※注意※
この小説は、純度100%の私の妄想で出来たnmmnです。ご本人様には一切関係ありません。
ご本人様はもちろん、その周辺の方々やnmmnが苦手な方の目にも入らないよう、配慮をお願いします。
私の癖を詰め込んだので、誰かの地雷の上で踊り狂っているかもしれません。それぞれで自衛をするようにしてくだ さい。
読後の誹謗中傷等は受け付けておりません。チクチク言葉が届くと泣きます。
その他、BL要素(🌵×🟦🧣)、バース要素(アイリス)あります。
丁寧に包まれた一輪の花を手に、順に点灯するライトを眺める。エレベーター特有の不快感が俺を襲う、だがそれを忘れさせてくれるほどの高揚感が胸いっぱいに満ちていた。
会いに行くのだ、俺の大好きな人に。素敵な目をした、ちょっと無愛想だけど優しい人。その姿を想像するだけでも、口角がみるみる上がっていく。
青色のカーネーション。彼がこの想いに気付くことは一生無いだろう、なにせどうしようもないぐらい鈍感なのだ。
軽快な音と共に、重い扉が開いた。ほとんど駆け足になりながら、俺はほとんど小走りになりながら彼の部屋の前に急ぐ。
自分の部屋を通り過ぎ、もう一つ奥の部屋の前。俺は、はやる気持ちを押さえながら、インターホンを押した。少しの間の後に、平坦な声が聞こえてくる。
『はい』
「俺です俺、ぐちつぼです」
そう言うと、ブツリとマイクが切れた。相変わらず、素っ気ない人。まぁ、毎日のことだからもう慣れたけど。
すぐに、鍵の解錠音が聞こえてくる。ドキドキしながら髪を整え、背筋を伸ばす。
開いたドアから、青い髪が覗いた。俺は、平静を装いながら、自分に出来るめいっぱいの人当たりの良さそうな笑みを浮かべた。
「こんばんは、らっだぁさん」
「……あぁ、ぐちつぼさん。こんばんは」
気持ち程度に微笑む口元とは対照的に、その目はピクリともしない。相変わらず、愛想笑いがヘッタクソだな。そう思っている内に、その笑みもすぐに鳴りを潜める。
彼は、真っ黒な瞳で俺を見つめた。
「よければ、どうぞ」
「今日は、カーネーション?いっつもありがとうございます」
やはり、表情はピクリとも動かない。今日も、彼の心を揺さぶることは出来なかったようだ。
彼……らっだぁさんは、同じマンション、それも隣の部屋に住んでいる人だ。相変わらず、花に対しては何の感情も湧いていないようだが、律儀に礼を言うところが真面目で素敵に思える。
彼は、クラウディ特有の瞳のせいで、感情の起伏が驚くほど少ない。彼と接していくうちに分かっていったり、調べたりした情報によると、感情はあるものの何かに心を揺さぶられることがないらしい。
それのお陰で、俺は彼が大口開けて笑うところを見たことがない。
恋愛経験の少ない俺に言えたことではないが……やっぱり好きな人には笑ってほしいから。彼に出会って心を奪われたあの日から、はたから見れば無駄にも思えるであろうことを、何度も何度も繰り返している。
俺だって、こんなことしても彼は何も変わらないんじゃないかと考えることがあるが、こうやってまじまじと花を見つめる姿を見ると、無駄じゃない気もしてくるのだ。
そもそも、彼と話せたら何でもいい。笑ってくれなかろうがなんだろうが、1秒でも長く彼と話していたいのだ。
「お変わりはないですか」
「まぁ、変わることないですよ。相変わらず、空っぽなだけです」
そう言って、少し目を伏せる。
元に戻りたいのだろうか、それとももう諦めてしまったのだろうか。その目からはどんな感情も読み取れず、ただこの世の非情さを物語っていた。
まぁ、体調を崩したり、希死観念に駆られているわけでもなさそうだったからよかった。初めて出会った時のいつでも死んでしまいそうな深い悲しみからは抜け出せたようだ。
「今日は、どっか行ったりとかは?」
「少し。朝にそこらを散歩しました」
「いいですね、日光浴びると気分も晴れますし。せっかくだし、今度一緒にどっか出かけます?」
