テラーノベル
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タクシーで、ディナーを予約しているホテルへ着くと、リョーカはまた驚いた顔をしていた。
「ここ?ホントに?」
「そう、しかも最上階。」
「うそ…すご…。」
リョーカは自分の服装を改めて確認する。
「これ、ドレスコードとか大丈夫なやつ?」
「うん、スマートカジュアルでオッケーだって。ジーパンTシャツサンダルじゃなけりゃ大丈夫だよ。」
リョーカは黒を基調としたファッションだし、ジャケットも羽織っているので、ほっと胸を撫で下ろしたようだった。
ホテルの最上階に着き、緊張しながらも予約した旨を伝えると、お待ちしておりました、と席へと案内してもらえた。
テーブルには綺麗な花が添えられ、大きな窓から夜景が見えた。階段があり周りより少し低くなっていて、他からの視線を感じない、特別感のある席だった。
それぞれの席には、名前を書かれたメニュー表が置かれ、椅子を引かれて着席を促される。
リョーカも俺も、こんな雰囲気は初めてで、ガチガチに緊張していた。店員さんがいなくなった後、2人してふー、と緊張を逃すため息を吐いて、顔を見合わせて笑った。
「もう、わけわかんないくらい…おしゃれすぎて…。」
「わかる…めっちゃ緊張する…。」
お店では生演奏が行われているし、周りも気にせず会話をしているが、俺たちは何となく顔を近づけてヒソヒソと話してしまって、また笑ってしまった。
「飲み物、どうする?」
「んー、滉斗がお肉のコース頼んでくれてるから、赤ワインにしようかな。」
リョーカがメニュー表を確認して、スマートにお酒を決める。俺は、お酒無理かも…と焦る。
「最初に、スパークリングワインとか、シャンパンが出ると思うから、その後は普通のドリンクでいいんじゃないかな。」
「そう?お酒じゃなくていい?」
「こんなお店で、管巻かれても大変だしね。」
リョーカがふふっと笑って、俺の緊張をほぐしてくれる。
お店の人が、良い時間を見計らって、ドリンクの注文を聞きに来てくれた。リョーカは赤ワインの飲みやすいものを訊いて、それのグラスで、と注文した。俺は、ノンアルコールのカクテルを注文する。
「食前のシャンパンは、お出ししても大丈夫ですか?」
「あ、はい、それは飲めます!」
俺が元気よく答えたので、リョーカが吹き出す。お店の人は笑うことなく、かしこまりました、と下がって行った。
「滉斗、可愛すぎでしょ。」
「えへ、そう?」
程なくして、シャンパンと前菜が運ばれてきた。
「乾杯。」
「かんぱーい。」
リョーカが、シャンパンを飲んでいる前で、俺は匂いを嗅いで、おぉ…酒だ…と当たり前のことを呟いてしまった。すると、リョーカがスッと俺のシャンパンを手から奪う。
「え?」
「滉斗、これ苦手でしょ?せっかくいいお店なんだから、美味しいご飯だけを楽しもうよ。」
「…ありがとう………俺カッコ悪い?」
「ふふ、カッコいいよ。こんなに素敵なお店、ありがとう。」
リョーカが本気でそう言ってくれるので、俺の気持ちは沈むことはなかった。リョーカは優しい、本当に、大好き。
次々とご飯が運ばれ、ディズニーで歩き回った疲れが、癒やされていく。一つ一つの料理に、すごい、とリョーカが感動してくれるので、俺の喜びもひとしおだ。
「次が、最後だね。お腹はいっぱいだけど、なんかちょっと寂しいなぁ…。」
「そうだね。」
俺は、少しソワソワしながら、上の空で返事をしてしまった。
ふと、俺たちの席だけ照明が暗くなり、お店の人が火花を散らしたデザートプレートを運んできてくれた。
「え、これって…。」
「えへへ、サプライズってやつ?」
テーブルの真ん中に置かれたデザートのプレートには、
『I’ll always be by your side.』
と書かれている。俺が選んで、お願いした言葉。
『俺は、いつもリョーカのそばにいる。』
そういうメッセージだ。
リョーカが、口元を両手で押さえて、涙をこぼす。俺は、このサプライズもうまくいった、とホッとした。
「ずるいよ…こんな…カッコ良すぎるって…。」
涙を拭い、そう言ってくれるリョーカを見て、立ち上がる。俺は、最後にして最大のサプライズを、緊張した面持ちで決行する。
リョーカのそばに跪き、俺は昨日やっとの思いで手に入れた、プレゼントを両手に持って、リョーカの前へと差し出す。
「リョーカ。」
「…だめ、滉斗…。」
「ダメじゃない。聞いて。」
リョーカは次々と涙を溢れさせながら、首を横に振る。俺は想定内の反応に構わず、続ける。
「俺は、リョーカを愛しています。世界一、人生一、愛しています。」
プレゼントの箱を開け、人生で初めての言葉を口にする。
「だから、俺と、結婚してください。」
「ひ、滉斗…!」
リョーカが、俺の首に縋り付くように、抱きついた。
「…ばか、滉斗…ダメだよ…こんな…。」
「…だめ?」
「…滉斗のばかぁ…もう…もう〜…。」
リョーカが、お店の中ということを気にしているのか、何とか声を抑えて、嗚咽混じりに耳元で囁く。
「…こんなの、嬉しいに決まってるじゃん…断れるわけないでしょ…。」
はあ〜、と俺は安心した途端に力が抜けて、リョーカと抱き合ったまま尻もちをつく。
「ね、俺が指に嵌めてもいい?」
「うん。」
俺が左手を取ると、リョーカが慌てて手を引っ込めた。
「ごめん、流石にそれは…涼ちゃんと大森くんに悪すぎる…。」
