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それから何度か休憩をはさみ、私とルイスはトキゴウ村に到着した。
その間、購入した弁当を食べた。
しかし、あれから特に会話はなく、私は持ってきた本を一冊読み終えてしまった。
私たちが馬車を降りると、用を終えた御者は早々に街へ帰ってゆく。
「……五年ぶりだ」
トキゴウ村と書かれた木製の門、村の周りをおおう柵。
馬車に乗っている間も、作物が実っている畑の光景が広がっていた。
外の空気を吸うと、街とは違う空気を感じる。
「まずは、村長に挨拶して荷物を置こうぜ」
「うん」
村に入るなり、ルイスは次の行動を私に伝える。
墓参りも五回目とあり、迷いがない。
私はルイスの後ろをついていった。
「お、ルイスじゃねえか!!」
「おっちゃん、一年ぶりだな」
「また、でっかくなったなあ」
村人の一人がルイスに声をかける。
ルイスはその人に挨拶を返し、一年ぶりの再会を喜んでいた。
私は二人のやり取りを黙って聞く。
(やっぱり、私のことは――)
たった一年しかいない、私のことなど村人は忘れているに違いない。
私がここに立っているというのに、ルイスとの話に夢中なのだから。
「話し込んでしまったなあ……、それでよ、お前の隣にいる綺麗な女の子はもしかして――」
ようやく村人の関心が私のほうにむいた。
「ああ。ロザリーだよ」
「おお! あの、ロザリーちゃんか!! べっぴんさんになったなあ」
「お久しぶりです。私、五年ぶりにルイスと共に帰ってきました」
私は服の裾を摘み、村人に一礼をする。
顔を上げると、彼はぽかんとしていた。
「ああ……、ご令嬢さまだなあと」
「えっ、その」
「ルイス、よかったなあ! で、どこまでいったんだ?」
「……どこまで、といいますと?」
「おっちゃん!! ロザリーに変なこと吹き込まないでくれ」
私は村人の問いに首を傾げた。
”どこまで”というのは一体何を指すのだろうかと。
詳細を聞く前に、ルイスに割り込まれその話題もうやむやになってしまったけど。
「ほら、俺とロザリーが帰ってきたこと、皆に伝えて来いよ」
「そうだな。こりゃ、からかいがいがあるぞって、言いふらしてこねえとな」
「……」
浮かれている村人とは対照的に、ルイスはふてくされた表情を浮かべていた。
頬がほんのり赤く染まっていることから、何かに照れているのだろう。
でも、それが何かは私には分からなかった。
「ロザリー、他の村人に茶化されないように、少し急ぐぞ」
ルイスは少し歩を速めて歩く。
先ほどの村人との会話がよほど堪えたらしい。
私はルイスの後ろを小走りで着いて行った。
☆
「ルイス、よく戻ったな」
「村長、ただいま戻りました」
「うむ、それで……、お前の隣にいるご令嬢は――」
「お久しぶりです、村長。五年前、トキゴウ村の孤児院でお世話になったロザリー・クラッセルと申します」
私とルイスはまず、村長宅を訪ねた。
村長はルイスの姿を見るなり、すぐに家の中へ迎い入れてくれた。
椅子に座り、使用人が注いだお茶がテーブルに置かれたところで、会話が始まる。
村長はルイスに簡単な挨拶をした後、先ほどの村人と同様、私に話しかける。
私は村長に自己紹介をした。
名乗った直後、村長も口をあんぐりと開け、何かに驚いている。
「ロザリー、美しい貴族令嬢に成長したな」
「ありがとうございます」
「ルイスも美しく成長したロザリーを妻に迎え、さぞ幸せなことだろう」
私の成長を褒めた後、とんでもないことを言い出した。
村長の一言で私は、皆が勘違いしていることに気づいた。
「村長っ!? ち、違います! 私とルイスは――」
「はて、婚約の段階だったか?」
「そうじゃなくてっ! 俺とロザリーはまだ交際していませんっ!!」
トキゴウ村の人たちは、私とルイスが結婚していると勘違いしているのだ。
一人で墓参りに来ていたルイスが、突然、女性を連れてきたら、結婚相手だと思い込んでしまうだろう。
すぐに私がルイスとの関係を否定しても、村長は勘違いしていた。
続いてルイスが関係を否定したことで、やっと村長は納得してくれた。
「ふむ、”まだ”恋人になっておらんのか。つまらんのう」
「……」
ルイスはまた黙り込んでしまった。
でも、今度はルイスが何に照れていたのか分かる。
周りが私を結婚相手だの、婚約者だの勘違いしていたことに、それを冷やかされていたことに照れていたのだ。
(慌てて口に出したから、意図は無いのだろうけど……)
私はルイスの『まだ、交際していません!!』という発言に引っ掛かった。
(いつか、私はルイスに交際を申し込まれるということ?)
ルイスと村長の会話が弾む中、私は一人、ルイスを意識していた。