「……」
「冗談ですよ、冗談。さすがにそれは嫌ですよね」
こういうところは分かりやすいんだから。嫌なんだろうな、とか、苦手だったかな、とかはすぐに分かる。表情に出るからだ。
なんだか猫みたいだ、凛とした美しさの中にある甘さが似ている。彼の瞳は、けして幸福を生むことのない忌むべきものなんだろうけど、どうしようもない魅力がある。
とくとく、と心臓が鳴る。彼と話す夜が、今の一番の幸せなのだ。
だが、そんな時間にも終わりはくる。残酷にも、時計の針は約束の時間を指しては、俺を急かすようにカチカチと音を鳴らした。
「あー、もうこんな時間……すんません。毎日毎日、長居して」
「いいえ、お気になさらず。心配してくださっているのは、分かってるので」
じゃあ。らっだぁさんは、小さく会釈をする。
「おやすみなさい」
パタン、とドアが閉まった。
今日も、ダメだったか。魔法が解けたように幸福感が失われ、残念に思ってはがっくり肩を落とした。
彼は、一体どうしたら笑ってくれるだろう。会話内にも笑みは見えず、ただただ単調な声。それが、笑い声に変わるときは来るだろうか。
ま、こうやってうだうだ思っても、どうせ明日になって話しかければ、話せた、嬉しい!という思いでいっぱいになるんだろう。俺ってやつは、なんて単純な男なんだ。
こんな俺でも、彼の支えになれていればいいけど。
彼の悲壮的な瞳を思い出しては、ただそれだけを願った。どうしようもなく冷酷な世界に当てられて、彼が枯れて萎れてしまわないように。
風が肌寒くなり、冬の匂いが漂い出した頃。俺は、青いアイリスを片手に、見慣れたドアのインターホンを押す。
一体何回目だろうか、花を渡しに彼の家を訪ねるのは。まぁ、訪ねると言っても隣の部屋だから、特に大変というわけでもないのだが。
回数を重ねる内に、インターホンを押す瞬間のドキドキ感は薄れていった。なんて言ったらいいのだろう、どんな話が好きだろう、そんな戸惑いが、彼と話していく内になくなっていったのだ。
表面上のことだけなら、彼についてのたくさんのことを知った。動物が好き、ゲームも好き、日課は朝の散歩。そして、料理がちょっと苦手。
これは、ちょっと意外だった。なんでもさらっとこなしそうな彼にも、苦手なものはあるのかと、驚いた覚えがある。
まぁ、そんなこんなで、彼がにわかに食いつく話題とか、色々と情報をゲットしたのだ。そのおかげで、ぎこちない返答も減った気がする。
『はい』
『俺です俺、ぐちつぼです』
決まった合言葉のように繰り返した、2人の決まった最初の会話だ。ブツッと切られるマイクも同じ、微かに聞こえる足音も同じ。
「こんばんは」
「こんばんは、ぐちつぼさん」
この人も、全く変わらない。間延びした声、真っ白な肌、目尻の下がった黒色の瞳。まるで人形みたいに、止まった時間の中に彼はいる。
「よければ、これ」
「あ、知ってます。アヤメですよね」
「御名答。一応、花屋ではアイリスっていう名前で売ってました。日本名だとそう言うみたいですね」
「へぇ……」
綺麗。そう呟くものの表情はピクリとも動かない。
まぁ、逆にいつも通りではあるのだが。花を渡して、少し話す。それだけの関係性。本当にそれだけだが、俺からしたらとても心地のいい時間なのだ。
今日はどんな話をしよう。朝から晩までのことを思い返し、よし、と口を開いた。
「今日は───」
「あの」
それを、らっだぁさんが遮る。
「あの、今日お時間ありますか」
「?全然、たくさんあります」
なんだろう。あまり彼に何かを尋ねられることは無いから、ないし言葉を遮られることも無かったから、少し驚いた。
恐る恐るの返答を聞き、らっだぁさんは小さくうなづいた。そして、扉を大きく開けた。知らない家の、嗅いだことのない芳香剤の匂いがした。
「よければ中、どうぞ」
「……え」
よければ、中、どうぞ!?
