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「ふえっ!?」(今の何!?)
パフィに抱かれて泣いていたアリエッタが、絶叫に驚いて振り向いた。そのまま、あまりにも変態過ぎる真剣白刃取りモドキを見て、目を点にして動きを止めた。
「……はへ?」
「ああっ、見ちゃ駄目なのよ~」
パフィが慌ててアリエッタの目を覆うが、既にバッチリ見てしまっている。
(えっ、てりあって、あんなプレイが好きなの? それともお笑い芸人でもやってるの?)
王女に対してとんでもない誤解が生まれた瞬間である。
その王女が、さらなる危機に見舞われていた。
「おおおおああああやだやだパルミラ押さないでえええええええ!!」
「もういやあああどっかいって潰れてええええ!」
「うおおおっ、なかなかやるねぇっ……」
錯乱中のパルミラが、ネフテリアをそのままケインに全力で押し付けているのだ。それによって至近距離にあるケインの生暖かいアレが、さらにジワジワとネフテリアの顔へと迫っていく。
なんとか限界まで顔を引き、ケインとの距離を空けようとするが、全身を固定されているので、ほぼ無駄な努力である。
押し付けられているケインも、流石にその痛みは望んでいない為、不敵な笑みを浮かべつつも焦っている。難しい体勢で力を入れづらいのだが、下手に動くと本当に潰されかねない。
「んー! んんーーっ!」(ちょっとシス助けなさいよっ! なんで傍観してるのよおおおっ!)
もうネフテリアは口を開く余裕すら無い。下手に叫んでいる時に、ケインが力負けをしてしまったら…と、嫌な想像をしてしまったのだ。唸りながら涙目でオスルェンシスを睨んでいる。
「ぬうぅぅぅ……」
(がんばれ変質者! パルミラなんかに負けないで! 負けたらぶっ飛ばす! 無事助かったらパルミラの代わりに潰すから!)
もう目の前のモノに対しては、殺意しかないようだ。
「す、すまねぇな王女サマ。流石にこのままってのは難しいようだ……」
力を入れ続けるのが難しい体勢が、そう長く続くわけが無い。ケインの謝罪を聞いたネフテリアの顔が、絶望に染まっていった。
流石に見かねたオスルェンシスが、パルミラの根元に駆けつけ、殴りつけた。
ガンガンッ
「いたっ」
「パルミラ、落ち着いてください。ネフテリア様が色々と危険ですから」
「シスさん?」
声をかけられたパルミラは我に返り、長い形状のまま力を緩めた。
そして、そんなチャンスをケインが見逃す筈が無い。
「いまだっ」
「!?」
ガニ股の足の裏でパルミラを抑えていた状態から、一気に足全体を閉じ、太腿でネフテリアの顔付近を挟み込んで固定した。
「っしゃ、これなら力比べで負けるこたぁねぇ」
そう、力を込めやすい体勢に持ち込んだ事で、それ以上押し込まれる事は無いだろう。それだけの筋力の持ち主ではあるのだ。
しかし、受け止めるタイミングは微妙に失敗していたようだ。
「んん゛ん゛ん゛ん゛ん゛~~~~!!」(はなぁっ! いやあああ鼻についてるううううう!! なまぬるううううううう!!)
ちょっぴり鼻先がめり込んでいた。哀れなり。
だが、全身に力を込める事に集中しているケインは、その状態に気づかないまま、下半身を捻ってパルミラを横に倒した。
「おらあっ!」
「ほぎゃああっ!?」
「んおっ」
その勢いのまま足を離し、パルミラとネフテリアを投げ飛ばす。その方向には、知ってか知らずか、マシュマロになったヴェリーエッターの残骸があった。
柔らかい物に突っ込んだとはいえ、思いっきり飛ばされたパルミラは目を回して気絶し、パルミラに包まれたままのネフテリアは真っ白になって放心していた。
『………………』
余りの惨事に、一同沈黙である。
その中で、パフィの指の間から、ジッとその成り行きを見ていたアリエッタ。一旦泣いたお陰で、すっかり冷静になっていたようだ。
(てりあが投げられた? ってことは、あの変態はやっぱり悪者か? いやそもそも良い変態っているのか?)
女装筋肉男について考えていた。そして、色々迷った結果……
(よし、あの変態は悪い奴! …ってことにしとこう! そもそもそんな男をみゅーぜ達に近づけたくない!)
とりあえず、悪と決めつける事にしたようだ。
(そ、それに、頼りになる所を見せたら、彼氏として認めてもらえるかもしれないし……)
彼氏って…今のアナタは女ですよ?
ともあれ、再びやる気になったアリエッタ。ケインをやっつける事が出来る方法がないか、周りを見渡し始めた。
「どうしたのよ? お腹空いたのよ?」
(あ、ぱひー……ん?)
