テラーノベル
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連載の息抜きに短編連載という暴挙。
三人お付き合いです。若様視点。
珍しく三人とも仕事が早く終わった日、ご飯食べて帰ろうよと話してたら、涼ちゃんにやけに真面目な顔で話したいことがあるから僕のおうち来ない? と誘われた。
涼ちゃんからのお誘いにうれしい気持ちはもちろんあるけれど、なんとなく空気感が“嫌なところを言い合う会”と似ていたせいで手放しに喜べず、思わず元貴と顔を見合わせた。
「え、なに? 仕事関係?」
「んん……仕事にも関係なくは、ない?」
「今じゃダメなの?」
単純に仕事の話ならここで済ませようという意図の元貴の質問に、涼ちゃんは困ったように眉を下げた。
「ダメっていうか……ここじゃちょっと言いにくいっていうか」
反省会……決定かなこれは。心当たりがないというよりありすぎるな、っていう状態だから何を言われるか予想がつかない。
でも、モヤモヤを溜めたままにしておくと碌なことにはならない。
特に涼ちゃんは自己完結してしまいがちで、元貴とは違う意味で感受性豊かだからきちんと話し合う方がいい。
「わかった。なんか食べ物買って帰ろ」
元貴も同じ結論に達したらしく、やわらかく微笑んで涼ちゃんの頭を撫でた。
安心したようにありがと、って微笑む涼ちゃんに、元貴だけずるいって思ったから、早く帰ろ、と涼ちゃんの頬に掠めるだけのキスをしてやった。
うぉい! と叫んだ元貴にニヤリと笑って、
「トマトパスタ以外でお願いしまーす」
とふざけて言うと、ムッとしたまま
「だめです。トマトパスタはマストでーす」
と鼻を鳴らして応じた。
びっくりして固まっていた涼ちゃんは、気を取り直してくすくすと笑って、好きなもの買おうよと穏やかに言った。
反省会の流れだと思ったけどそうでもないのかも? と軽く考えながら三人連れ立って控え室を出る。
送迎をしてくれるマネージャーに涼ちゃんの家に集まることを告げると、では近くのスーパーで降ろしますね、と快諾してくれた。
明日の迎えも藤澤の家で、と元貴が続けると、え、と涼ちゃんが反応した。
「え、泊まっちゃだめ?」
「だ、めじゃないよ、だいじょうぶ……」
大丈夫な反応じゃないじゃん、それ。
ダメならダメって言えばいいけど、言ったら言ったで元貴に理由を詰められるだろう。俺もなんで? と詰めてしまうだろうから人のこと言えないけど。
ほら、元貴がすごい顔してるよ? 気付いてる?
マネージャーが困ったように俺たちの顔色を窺う。
元貴がもう一度、さっきよりも強い語調で「藤澤の家でお願いします」と伝えれば、不安そうにしながらもマネージャーは頷いた。
そこからの空気は控えめに言っても最悪だった。
元貴は苛つきを隠さないし、涼ちゃんはこんな空気にしてしまったことを申し訳なさそうにして何も言わないし、俺も俺でなんで言ったらいいか分からないし。
無言の車内は地獄のような静けさで、ほんの少し前までの、みんなでご飯食べよーっていうやわらかい空気が嘘のようだった。
「ありがとうございました、お疲れ様です」
「明日もお願いします」
「おやすみなさい」
それでも車は進み、目的地へと到着した。
元貴、俺、涼ちゃんの順に挨拶をしながら降車する。
冷ややかな空気から解放されたマネージャーが、ゆっくり休んでください、と疲れた笑顔で言った。なんかごめんね、そっちもゆっくり休んでください。
「……行こ」
多少変装しているとは言え、長く立ち止まるわけにはいかない。
車を見送って帽子を深く被り直した元貴が歩き始め、俺と涼ちゃんがそれに続いた。
当初の予定通りトマトパスタや出来合いのお弁当、インスタントのお味噌汁なんかを買い込んで、歩いて10分くらいの涼ちゃんの家に向かう。
その間もほとんど無言。どうしたものか、と悩んでいるうちに涼ちゃん宅に到着する。
お邪魔します、と一応断りながら、相変わらずものがとっ散らかってる部屋に脚を踏み入れる。
不衛生なわけじゃないけど、片付いてはいない部屋。涼ちゃんらしいっちゃ涼ちゃんらしい。
涼ちゃんの匂いに包まれた空間は、いつもなら心地いいはずなのに。
「で? 話って何?」
「先にご飯食べようよ、お腹空いたし」
さっさと話をしたい元貴はどかっとソファに座るなり切り出した。空腹だと余計にイラつくだろうから、腹ごしらえを先にしようと提案する。
「……食べながらにしよ」
意固地になってもいいことがないと判断したらしい元貴が、折衷案を出す。
元貴はこれ以上譲らないだろうと涼ちゃんを見ると、覚悟を決めたように、うんと頷いてお弁当の蓋をとった。
「二人にさ、お願いがあって」
「うん」
もぐもぐとパスタを頬張る元貴の代わりに頷くと、お米を口に入れて咀嚼する涼ちゃん。
変な間ができるがそれは仕方ないと続きを待つ。
「減らしてほしいんだよね」
お米を飲み込んでから、次は唐揚げに箸を伸ばしながら言う。
いつものことながら主語がなくて、キムチを食べる俺が話せないから、今度はパスタを飲み込んだ元貴がなにを? と訊いて水を飲んだ。
「えっちの回数」
んぐっ
ぶふぉっ
なんてことなく続けられた言葉に、俺は飲み込むのを失敗したし、元貴は水を噴き出した。
シリアスではないです。いつも通り(?)の愛重いお話です。
コメント
8件
減らして欲しいってそういう事ですか...笑 やっぱ愛が重い2人、アレの回数も多いんでしょうか また神話をありがとうございます😆
息抜きに短編、読者は嬉しい限りですが🫣♥️💙💛
また絶対大好きになるお話確定じゃないですか💕楽しみにしてます🥹 たくさん更新ありがとうございます✨