突然の急展開に頭がついていけず、情けない声が漏れた。どうしようもなく胸が高鳴り、うるさいぐらいに鳴り響く。
本当に、いいのだろうか。好きな人の家に、ズカズカと。必死に頭を働かせる俺を見て、らっだぁさんは小さく首を傾げた。
「やっぱり、ダメですか」
「い、いやいやいや!俺は全然……らっだぁさんがいいなら、大丈夫です!」
「……ならよかった」
じゃ、どうぞ。と促されるまま、扉を潜る。変に緊張して、思わず背筋を伸ばした。
明るい部屋には、たくさんの小物たちが散りばめられていた。青色のものがほとんどで、白い壁に映えて鮮やかに見える。
これは、彼がクラウディになる前のものだろうか。手入れをやめてしまったのか、みんな埃を纏っている。青いリボンを巻いたテディベアなんて横に倒れてそのままだ。
「青色、好きなんですか?」
「前は好きだったんですが、今は別に。クセみたいなもんです」
コトリ、と目の前にコップが置かれた。彼は向かいに座って、椀に雑把に広げられた菓子を差し出す。一つつまんで、ゆっくり咀嚼して、無表情に飲み下す。
口、ちっちゃいな。俺なら一口でいけそうなのに、わざわざ分けないと入らないんだ。
彼が何かを食べるところを見るのは初めてだから、小さなことまでじろじろ見てしまう。彼の全部がとにかく愛しくてしょうがないのだ。
不意に、目が合った。真っ黒な瞳に、間抜けな顔をした自分が映り込んでいる。
「なにか」
「あぁ、いや、別に」
「ぐちつぼさん、よく俺の顔見てますよね。そんなに変な顔してますか」
「いえ!お気に、なさらず……」
ドキリ、と心臓が大きく跳ねた。思い切りバレてるじゃないか、そんなに分かりやすかっただろうか。とにかく居た堪れなくなって、ぐうの音も出せずに黙り込む。
これはまずい、と話を紛らわせる為に、俺は慌てて切り出した。
「なんで、今日は入れてくれたんですか?いっつも立ち話だったじゃないですか」
「最近、寒くなってきましたし。それに、ちょっと聞きたいことが」
「聞きたいこと?」
らっだぁさんは、菓子に伸ばしていた手を引っ込める。落ち着きなさげに指を何度となく組み直しては、視線を自分の手に落としたまま、尋ねた。
「なんで、ぐちつぼさんは俺にこんなことしてくれるんですか」
「……なんで」
「俺、なんにも分かりませんよ。貴方に何されても、この目じゃなにも」
ついにこれを聞かれるとは。緊張して、少し背筋を伸ばす。
「気になり……ますよね、そりゃ」
「そりゃ、まぁ」
「はぁー………なんて言ったらいいんだろ」
一目惚れしたからです、貴方が大好きだからです。
そう言えたらきっと格好良かっただろうが、あいにくそこまで肝の座った男ではない。小恥ずかしくなって、顔を手で覆った。天を仰いでは、下りた沈黙が苦しくなって唸り声を上げる。
今の俺、世界で一番ダサい。好きな人に気持ちも伝えられず、喉から出るのは情けない声ばかり。
言いたいけど。もちろん、出来ることなら結ばれたいけど。きっとこの人には、俺よりかっこよくて、頼もしくて、真っ直ぐで誠実なな人のほうが似合うだろう。
綺麗な花には綺麗な花瓶が必要だ。俺みたいな、凹んだみすぼらしいものに生けるには、彼はもったいなさすぎる。
どうはぐらかそうか。そう考えていると、痺れを切らしたらしいらっだぁさんが、ムッと眉をひそめた。
「別に、どんな理由でも気にしませんよ。そもそも俺は、ぐちつぼさんの何も知らない」
「もう、最悪な理由ですよ」
「知らないほうが最悪です」
早く言え、と言いたげな瞳に、思わず苦笑する。こんな顔は出会った当初では見られなかっただろう。足踏みばかりの関係だと思っていたが、微量なりとも進んではいたらしい。
