんのそこを刺激する。はじめよりも、確かにそこはかたくなり始めていた。
ぐり、といじると腰がかくんと揺れる。息が整ってきた頃に、また舌を差し入れる。
少しした後、やっと唇を放した。乱れたシャツからのぞく夕暮れの光に晒される輪郭は、眩しいほどに未熟で、だからこそ狂おしいほどに美しかった。
こちらを見上げる潤んだ瞳と目が合う。その顔は、恐怖か驚愕か失望か、上手く読み取れなかった。
ふと、涼ちゃんの手が顔に伸びて、頬を撫でるように動く。その瞬間涼ちゃんの顔に、ぽたぽたと2、3滴の雫が零れ落ちて流れていった。
慌てて目元をぬぐい、初めて自分が泣いていることに気が付いた。気づいた後も涙は止まらず、次から次へと涼ちゃんの顔を濡らしていく。
涼ちゃんが困ったように笑った。まるで小さい子をあやす様に、頭をくしゃくしゃと撫でまわしている。その手の温かさで、その瞳に映り込む歪んだ顔の自分に、ようやく気が付いた。
「…涼ちゃん…、ご、めん、ほんとごめん。なんか…どうかしてた…。」
そう言って、澄んだ瞳の中の自分から逃げるように体を浮かせた瞬間、涼ちゃんの腕が首に伸びた。そのまま、抱え込むようにぐいっと手前にひかれて、涼ちゃんの胸へ倒れこむ。
直に感じる心臓の音と体温に、胸が締め付けられるように痛み、身体中の血液が燃えるように熱くなった。
「…元貴の、やりたいようにしたらいいよ。」
喉の奥が、切なさにきゅっとひくついた。その優しい声が、やけに今は胸をえぐる。
なんて、なんてあなたは、綺麗で、美しい人なんだろう。あなたがそれほど美しいから、こんな醜い僕は消えてなくなってしまいたくなる。
お願いだから、あなたも一緒に汚れてよ。今日だけでいいから。
少しだけ震える腕で涼ちゃんの頬を包む。唇から、最初のキスの時だろうか、少しだけ血が出ていた。それを指でさすりながら、半ばかすれた声で呟く。
「…涼ちゃんは、今までしたことあるの?キス…。」
「えー…?初めてかなあ…。…いや嘘、一回だけあったかも。」
はっと思い出したように言う涼ちゃんに、わかりやすく顔を顰めた。体の奥から、さっきまで消えていた黒い炎がまた燃え上がるような気がした。
「…若井と?」
「若井とはしないよ。」
「じゃあ誰?」
「…東京の子。口じゃなくてほっぺだったけど。」
「いやそれ…、え、もときって子…?」
「そうだよ。なんで知ってるの?元貴の知り合い?…あれ、元貴…。もときと元貴…。」
「涼ちゃん、…それ、俺なんだよ。ね、東京の子って、俺のことだよ。」
「えー!ああ、そっか…、そうだあ…。
じゃあどっちにしても元貴じゃん。俺の、…ふ、ふぁーすときす…。」
涼ちゃんの耳元がみるみる赤い果実のようになっていく。堪えきれずに覆いかぶさりぎゅっと抱きしめた。下から涼ちゃんの、ぐえっと潰れるような声が聞こえた気がするが、それでこの手を放せるほど余裕はない。
溢れてしまうような喜びに、涙がかわりにあふれ出した。…ちゃんと、ちゃんと僕のこと、覚えていたんだ。すべてが消えたわけじゃなかった。やっぱり、僕の中で涼ちゃんはずっと大切な人だったように、涼ちゃんのなかでも、きっと特別でいられたんだ。
背中を優しく叩かれてやっと体を離し、唇の赤をなめとるように口づけた。
「…ほんとに、していいの?」
「ん、…いいよ。」
きつそうな涼ちゃんのズボンのチャックを降ろし、するすると脱がせていく。涼ちゃんが恥ずかしそうに体をよじった。
自分の熱も取り出し、ゆっくりとそこを擦り合わせる。その、あまりの興奮と快感に、身が震えて脳がくらくらした。
