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魔竜の恩返し

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魔竜の恩返し

11 - 第11話 持久戦

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2025年06月02日

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目の前に火花が散った時のような、視界が真っ白に染まるほどの激痛で目を覚ます。


「〜ッ!?!?ぁ”あ”ッ…!!」


そうだ、少し前から俺は地獄にいるんだ…

数分の睡眠と数時間の痛みが延々と繰り返されていて、もう竜体になりたくないといくら叫んでも聞き入れてもらえるわけもなく。

むしろ叫ぶ事で体力を持ってかれるし、喉は痛むし、良いことがないから俺は無駄に声を上げなくなった。


「うし、行くぞ」

「おう」


俺から鱗を剥ぐ事をただの作業としか捉えていない彼らの、何とも感情のこもっていない声に涙だけが流れ落ちていく。

どうして…?俺は何もしていないのに。

信賞必罰。

良い事をすれば褒美が与えられ、悪い事をすれば罰が与えられる。

そんな世の中なのだと思っていたのに。


「…イタイ」


『また怪我したの?みどりくんったら…』

『どりみーはお転婆やなぁ』

『お勉強もしないとダメだよ、みっどぉ』


グスンと鼻を啜る。

今、すごく寂しい。みんなに会いたい。


「おい、連れてけ」

「はいはい…うわ、汚ねぇ!」

「人の形しててもコイツらはバケモノだ」

「手加減しなくていいなら楽でいいぜ」


首の枷を掴まれて引き摺られていく。

まだ数日しか経っていないのに、心はすっかり荒んで、色褪せてしまったらしい。

何もかもがどうでもいい。

自分の現状…いや、未来でさえもうどうにでもなれと思ってしまう。


「マジリ、要望通りに連れてきたぞ」

「ッ、みどりくん…!!」


聞き覚えのある声がしたけど、もう何にも感じたくないからどうだっていい。

…でも、この人に大した怪我は無いようで少し心がホッとして、暖かくなった。


「ごめん、ごめん…俺が巻き込んだ……」


そう言って悲しそうに、悔しそうに顔を顰めた彼の頭上には、一瞬だけきょーさんに似た光の輪が浮かんで見えた気がした。


「…」

「もう大丈夫、絶対に俺が守るから」


優しく抱きしめられて、そっと頭を撫でられた途端、何も受け入れまいと閉ざしていた心がホロリと解けていくのを感じた。

ひとつ、またひとつと流れていく涙をどうにかしようと思っているのに、それはどうにも俺の意思に反抗したいらしく、なかなか思うように止まってくれない。


「大丈夫、大丈夫だから……!」


そう繰り返すぺんさんの言葉に、ただただ涙を流し続けた。


「モウ、大丈夫…」

「俺がこうしてたいんだけど、いい?」

「…ン」


俺が泣き止んでも幼い子供をあやすように背中をそっと叩きながら、ぺんさんは少しずつ状況の説明をしてくれた。


「俺は天使と堕天使?みたいな奴らの魂が混じってるんだ…とはいえ、混じったのはつい最近の話なんなけどね」

「アノ人達…マジリ、ッテ…」

「多分そのこと」


苦しそうに空咳をこぼして笑ったぺんさん。


「魂がちゃんと混ざりきってないから、お互いが反発してる状態で…ゲホッケホッ!!」

「ペンサン…!!」

「えへへ、ちょっと苦しくなるんだよね」


ちょっとやそっとの話じゃ無いだろうに、ぺんさんは明るく元気に声を出した。


「でも!病弱なおかげで今こんな環境うにあれるし、みどりくんもこっちに引き込めた」

「ソッカ…」

「でも…目が覚めるのが遅いせいで辛い思いさせて、本当に申し訳ない……」

「ンーン…ありがとう、ぺんさん」


あのまま後少しでもあそこに留まっていたら、俺は間違いなく壊れていた。

助けてくれたのにお礼どころか不満を述べるだなんて礼儀知らずな事をするわけがない。

むしろ感謝でいっぱいだ。


「でも、これも持って数日だと思う…」

「……ェ…」

「その間にらっだぁ達が気がついてくれればいいんだけど…もしくは、少しでも時間稼ぎができたら……」


部屋は時間稼ぎにならない。

窓、天井、扉…壁だって壊してしまえば侵入口になりうるからだ。

部屋のようにある程度の空間があって、ぺんさんが休めるベッドがあって、出入り口がこちらで選択できる…そんな空間……


「そんなのあったら苦労しないよね…」


ぺんさんの落ち込んだ様子をよそに、俺は一人可能性を見出していた。


「……アル」

「え?」


ただひとつだけある。

そんな使い方はした事なかったけど…


「ペンサン、俺…その環境を作れるよ」


ぺんさんの耳元でコソコソと囁くと、ぺんさんはパッと表情を明るくした。


「ほ、ほんと!?そんな事出来るの!?」

「ウン!……ただ、魔力が保つかどうか…」


ただでさえ体の回復に魔力が自動で割かれてしまっているのだ。

そう長い事も保てるとは思えない。

申し訳なくて、小さく俯くと、ぺんさんがゆっくりと目を閉じた。


「!?」

「大丈夫、みどりくんの体の回復は任せて」


すっかり変わってしまった姿と、おっとりとした話し方に一瞬誰かと思ったけれど、ぺんさんが混じっている事を思い出してすぐに納得した。

三人のうちの一人が今の彼なのだ。


「ペンサン…本当ニ人間ジャナクナッチャッタンダ…」

「ま、まぁ…そういうことだね」


ともかく。

状況は少なくとも良い方へと転じた。

あとはどれだけやり切れるか…それだけ。



本のページは捲られた。



ー ー ー ー ー

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