なら、まぁいいか。半ば諦めも含んだ声が、口をつく。
「一目惚れ、って言ったらどうします」
「え、……俺に?」
「……って、言ったら」
らっだぁさんは、ハッとしたように目を見開いた。大きくなった黒曜石が、電灯を反射してキラキラ輝いた。
あーもう、どうにでもなれ。きっと嫌がられるだろう、気持ち悪いと言うだろう。初めて、彼がクラウディで良かったと思った。もし他の目を持っていたなら、今頃特大の張り手が飛んでいたかもしれない。とことん鈍い特性を持っていて良かった。
冷や汗をかきながら、彼の顔色をうかがう。まだ状況が読めていないのか、らっだぁさんは目を丸くしたままに、ぱちくりと瞬きを繰り返した。
幾度となく隠れては現れた瞳は、ある時を境にスッと細まった。俺の言葉を噛み砕くように考え込んでは、長い沈黙の末に、小さく息をはいた。
「……はは、変な人。俺に一目惚れとか、バッカじゃないの」
途端、笑顔が花ひらく。彼の常闇の瞳に、ようやく光が差し込んだ。
あぁ、待ち望んでいたものがついに手の中に。愛想笑いじゃないそれは、俺が贈ったどんな花より綺麗で、可愛らしくて、魅力的だった。思わず、釘付けになる。
「笑っ……た?」
「久しぶりに。なんか、面白くて」
砕けた言葉遣いが、一気に空気を弛緩させる。硬い表情が柔らかくなり、幼い表情が目立った。本当の彼はこんな人だったんだ、可憐な素顔が露わになるようだ。
俺からすれば一世一代の告白だったのだが、彼は冗談としか思っていないらしい。良くも悪くも恋愛経験の豊富な人だろうから、俺の言葉は幼稚に感じたみたいだ。まるで、子供扱いされてるみたいで、少ししょぼくれる。
というか、YESなのか? NOなのか? 中々そこに触れてくれない彼がもどかしくなり、尋ねる。
「……あの、答えを聞いても?」
「今のプロポーズだったんですか」
「一応、そのつもりで」
彼はまた、くふくふと笑う。
あぁ、もう! 軽率にそんな……可愛らしいことしないでくれ、心臓に悪い。まるで劇薬じゃないか、想像だにしなかった痛みに、嬉しい悲鳴が胸で巻き起こる。
らっだぁさんは、目尻の垂れた瞳で俺を見つめた。にわかに、頬が赤らんでいるような気がする。
「後悔しませんか?ほとんど分かりませんよ、嬉しいも……愛してる、も」
「もちろん。分からないなら全部教えますから、任せてください」
今はただ、空っぽな貴方に、目一杯の花を。
少しでも笑えるように、泣けないのが悔やまれるほど悲しむことができるように。いつか絶対、俺がそうさせてあげるから。
だから、どうか。
らっだぁさんは、にこりと笑って口を開く。胸が、早鐘を打ち鳴らす。
埃1つない、素朴な花瓶に飾られたアイリスが、そうと揺れた。
お久しぶりです、らいむです。
ずいぶん前にもらっていたリクエストをようやく書き上げました。多忙ゆえ、またしばらくは投稿できませんのでご了承ください。
バース要素だいぶ薄くて申し訳ないです……また時間があれば別のストーリーを書くことも考えてますので気長にお待ち下さい。
余談ですが、皆さんは🌵さんが贈った花の意味に気付きましたか?🌵さんは知識が豊富な方なので、きっと花言葉にも気遣うだろうなと思い、色々と私も考えてみました。
青いカーネーションの花言葉は「無垢で深い愛」「永遠の幸福」、アイリスは「良い便り」「恋のメッセージ」「強い希望」です。
花言葉は全体的にロマンチックな言い回しが多くて素敵ですので、文字書きさんはぜひ作品に織り交ぜてみてください。
コメント
2件


本当に良かったです! またお時間がある時に 書いてくれたら嬉しいです✨😭 また楽しみにしてます😊