「あ、…」
互いの小さな吐息と艶やかな音だけが、汗ばむ部屋に響いている。擦り合わせている熱を握って、一緒に手で擦り上げた。
縁側の風鈴が、忘れた頃に一度だけ、チリンと乾いた音を立てた。その音は一瞬だけ部屋を涼やかにして、すぐにまた、湿った静寂が二人を包み込んだ。
夕暮れが近づくにつれ、影は長く伸び、家の中の陰影を色濃くしていく。終わらない夏と、静かに忍び寄る秋の気配の狭間で、二人の境界線だけが、じっとりと曖昧に溶け合っていくようだった。
頭の中には、僕のいなかった七年間の、あの輝かしい親友の笑顔がこびりついている。
あいつと涼ちゃんが紡いできた、誰もが羨むような純粋な友情。その光の裏側で、僕らは今、じっとりと暗い感情を育てている。僕たちの間に流れるこの熱は、あいつには決して触れられない、僕と涼架だけの秘められた領域。
逃げ場のない熱気の中で、僕たちは互いの鼓動を確かめ合うように、ただひたすらに熱を分け合った。狂ったように鳴き続けるセミの声も、古い扇風機のカタカタという音も、耳の奥で遠い雑音に変わっていく。
――これで、あいつを越えられる。
そんな赤黒い感情に、アルコールのように酔っていた。
ほぼ同時に僕らは絶頂し、嵐のような感情が通り過ぎたあと、急に訪れた静寂の中で、僕たちはただ荒い呼吸を重ねていた。
「…涼ちゃん。」
名前を呼ばれた涼架が、長い睫毛を揺らして、ゆっくりとこちらを振り向く。その澄んだ瞳に、夕闇に沈みかける自分の歪んだ顔が映り込んだ。
「…ごめん…。」
涼ちゃんはただ天井を見つめて、ゆっくりと沈むように息を吐いた。その顔は暗い影が落ちてしまってよく見えなかった。
「…こんな、…焦げるような熱ならさ、俺の頭も…覚えてられるかな。」
ポツリとこぼれ落ちた涼ちゃんの言葉が、ぬるい空気を切り裂いて僕の耳に届く。
あまりの切なさと必死さに息が詰まり、熱い自分の指先をギュッと握りしめた。
忘れてほしくない、忘れたくない。ずっと、この夏にいたい。その思いは、涼ちゃんも同じだったんだ。
涙で視界がじんわりと滲んでいく。毎日記憶が消えていく恐怖と戦いながら、涼ちゃんも必死で「今」にしがみつこうとしていた。僕だけが、忘れられる側の悲しみに打ちひしがれて、涼ちゃんが抱えていた果てしない孤独や痛みに、本当の意味で寄り添えていなかった。
自分のことばかりでいっぱいだった自分が、急に酷く小さく、惨めに見えた。
僕が東京で、忘れないでと身勝手に祈っていた間も、涼ちゃんは消えていく記憶の波にさらわれそうになりながら、僕らの思い出を、この熱を、必死で繋ぎ止めようともがいていたのだ。
胸の奥が張り裂けそうなくらい痛くて、愛おしくて、どうしようもない。
「…覚えてられるよ、絶対。大丈夫。」
掠れた声を振り絞り、僕は深く深く息を吸い込んだ。
届かない距離や空白の七年間に焦り、嫉妬し、醜い感情を煮詰めていた僕の胸の中に、ただ真っ直ぐな、透明で激しい想いだけが満ちていく。
たとえ明日、涼ちゃんの頭から僕の名前が消えてしまっても構わない。
涼ちゃんが忘れてしまうのなら、僕が何度だって思い出させてみせる。涼ちゃんの手を掴んで、この灼けるような夏の熱さを、何度でも僕たちの胸に刻み直してみせる。
夕闇が二人を包み込んでいく部屋の中で、僕は溢れ出しそうな涙をこらえながら、ただ静かに涼ちゃんを見つめていた。
「僕、そろそろ帰んないと。」
薄暗くなってしまった部屋で、僕は重い口を開いた。引き留めてほしいような、でもこれ以上ここにいたら胸が潰れてしまいそうな、複雑な心地だった。
