本編どうぞ
放課後の学校は,静かだ。
開け放たれた窓から,生暖かい風が校舎の中に吹き抜ける。段々季節は秋に近付いていて,放課後になると,早くも日差しはオレンジ色を帯びてくる。その光はガラスを通して,木造の校舎をやわらかくオレンジ色に包み込む。
誰も居ない廊下は,寂しい。昼の活気が,まだ壁に染み込んでいる。二人だけの廊下なのに,何処かから笑い声でも聴こえて来てしまいそうだ。
「俺達の教室は古い校舎にあるからさ,ボロくて嫌なんだよな」
「確かに,向こうの校舎は綺麗ですね」
「階段も急なんだよ」
日本は,その急な階段を一生懸命に上っていた。
「きついだろ」
「きついです…」
「はは,すぐ慣れるよ,ほら」
助けてやりたかったのか,手伝うつもりだったのか,手を伸ばしてみると,日本は躊躇い無くその手をとった。
「アメリカさん達は凄いですね,毎日こんなのを上り下りして…」
「そんなでも無いけどなぁ…」
自分で手を伸ばしておきながら,気恥ずかしい。振りほどいてしまおうか,とも考えたが,想像よりも強く掴まれていたようで,それは叶わなかった。
ガラス張りの渡り廊下は,古い校舎と新しい校舎を繋ぐ橋のような存在だった。
「校庭が眺められるし,夕焼けが見れるから良い場所だぜ」
「わぁ,綺麗ですね…」
「だろー」
どっちかと言うと夕日より,夕日に照らされる日本を見ながら少し歩くと,お次は理科室。
「ここが俺らがいつも使ってる理科室。今日の朝も来た所だけど,覚えてるか?」
「はい,色んな道具があって面白そうでした!」
「それは良かった。じゃー入るか」
「え?」
ガラッ
理解が追い付かない,という顔をしている日本を,次は差し伸べるのでは無く,腕を掴んで理科室の中に引きずり込んだ。
「な,何してるんですか…!?」
「何って,探検」
「勝手に入ったら…!」
「怒られる訳無いだろ~」
静まり返った理科室。誰かが止めきれていなかったのだろう,水道から水滴がぽつりと滴り落ち,静寂の中に僅かな音を落とす。
夕日に空気中の塵が反射して,キラキラと舞い降りていった。
「見ろよ,人体模型も蛙のホルマリン漬けもある」
「…完璧すぎる理科室です」
「はは,怪談とかに出てきそうな理科室だよな」
「怖くないんですか?」
「…怖いの?」
わざと疑問系で返してやると,日本は拗ねたのか,それきり口を利かなくなってしまった。内心,大笑いしていたのは,口が裂けても言えない。
(反応に飽きないなぁ…)
理科室をぐるりと一周した後,もう拗ねていたことを忘れてしまった日本の手を引いて,音楽室に向かった。勿論音楽室もいくつかあったが,その中でも一番大きくて立派な所に連れて行った。
「うわぁ…」
「凄いだろ~」
一番大きな音楽室は,ちょっとしたホールに変わり無かった。
「凄いです…!本当にただの音楽室なんですか…!?」
「ただの豪華な音楽室かなー」
「何ですかそれ…」
苦笑する日本。そういえば,日本は随分表情豊かだ。
「あ,アメリカさん!グランドピアノがあります!高いやつ!」
「へぇ,高いの?」
「高いですよ!こんな高価なのが学校に置いてあるなんて…」
「…詳しいな,弾けるのか?」
冗談半分で言ったつもりだったけど,返ってきたのは予想外の言葉だった。
「…一応」
「え」
「少ししか弾けませんよ…」
「聞きたい」
「でも,下手ですし」
「俺の方が下手だって,てか弾けないし」
何度も聞きたい聞きたいとごねると,日本は渋々了承してくれた。
日本はピアノ付属の椅子に腰掛けると,慣れた手付きで高さを調整し始めた。ぴんと背筋を伸ばした日本は,こうしてみるとかなり…かっこ良かった。
突然,俺の中に音が入って来た。
あまりにも自然で,柔らかい。…何で言えばいいんだろう?零れると言うか,水滴みたいな透明…
…駄目だ,言葉じゃ表せない。考えるぐらいなら,この音に耳を傾けていたい。それ程までに,綺麗だ。
気付けば,演奏は終わっていた。
…聞き入って,いたのだろうか。ピアノの演奏を綺麗だなんて思ったのは,初めてだ。
「全然,下手じゃ無いじゃんか」
「…下手ですよ」
「そうかぁ…素人には全然,分かんないな」
でも,多分日本の演奏は,誰が聞いても上手かったんだと思う。だって,俺がそうだったんだから。
「何て言う曲なの」
「…ええと,随分昔に暗譜したものなので…よく覚えてません…」
「暗譜…って,なに?」
「曲の楽譜を暗記する事です」
「全部覚えたのかよ…?」
俺は驚きが隠せなかったけど,まだ可愛い方らしい。
「もう一回弾いてよ」
「…もう弾きません」
日本は早くも椅子の高さを戻して,さぁ次に行きましょうと言わんばかりに俺の腕を掴んだ。どうやら本当にこれ以上弾く気は無いみたいだ。
「はいはい…」
美術室。一つしか無いけど,その分大きくて色々な物が揃っていた。
「ここも,広いですね」
「一つしか無いからな」
「色んな物が置いてあります」
「素直に散らかってるって言えよ」
そう,美術室は散らかっているのだ。
教卓の上には画材やら資料やらが散乱しており,床や壁には所々刃物の痕や絵の具が付いていた。その上,机には生徒の作品や教科書,忘れ物などが置き去りにされる始末。
「まぁ一つしか無いんだから仕方無いよなー」
「…それは言い訳になるんですか」
「や,ならないけど」
「えぇ…」
たわいもない無い会話が続いた。
(…楽しい)
気付けば随分と日が傾いていて,校舎内はオレンジに染まっていた。
「まだ時間大丈夫?」
「はい,大丈夫です」
「じゃ,急いで全部回るぞー!」
全部,という言葉に少々焦っている日本を引きずって階段を下りる。
今更帰るとか言っても,帰してやんない。
_____長くするつもりが凄く短くなってしまいました…。次回は絶対長く書きます。4000字ぐらいは書けるといいなーと。今回は学校に必要な施設ざーっと紹介して次回で大切な施設を紹介する予定だったので。新キャラ(国)も出す予定です。
時間が無いので後書きはここで終わり!
ここまで読んで下さりありがとうございました!