パフィに声をかけられ見上げたが、訝し気に眉をひそめた。
(ぱひーって、こんな感じだっけ? 何か……)
「……どうしたのよ? アリエッタに見られると照れるのよ」
「ナニいってるんだ。そーゆーカオじゃないとおもうが」
顔を赤らめるパフィだったが、アリエッタの視線は顔よりも上に向かっていた。
「あっ!」
「なになにどうしたのよ? ちょっとアリエッタ!? そんな大胆なのはもっとちゃんとした寝室で……」
「そうじゃないだろ! アリエッタはまだコドモだぞ!」
そしてアリエッタは、真剣な顔でパフィによじ登り始めた。
満面の笑顔でそれを受け入れるパフィ。ちょっと涎が垂れているが。登らなくていいように身を屈めると、アリエッタはパフィの顔に抱き着く形で頭に手を突っ込んだ。
パフィはというと、アリエッタの胸に顔を埋め、息を荒げている。
「ハーハー♡ たまらんのよぉ~」
「やめんかキモチワルイ!」
「いい匂いなのよ。総長もどうなのよ?」
「するかっ」
アリエッタ専門の変態になろうとしているようにしか見えない。しかし、そんなやり取りも、密着中のアリエッタは気づいていない。パフィの頭に意識を集中しているようだ。
(ごめんぱひー。後でいっぱい謝るよ。絵ですごく綺麗に描いてみせるから、嫌いにならないでね?)
心の中で謝罪し、改めてパフィの首に手を回し、しっかりと抱き着いた。
抱き着かれたパフィは心底幸せそうである。そしてそのまま、空へと浮かび上がった。
『…………え゛?』
その場にいた全員が唖然として、やたらと嬉しそうなパフィを見上げていた。
「はぁぁ……幸せ過ぎてふわふわするのよ。飛んでるみたいなのよ」
「いや本当に飛んでるん! 何してるんアリエッタちゃん!」
シャービットは理解していた。原因はアリエッタであると。
──数日前のアリエッタの精神世界にて。
『この木の使い方はね、本当になんでもいいのよ』
『そんなアバウトな……』
『本当よー。実は食べて美味しいし、幹も根も使えるんだからっ』
アリエッタはエルツァーレマイアから、例の7色の葉を持つ木の使い方を教えてもらっていた。
『この樹液はね、液体とかに少し混ぜると、混ぜた物が増量するの。個体は大きくなったりするけど』
『なにそれ凄い……食費とかで役に立ちそう』
『……ま、まぁそれもあるけど、色々便利だと思うわよ?』
こうして木の講習は続き、7色の葉の話へと移行する。
娘に向けて得意気に話す女神。以前から自分の力を自慢したかったのかもしれない。
『橙色は硬さの色よ』
『硬さ? 硬くなるって事?』
『それもあるけど、柔らかくも出来るわよ』
『あ、だから『硬さ』か』
葉の色の効能は、エルツァーレマイアの色の力と同じものである。その能力は1色につき1種類だけだが、プラス方面にもマイナス方面にも自由に設定出来るようだ。それは概念の操作とも言える。
『今度はこの青。この青い葉は私の青の力が含まれているわ。重さを変化させる力を持っているの』
『重さ……とにかく重くなるって事?』
『もちろんそれも出来るけど、重さを自由に変えられるのが特徴よ。当然軽くも出来るわ』
『なるほどー……って事は……』
アリエッタはふと思いついた事を尋ねた。そしてエルツァーレマイアは、にま~っと笑みを浮かべ……──
(重さが変えられるってことは、空気よりも軽く出来る! 空だって飛べるんだ!)
下を振り返り、得意気にケインを見下ろすアリエッタ。なんと、パフィの頭にすっかり馴染んでいる青白いメレンゲを使い、パフィを軽くしたのである。
近くでパフィの頭を見た時、ピンクと緑と青の3色アフロになっている事に気づいたのだ。何故誰も今まで気づかなかったのだろうか。いや、ピアーニャだけは気づいていたが。
そんなアリエッタが体勢が不安定な事に気づき、パフィの耳元で囁いた。
「ぱひー、だっこ」
「ハヴァっ!?」
パフィにとって余りにも魅力的過ぎたその囁きは、2人の下に血の雨を降らすのには十分な威力だった。
「パフィ汚いの! そんな所で興奮しちゃダメなの!」
「ああ、ネフテリアさまが邪なる血に染まってゆく。鮮血の姫君の目覚めは、激しきものとなりそうだ……」
ラッチが言葉だけ難しい事を言っているが、要するに起きた時が怖そうという事である。
「ん? はいなのよ~。抱っこなんか何処でもしてあげるのよ~うふふ~」(なんか浮いてるけど、そんな事どうでも良いのよ)
自分が浮かんでいる事に一瞬疑問を持ったが、アリエッタを抱きしめる方がずっと大事なパフィにとっては些細な事であった。
空中で体勢を立て直し、パフィの腕の中にすっぽり収まったアリエッタは、殺る気に満ちた顔になって筆を握った。しかし、全く怖くない。むしろ下にいる人達には可愛いとさえ思われている。
「おいおい、そんな熱い目で見つめるなよ……ちびっこじゃなかったら変な気持ちになるところだったぜ」
「あの人変態だけど、随分健全ですよね……」
「まぁいちおう、ケイビタイチョウらしいからな」
「……人材不足ですか?」
「ちがうだろ、タブン」
人を使うピアーニャや、人に仕えるアデルは、その人となりがなんとなく気になり、ちょっぴりヨークスフィルンの現状を心配していた。
そのヨークスフィルンは現在も大部分が復興中で、警備隊は忙しい。ケインとコーアンはその気分転換にファナリアにやってきたのである。
「まったく、ちょっと買い物に来ただけってのに、どうしてこうなるんだろうな」
元々トラブルに巻き込まれる予定の無かったケインは、ちょっと困った顔で、自分を睨みつけるアリエッタを見上げるのだった。