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#ワンナイトラブ
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カンカンカンカン——
永遠にリピートする
単調な踏切の音
その音に導かれ
歩を進める
ぼんやりとした靄の中
朦朧とする意識の中
「……」
突然
目の前が
眩いばかりの光に包まれた
ブァーーー!!
と同時に鳴り響く
けたたましい電車のクラクション
次の瞬間
体に強い衝撃が走る
ドンッ!!
「——!?」
その衝撃に
ハッと我に帰る
気付けば
大きな体躯の男性に抱えられ
私達は
そのまま地面に転がった
「ハァハァハァ……大丈夫?」
「……」
何が起こったのか
全く把握できず
目を大きく見開き
口を開けたまま
男性の顔を凝視する
その男性は
知っている人
社長だった
「……」
ゆっくりと
少しづつ
視界が戻り
意識が戻り
気付くと
私達は踏切の中で倒れていた
「危ないから取りあえず外に出よう」
社長に手を引かれ
体を引き起こされ
肩を借りながら踏切の外へと出る
徐々に回復する意識と共に
朧気ながら
しでかしてしまった事態を把握した
気付けば降り出した小雨の中
私は
社長の胸の中で
人目もはばからず
大声を上げて泣いてしまった
この日恐らく私は
一生分の涙を流した
今まで泣いた事などなかった
今まで感情が欠落してると思っていた
感情に蓋をして
これまで堪え続けた涙は
止まらなかった
何分経っただろう
何時間経っただろう
体の水分が枯れ果てるまで
私は
一生分の涙を流した
社長は
何も言わずに
ただただ
ずっと
永遠に
抱きしめてくれた——
***
路肩に停めてあった車で
社長は家まで送ってくれた
私は上手く話せず
社長は何も聞かなかった
別れ際彼は
車内で
私をきつく抱きしめた
伝わる彼の体温
落ち着く彼の匂い
枯れ果てたはずの涙が潤み
私を
安らぎと
安心感に満たしてくれた
***
「おかえり、遅かったね」
家に帰ると
既に夫は帰宅していた
嫌味たらしく
今日に限って話しかけてくる
「ごめんね、今日忙しくって」
「濡れてんじゃん、傘持ってなかったの?」
「うん……ところで夕飯食べた?」
「遅いからもう外で食べたよ」
「……ごめんね」
ありふれた日常に
色彩なき現実に
一気に引き戻される
あれは一時の気の迷い
現実は現実
何も変わるはずもなかった
泣き腫らした
浮腫んだ顔を隠すように
私はそのまま洗面所へ向かった
熱いシャワーを浴びながら
熱い彼の体温を思い起こしていた
何故社長はあの場にいたのだろう?
偶然?
それにしては彼の振る舞いは
私の心情を理解しているように思えた
不思議な人
不思議な出来事
まるでファンタジーのようだ
私は命に嫌われている
生きる意味など見出せず
自分を肯定できずにいる
やらかしてしまった……
突然の社長との邂逅
思い出すと
高鳴る胸の鼓動
理解できずにもやもやする心
(今度会ったら社長に謝ろう……)
今はそう結論付けた
***
……
一面漆黒の闇
遠くに灯る朧げな月光
「あぁ……またこの夢だ」
幼少期から見続けている悪夢
しかし
狼の遠吠えは聞こえない
恐怖心もない
あるのは
誰かの気配
伝わる体温
伝わる鼓動
仄かな人の匂い
辺りは一面の漆黒
でもわかる
安心感に包まれている
私の細胞が
私のDNAが
そう言っている
激動だった一日
泣き疲れたからか
安心感に包まれた私は
そのまま深い眠りについた
***
色々あった昨日
激動だった一日
それでも地球は
何事も無かったかのように
今日も回る
朝になれば日が昇り
刻まれたプログラムに従い
私は会社へ出勤する
色々ありすぎて落ち着かなかった
でもそれは私だけ
会社は
何事も無かったかのように
今日も回る
「ねえ、カジュアルミーティングどうだった?」
今日のランチ女子会のお題は
喫緊の経営陣とのカジュアルミーティング
最近のホットトレンド
「んー……普通?何か想像通りって感じだったかな」
午前に終えたばかりの神崎さんはそう振り返った
「意外に役員みんなフレンドリーだったよ」
「でもさ、目的があって組まれてる以上向こうの意図を察しちゃうじゃん。どこか探り合いみたいな」
「上のオッサン連中は案の定ごますりしてたよ、あんな文句言ってたクセに」
どこも同じようなものだった
自分の立場を守りたい
あわよくば
自分の印象を良くしたい
自分をアピールしたい
「で、神崎さんは何か言ってやったの?」
「言ってないけど……もっと言えよって思ってただけ」
「じゃ一緒じゃん。でもまあ言い難いよね実際、カジュアルとは言ってもさ」
日本人の性格上
無難な対応に走るのだろう
「文句はともかく意見は言ったほうが良いかもよ」
ここで人事部の小山田さんが口を開く
「これから変わるよ」