涼ちゃんはパチリと瞬きをしてから、あ、もうそんな時間かと部屋の時計を見上げた。それから小さく息を吐き、寂しさを隠すように、少しだけ悪戯っぽく微笑んだ気がした。
「涼ちゃんは?一人?」
「お母さんが帰ってこないから…。そうだね、一人。」
その言葉を聞いた瞬間、僕の胸の奥でドクンと大きな鼓動が跳ねた。一人で部屋に残り、記憶が途切れていくかもしれない夜を迎える涼ちゃんの孤独を想像すると、居ても立ってもいられなくなった。
「…じゃあさ、うち来る?」
「え?」
「僕の親戚の家。部屋も余ってるし、母さんもおばさんも、涼ちゃんが来たら絶対喜ぶよ。…一人でいるより、いいでしょ?」
必死さを悟られないよう、できるだけ自然な声を心がける。
涼ちゃんは少し驚いたように丸い瞳を丸くしていたけれど、やがて、
「…うん。お邪魔しようかな。」
と嬉しそうに頷いてくれた。
二人で家を出ると、外はすっかり濃い藍色に包まれていた。
街灯もまばらな田舎の夜道。さっきまでの夏の暑さは影を潜め、高原の夜風がひんやりと肌を撫でていく。
僕たちは並んで、静かな道を歩いた。
昼間、三人で歩いた時には感じなかった静寂が、僕と涼ちゃんの間に流れている。若井の姿はない。今、涼ちゃんの隣にいるのは、僕ひとりだ。
アスファルトを踏みしめる二人の足音だけが、カツ、カツと夜の空気に響いていた。
ふと隣を見ると、静かに前を見つめていた。その横顔があまりにも儚くて、街灯の光に透けて消えてしまいそうに見える。
…どうか、忘れないで。
胸の中で、そう繰り返し繰り返し祈った。
明日になったら、今日のことも忘れてしまうのかもしれない。僕とこうして夜道を歩いたことも、あの部屋で交わした言葉も、全部消えてしまうのかもしれない。
それでも、今、僕の隣で息をして、同じ夜の空気を吸っている涼ちゃんの手のぬくもりだけは、本物だ。
「涼ちゃん。」
「ん?」
「寒くない?」
「ううん、大丈夫。…なんかね、夜の散歩なんて久しぶりだから、ちょっとワクワクしてる。」
そう言って笑う涼ちゃんの声に、僕は小さく救われる気がした。
僕たちは暗闇に溶け込む一本道を、互いの温度を感じ取りながら、ゆっくりと歩みを進めていった。
コメント
7件
遅くなりましたが… 更新ありがとうございます💕 明るい陽の光の中ではなく、仄暗く 湿度を感じる2人の関係が何だか切なく感じられました🥹 でも、💛ちゃんの特別であった事、ほんと嬉しかった✨ 💛ちゃんの『僕の頭でも…』という言葉、本当に切なくて、いつも笑顔でいる彼の本心が垣間見えた様でした。 💛ちゃんのお母さんの事もめちゃくちゃ気になります💦 ますます続きが楽しみです💕 時間を楽しみにしています✨
楽しみにしてました😭♡ 好きな人と近くにいて触れているのに、頭の中では💙くんを考えてしまう❤️くんが切なくて😭 けど、💛ちゃんが優しく受け入れてくれたから、❤️くんも逃げずにいられて、変に距離ができなくて本当に良かったです🥲 💛ちゃんが話し出したとき、もしかしたら……って思ってましたが、やっぱり覚えていたことに泣けちゃいました😭 💛ちゃんにとって7年ぶりの答え合わせで、ぽつりぽつりと話す言葉が本当に切なくて……。 孤独にならないように誘って、そばにいることを選んだ2人。可愛くて、2人が並んで外を歩いている光景まで浮かびました🥹❤️💛 お母さんのことも気になります🥹
ちょっと遅れちゃった…😢まだまだ夏の小説が終わらないのに、秋の気配が…🫨 まだだ!終わるな、夏!🫠