「ん…わかった、じゃあこっち。」
元貴は事前に、それも構わないとは言ってくれていたものの、俺もちょっと申し訳なさがあったので、リョーカの気持ちを優先した。
右手にはめた指輪は、青い石がはまっている。
「キレイ…。滉斗の色だ。」
リョーカが、うっとりと右手を見つめる。
じゃん、と言って、俺も左手を差し出す。
「え?滉斗も?いつの間に?」
「これ、実はお揃いなんだ。見て、石の色。」
「黒…?」
「黒、リョーカ好きでしょ。黄色は涼ちゃんの色だし、黄色と青を混ぜて、ミセスの緑も良いかな〜と思ったけど、それよりも、リョーカは黒だよなぁって思いついて。どう?合ってる?」
「うん、俺、黒が好き、よく気づいたね。」
「それに、これ見て。ほら。」
俺が左手をゆらゆらと動かすと、黒い石の奥で、虹色に見える光がゆらめく。
「この、一見黒だけど、奥にいろんな光を秘めてる感じが、なんか最高にリョーカって感じがして、一発で気に入ったんだ。」
「あ、これも、奥に虹色の光がある。」
リョーカも、自分の青い石をゆらゆらと揺らす。
「俺と、リョーカの中にある気持ちは、一緒ってこと。」
「うん…すごい、素敵…ありがとう。」
リョーカは、真っ直ぐに俺を見つめて、素直に喜びを伝えてくれた。またリョーカが俺に気を遣って、形あるものは受け取れない、と言われたらどうしようと、すごく緊張していた。俺は、リョーカの両手を持って、立ち上がらせる。
「さ、デザート食べよ、せっかくの記念プレートなんだから。」
「うん、そうだね。」
俺たちは、鏡のように同じ手に指輪をはめて、これもなんか良いな、と思いながら、デザートを味わった。
お店を出る時に、無事にうまくいきました、ありがとうございました、と伝えると、お幸せに、と店員さんたちが深々と頭を下げて見送ってくれた。リョーカも、きちんと全員に向けて、頭を下げて、ありがとうございました、と伝えていた。
エレベーターに乗り込み、ロビーのボタンを押そうとするリョーカを静止して、俺はある階のボタンを押した。リョーカは光っている階数ボタンと、横にある階案内パネルを見て、驚いたように俺の顔を見た。
そうだよ、俺たちは今からそこに行くんだよ、と心の中で返事をして、俺は微笑み返した。
エレベーターが到着を知らせ、扉が開く。そこには、1人のスタッフさんが立っており、お待ちしておりました、と挨拶をしてくれた。
荘厳な彫り細工が施された、茶色の大きな観音開きの扉の前に、俺とリョーカが並んで立つ。
俺は、肘を曲げて、リョーカの前に差し出す。
「滉斗…。」
「ん。腕、組んで。」
リョーカは、静かに俺の右腕に、左手を通した。スタッフさんがインカムで誰かにそっと指示を送ると、目の前の扉が開かれた。
そこには、赤絨毯がしかれ、まっすぐに祭壇へと伸びていた。両脇の参列席には、誰1人座っていない。神父さんも牧師さんもいない。これは、俺とリョーカだけの、結婚式だ。
そう、ここは、ホテル内にある結婚式場。リョーカは、エレベーター内の案内板で、全てを察知したようだった。驚くことなく、静かに、受け入れてくれている。
音楽が鳴ることもなく、静かに、2人のタイミングで、ゆっくりと歩みを進める。誰にも見られていないのに、妙に緊張が走る。
「…本当は、元貴くらいには来てもらおうかなってちょっと思ったんだけどさ、流石に…。」
「そうだね…俺たち、彼に甘えすぎだよね…。」
祭壇の前に着くと、俺とリョーカは向き合って立った。
「…やべ、こういうのって、なんて言うんだろ…そこ調べてくんの忘れてた…。」
リョーカが、俺の両手をそっと手に取り、すう、と息を吸った。
「…俺、リョーカは、病める時も、健やかなる時も、若井滉斗を、心から愛することを、誓います…。」
俺は、目を見開いて、リョーカを見つめる。とても優しい笑顔で、俺を真っ直ぐに見つめてくれている。俺は、目から涙が溢れるのを止められなかった。
「…お、俺、若井滉斗、は、う…リョーカを…リョーカを、こ、心から…愛しています!!」
嗚咽混じりだし、なんて言ってるかわかんないし、リョーカの言葉と全然違うけど、とにかく俺は言い切って、リョーカに抱きついた。リョーカは、俺の背中をポンポンと優しく叩く。
「ありがとう、滉斗。滉斗の全部を俺にくれて。俺、こんなに愛してもらって、もうごめんなんて思わないよ。言わないよ。本当にありがとう。大好きだよ、本当に。心から愛してる。」
リョーカが、惜しみなく、俺への愛を伝えてくれる。もう、消えてしまう後ろめたさや、後に残す俺への申し訳なさなど、微塵も感じさせない。
「リョーカ、ずっと、ずっと、ずーっと、愛してる。」
リョーカは、うん、と頷いて、俺のキスを受け入れてくれた。
俺たちは、涙を流しながら、時間いっぱいまで、ずっと抱きしめ合っていた。
リョーカが、俺からのプレゼントを全て受け取ってくれたことに、俺は心底安心していた。
しかし、俺たちの永遠の、終わりの時は確実に近づいていた。
コメント
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あとがき 書き進める間に、勝手にここまで動いてしまった感じで、ここまでやるか…と自分でも不思議な感じです。 次回は、かなりかなり🔞になっています、苦手な方は申し訳ありません🙇🏻♀️💦
本当に涙なくしては読めませんでした🥹💙💛 心から、結婚おめでとう🎉と伝えたいです🫶