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「んあ〜おはよう。陽介」
「おはようございます。先輩」
大きくあくびをして月也はリビングに入ってくる。レポートがあると聞いていたので、
昨日は寝る時間が遅かったのだろう。
「陽介さ、昨日帰ってくるの遅かったな。帰ってくる前に寝ちまった」
「ああ…はい。実は色々トラブルがありまして…解決したから良いんですけど…」
トラブル。あまり好きで無い言葉だ。「日下」はトラブル解決役でもあるので、
嫌でも「日下」になってしまう。
「ここでも頼られるのな、日下陽介は」
その気持ちを察したかのように月也はクククと笑った。
陽介はそれを見て口をへの字に曲げる。
「…そのせいで昨日は帰ってくるの遅くなりました。ご飯は作り置きしていたので良かったんですけど…」
昨日は月也以上に遅い時間に眠りについたので、まだ眠いようだ。
陽介は小さくあくびをしてべっこう色の眼鏡をあげて目を擦る。
「もうちょい寝たら?」
「いえ、大丈夫です。それよりも、昨日遅かったので、朝ご飯は少し適当になってしまいましたが…」
そう言いながら陽介は机の上に朝ご飯を並べていく。朝ご飯はサンドイッチのようだ。
どこが適当なんだと思ってしまうほど、丁寧に一枚ずつマヨネーズを塗ってその上に
ハムや卵を挟められたサンドイッチだ。
「美味しそうじゃん。こういうのもアリだな」
カフェオレを啜って、ハムサンドを頬張る月也を見て陽介はつい顔をほろこばしてしまう。
朝食が終わり、陽介は皿を洗おうとキッチンへ向かう。
月也はふと、ソファーのそばに見慣れない物を見かけて、手に取る。
それを見るとカバーがつけられた本だった。カバーを外すと…
「…ん?」
カバーを外したそれを見るや否や月也は眉間にシワが寄る。
「どうしました?」
「…これ、陽介が買ったのか?」
月也の声がした方に振り返る陽介。
月也の手元には、ボーイズラブ…いわゆるBLの本があった。
「…ああ、それは昨日トラブルを起こした張本人からお詫びの品として貰いました。
恋愛漫画とのことですので、あまり興味はありませんね」
「お前なぁ…これどう言う気持ちで受け取ったんだよ?」
「…?昨日は眠かったので、内容見ていないんですよね。表紙も見れていませんし…
先輩、興味があるならお先にどうぞ」
「ええ…」
月也は同性愛に理解はあるにはあるが、実際に見たことは勿論、
それらをエンタメ化した物すら見たことはなかった。
だからか、好奇心でその本を開いてみた。
「…」
開いた1ページ目からいきなり眼鏡をかけた男が誰かに抱かれているシーンが出てくる。
眼鏡をかけた男はどうやら遊び癖があるようだ。
心なしか陽介に似ているような気がするのは気のせいだろう。
読み進めていくと、全身黒い服を着た男が出てきた。目に光がなく、
すぐに死にそうな見た目をしている。
この男をどこかで見たことがある気がするが、今はまだ分からなかった。
「…面白いですか?それ。読み終わったら先輩の書庫に置いてくださいね。
ここに置くスペースは無いので」
陽介は皿洗いをしているようだ。微妙に音程が外れた鼻歌を歌っている。
「ノーコメント」
内容を見ていないから陽介は月也の書庫に置けと言えるのだ。
もし、置いたら笑えるほど場違いだ。
「ノーコメントって…あとで読ませてくださいねそれ。あの先輩が珍しく恋愛漫画に興味持ってますし」
皿洗いが終わったようで、陽介は、
ほうじ茶が入った2つのカップを持って机の上に置いた。
「…これをくれた奴ってどんな奴?趣味は?」
もう読み終えたので、その本を陽介に手渡す。
「ええと…趣味ははっきりとは分からなかったんですよね。聞いてみても、え?趣味?えええええっとお………読書?って感じで曖昧でした」
趣味の質問にはっきり答えられない、もしくは読書って答えた奴は基本腐っているんだよな。
誰だったか忘れたが、誰かかそう言っていたのを月也は思い出す。
ああ、そういうことかと心の中で呟く。
「…まあ、とりあえず読んでみろよこれ」
「…え?あ、はい」
陽介は言われるがままに本を開く。すると、月也のように眉間にシワが寄る。
「…これって」
「ああ、これ男同士の恋愛漫画だな」
「そうですか…」
「それ以外にねぇだろ」
「…あ、この人先輩に似てますね」
「…は?」
そう言う陽介が開いているページはすぐに死にそうな目をした男が登場したところだった。
「…まさか」
「…?どうしました?」
「これをくれた奴は俺の事を知っているのか?」
「えっと…ああ、確かに写真を見せたことがあります」
「…なるほどなぁ。俺はこいつのこと陽介みたいだって思ったよ」
「……」
読み終えたようで陽介は本を閉じる。
「そんなに似てますかね」
「遊び癖ありそうなとことか?」
「ありません」
即答だったので、月也は思わず吹き出す。
「冗談だって」
「先輩こそ。その死にそうな目」
「それは否定できねぇな」
一瞬、目が合う。
何でもないはずなのに、さっき読んだ本のせいで、妙に意識してしまう。
陽介はわざとらしく咳払いをした。
「……まあ、漫画ですから」
「だな」
月也は無言で立ち上がる。
「お前さ」
「はい?」
「俺のこと、そういう目で見てねぇよな?」
「どんな目でしょう」
「……その、漫画みたいな」
陽介は一拍置いてから、ふっと笑った。
「先輩は先輩ですよ」
陽介が言った言葉に対して月也は、安心したような残念なようななんとも言えない気持ちになった。
だから
「……だよな」
とだけ呟いた。