< プロローグ >
01 . 星のような彼女は
単なる一つの質問なのだが。人は、人が突然頭上から落ちてきた時、どんな対応をするだろうか?驚くか?避けきれずに下敷きになるか?…じゃあ、少し質問文を変えよう。学校の階段、それも屋上に続く階段から落ちてきた場合、人はどうするのが正解なのか…いや、どう反応すればいいのだろうか?
何故急にこんなことを聞いたかって?それは_
「わああああ!?!??!えっえっえっ!?ちょっとそこの君!!危ないから避け_」
その問題の題材が、たった今起きたからだ。
「えっちょ…ぶつかるーーー!!!!」
瞳がバチッと合い、そして、スノーホワイトに似た色が、目の前を通過していく。 その光景は恐ろしい程静かで、まるで10分ぐらい、いや、30分程見ていたかのような感覚に包まれる。
気づけば私は手を伸ばして、彼女の背中に触れていた。両手で怪我をしないようにと抱き留め、数秒後顔を上げればすぐそこに整った顔があった。
アニメでしか見たことの無い、驚いたように小さくなった金青色の瞳がばっちりと私を掴んで離さない。
危機一髪で彼女を助けられた。手を引き抜いて離せば、すごい速度で一階の床へと叩きつけられそうな所を救うとは、我ながら英雄じみている。
「あ…えっと、ごめんなさい、今降ろしますから…ちょっと待ってください。」
目線に耐えきれなくなった私は、何段か上がった先の階段の踊り場へと向かい、両手にあった柔らかい重りを降ろした。瞬間、手には失いかけていた感覚が戻る。決して彼女が重かった訳では無いのだが、なにぶん私は人を抱える…いやこの場合は受け止めるか_という行為をこの数年、いやかなりの年数やっていなかった。その結果手の感覚を失いかけていただけであって、本当に彼女が重かった訳では無い…と、思う。
降ろした少女の方をよく見ると、私と同じ制服であるブレザー(といってもリボンは着いていない)、黄色の線が入った靴を着用している。
…まぁこの学校にいるのだから、当然と言えば当然である。だがこの学校は学年ごとに靴に入っている線の色が違う。一年が黄色、二年が青、三年が赤、と言った具合に。つまり目の前にいるのは、私と同級生である一年ということになる。
…でも今は7月上旬。 入学して約4ヶ月弱が経ちクラスメイトは勿論、同学年の人もそれなりに覚えた筈だが、こんな目立つ人はいたか?
「あ…君、藍華さん、だよね?助けてくれてありがとう!」
そう言うと彼女は立ち上がり、階段の端に座っていた私の手を握った。所謂握手にも近いこの行為に、一体どんな意味があるのか。ただ目の前に落ちてきた人を本能的に助けただけであって、そこに感情などない。ましてや、[この人を助けたい]などという慈悲の精神に満ち溢れた気持ちがあった訳でもない。本当になんでもないのだ。
…ん?待てよ。今気づいたが、この透き通るようか白髪ロングに海のような青眼…何処かで見た特徴だ。…あぁ、あれだ。[今話題の名探偵]だ。
自分の意思で思い出したが、やっぱり思い出したくなかった。本当に嫌なのだけれど。
つまり、私の感が正しければ、私は名探偵_確か名前は月華夜穹だったはず_を助けてしまったことになる。それは避けたい。なんとしてでも避けたい。面倒事に巻き込まれるのは流石に、というか本当に嫌だ。噂によると、この名探偵はかなり強引な性格らしいから。私はあくまでも普通の学校生活を送りたいだけだ。あの時いくら本能的とはいえ、手を伸ばしてしまった自分をぶん殴りたくなる。まぁ、まだ何をされるかなどは知らないし言われてないのだから希望はある。というかそう思いたいし信じたい。
「よし、…決めた!」
ついに喋りだした彼女_月華さんの目は星のように、いや、星以上に輝いていた。夏の青空にさんざめく太陽のような、真っ暗闇に照らすライトのような、そんな目だ。本当にそのぐらい煌めいている。髪も窓から入る日光で光り輝いていた。
天井から階段に光が差し込むように設置してあった黄色に光るステンドガラスが、色素の薄い月華さんの横髪を五角形に染める。白髪のミディアムはゆらゆらと揺蕩い、アニメでしか見たことの無いくるんとしたアホ毛が揺れる。薔薇のようないい香りが、風で揺れる度にこっちまで来る。 比喩にも程があると思うだろう。だが、これは紛れもない事実なのだ。彼女の深い青色の瞳は明らかに私を捉えていて、さっきの言葉も、それ以前の言葉も、全て私に向けた言葉だと実感する。何を決めたのかは知らないが。
でも、一つだけ分かる。名探偵サマが態々面と向かって(今キャッチしてしまったのだから当然と言えば当然だが)言うということは、即ちそれは重要であるということ。さて、次に月華さんはなんと言うのか。ちょっと楽しみであるが_
「ねぇ藍華さ…ううん、琉叶!」
前言撤回だ。全くもって楽しみではない。ん ???名前呼び…??…え???なにかの聞き間違いか??というかそうであって欲しいんだけど…??
苗字さん付けからの、下の名前呼び捨て。流石に距離を縮めるにも程があるんじゃないか。というか私名前教えてないんだけど。いや苗字も教えてないんだけど…もしかしてストーカー??
同性に対しても異性に対しても経験がない私だが、いくらなんでもこれは普通では無いと解る。
そもそも初対面でその呼び方をする人を初めて見たのだけれど。コミュ力ってすごいなぁ()。じゃなくて。初対面なんだけど、私と目の前の同級生は。おかしくない??え、揶揄ってる??
本当に初見か怖くなってくるレベルだ。
「私と相棒になってよ!」
異常なほど爛々としている声。意識して上がっているとしか思えない口角。そよ風に揺らめく髪。そんな月華さんから 次に発せられたその言葉は、完全に私の予想の上を容易く突っ切って行った。
「…は?」
…どうやら、私は超絶面倒事ルートから逃れられなかったらしい。
思わず漏れるその声は、今思い出せば感じたことない好奇心と興奮、高揚感を存分すぎる程に、贅沢すぎる程に孕んだ声だったと感じる。
窓から差し込む風が、応援してると言わんばかりに、元々涼しかった階段を更に涼しくさせた。
_こうして、彼女と私の物語は幕を開けた。
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