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## 第六章:喧騒のあと、狐の去り際
「……チッ、本当に跡形もなく消えやがったな、あの女」
屋上の扉が乱暴に開け放たれ、三途春千夜がまだ血の匂いを漂わせながら現れた。その後ろからは、ココや灰谷蘭、竜胆も気だるげに続いてくる。
遠藤の「処理」を終えた幹部たちは、首領の身を案じて屋上へ上がってきたのだ。だが、そこに天乃鈴の姿はなく、ただ夜風に吹かれるマイキーが一人佇んでいるだけだった。
「マイキー、本当にあの女を放っておいて良かったのか?」
ココが懐から高級な煙草を取り出し、火をつけながら尋ねる。
「『零の踊り子』の情報の価値は、俺たち裏の人間からすりゃあ国家予算並みだ。生かして囲い込むか、それが無理ならここで消しておくべきだったんじゃねぇのか」
マイキーは、手元に残された鈴の写真
を静かにポケットへと仕舞い、振り返った。その表情は、いつもの冷徹な首領の仮面に戻っているようでいて、どこか憑き物が落ちたような静けさがあった。
「あいつを縛ることは、誰にもできないさ」
マイキーは小さく首を振る。
「……それに、あいつは敵じゃない。今回は、遠藤の件を教えてくれた『恩人』だ」
「ハッ、恩人ねぇ」
蘭がフッと艶然とした笑みを浮かべ、自身の髪を弄りながら口を開いた。
「でもさぁ、あの『零の踊り子』ちゃん、噂通りの可愛さだったね。接客の距離が異様に近いって聞いてたけど、まさか春千夜の胸元にまで潜り込むとはね〜?」
「あァ!? 黙れ蘭、ぶち殺すぞ!!」
三途が顔を真っ赤にして怒号を上げる。至近距離で銃弾を避けられた挙句、翻弄されたのが余程プライドに障ったらしい。
「次会ったら、あのツインテールごと脳天ブチ抜いてやる……!」
「まぁまぁ。でも、彼女が置いていった証拠(データ)のおかげで、うちの資金繰りに致命的な穴が空く前にネズミを駆除できたんだ。情報屋としての腕は本物だよ。……癪だけどな」
竜胆が肩をすくめ、騒ぐ三途を宥めるように言った。
幹部たちが口々に鈴について語る中、マイキーは再び夜景へと視線を戻した。
(16歳の夏、あいつが消えてから、俺たちの時間は歪んでいった……)
あいつが「番号で呼ばれる施設」でどんな地獄を見て、どうやって弾丸を避けるほどの身体能力を身につけたのか、その詳細はわからない。けれど、鈴は今日、間違いなく自分の意志でマイキーの前に現れ、そして、かつての「友達」としての情を、その『情報』という形で示していったのだ。
数日後。
東京の喧騒から少し離れた、お洒落なオープンカフェ。
「う〜ん! ここのパンケーキ、やっぱり最高ですねぇ!」
鮮やかな紫と水色のツインテールを揺らしながら、天乃鈴は山盛りのホイップクリームが乗ったパンケーキを幸せそうに頬張っていた。
梵天を震撼させた『ユダ騒動』の張本人とは到底思えない、あまりにもフッ軽で無防備な姿。
彼女の手元にあるスマートフォンの画面が、ブルルと震える。画面に表示されたのは、また別の「お得意様」からの、新たな潜入依頼と莫大な報酬の提示だった。
「お、今度は海外の組織ですか? 忙しいですねぇ……。でも、対価はバッチリ。これなら、来週の新作スイーツ代も含めてお釣りが来ちゃいます!」
鈴は嬉しそうに端末をタップし、快諾の返信を送る。
ふと、彼女はフォークを止め、青く広がる空を見上げた。脳裏をよぎるのは、あの不器用で、孤独で、けれどどこか愛おしい、かつての友人・佐野万次郎の姿。
「万次郎くん、ちゃんとご飯食べてるかなぁ。相変わらずおチビさんだったし、少しは野菜も食べないとダメですよぅ」
クスッと天然っぽく一人で笑うと、彼女は残りのパンケーキを一口でパクリと平らげ、お会計を済ませて席を立った。
特定の組織には属さない。誰の所有物にもならない。
彼女は、対価さえ支払えばどんな闇の奥深くにでも現れ、そして風のように去っていく。
『零(ぜろ)の踊り子』——天乃鈴のダンスステージは、これからも裏社会という名の広大な舞台で、誰にも邪魔されることなく、気まぐれに続いていく。
コメント
1件
おお、第3話読了! マイキーたちが鈴を追って屋上に来た場面、めっちゃ緊張感あったな。でも「次会ったらブチ抜く!」ってキレてる三途と、それをなだめる竜胆のやり取りにちょっと笑ったわ。鈴が最後にパンケーキ食べながら「万次郎くん、野菜食べてるかな」って呟くシーン、ギャップ萌えがすごい。あの強さと天然さが同居してるの、たまらん。続きが気になる!
天乃 鈴!カンヒュ民!
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瑠奈
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瑠奈
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