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『人生何が起こるかわからないから、
今を楽しむんだよ。』
凛花が言っていた言葉を思い出した。
一体、どういうつもりであの言葉を
かけたんだろう。
なぜあのタイミングで、本当にわからない。
でもその言葉は聞き覚えがあって、それはすごく懐かしいものに聞こえる。
そしてなぜ、今このタイミングで思い出したのかも全くわからない。わからないことだらけだ。
蝉のつんざくような音色が響いている中、
それをかき消すような声が耳に届いた。
「ちょっと無視しないでよー!」
「…ああごめんなさい」
この目の前にいる白いワンピースの少女、
見た感じ年は同じくらいだろうか。
黒くて綺麗なロングが似合う髪の持ち主で
整いながらもどこか儚げを感じる顔、
…そして無性に感じる
思い出したくない
苦しいような懐かしさ。
「敬語やめよう?あとね!」
でも、この懐かしさは
「私、君のこと好きだよ。」
思い出さなければ行けない気がする。
「告白の返事まだー?」
真夏の陽射しが照りつけるあぜ道、
こんな会話が展開し続けていた。
彼女の名前は 涼音 というらしい。
すごく整った顔立ちで白いワンピースが
良く似合う黒髪の女の子。
「無理だって言ってるじゃないですか…」
俺は周哉。現在夏休みで7年前に引越した生まれ故郷に今戻ってきている。
そんな地で俺はこの女の子に告白をされた。
「えーなんでよ〜」
「初対面で告白は怖いでしょ普通…」
この人が一体どんな考えをして自分に
告白してきたのかもわからない。
もしかしてどんな男にもこうやって
声をかけてるやつなのか、
それすらわからない。
ただただ少しの恐怖を感じている。
ただ少し、顔が熱い。
「ちょっと私のこと警戒してない…?」
「それは…だいぶ」
「やっぱり!」
初対面じゃないのにな…
「…何か言いましたか?」
「…まだ君には言わなくていいや」
「? そうですか」
さっきまで勢いよく話してたのに急にしんみりとした雰囲気を出されると困る。
沈黙が気まずい。
「そ、それじゃとりあえず警戒が打ち解けるように『愛してるゲーム』でもしない!?」
「しないです」
「なんで!?」
「なんで初対面の人と愛してるって言い合わないといけないんですか」
「そういうノリ?」
「…っていうかなんで僕の名前知ってるんですか」
「…なんでだろうね」
たまにこの思いにふけるような顔をするのが
すごく儚さを感じる。
本当になんなんだろう。この人は。
「それじゃ、まず私から行くね!愛してる!」
「…」
「あれなんで全然照れてない!」
「さすがに照れないですよ…もういいですか?」
「まだ!周哉くんからの愛してる聞けてないもん」
「…僕は愛してるって言葉を言う相手は
一人って決めてるんですよ」
あれ。おかしい。
その相手は誰だろう。
誰が相手かもわからないのに、
こんな言葉が自然に出てきた。
頭が痛くなってきた。すごく痛い。
ぼやけて見えない誰かが浮かぶたびに
頭が痛い。痛い。
「大丈夫?」
「…大丈夫です」
最近の頭痛の中では一番きついものだった。
やはり自分の頭の中で何かを投影しようと
しているのが自分でもわかった。
(…今は思い出せなくていいや)
「…周哉くんがそんなになるくらい好きな子って誰なんだろうねー」
「思い出していいのかもわからないんです。思い出したら全て壊れそうな気がして…」
「…ふーん」
「ねぇ、周哉くんにお願いしたいことがあるの」
「…なに?」
「私、この夏休みに
いっぱい君と思い出作りたい。」
すごくドキっとさせられた。
心臓が鼓動を加速させているのを感じる。
「…僕でいいんですか」
「…君とがいいんだよ」
この人の考えてることは本当にわからない。
でもさっきまであんなに怖がってたのにもう
今になったら受け入れてる自分も怖い。
「…僕もここでやることないんで
いいですよ」
「ほんと!?やったー!」
すごく見ていてドキドキする。
でもこんな感覚以前もあったような…
「じゃあ、私今日は帰るね!
また明日ね!」
元気に手を振って走っていく彼女。
すごく笑顔でどこか顔に赤みを帯びている。
「あ、あと」
「…思い出せるといいね、好きな人」
そう言って去っていった。
「…ただいま」
「おかえりなさい、どこ行ってたの?」
「近くの近所で、ある女の子が町案内をしてく れて」
「…女の子?」
母はすごく驚いたような顔をしている。
そんなに女の子といることに驚くとは
失礼な話だ。
「うん、名前は…」
「名前は?」
「…忘れた」
嘘だ。覚えてる。でもなぜか名前を伝えては
行けない気がした。本当になぜだかわからない。でも全てが終わる気がした。
それが怖かったから伝えれなかった。
「…そう、夕飯できてるから食べてお風呂入ったら寝ちゃいなさい」
「おばあちゃんは?」
「今近所の人に会いに行ってる」
そっか。とだけ伝えて僕は夕飯を食べて寝床に向かった。父はもう先に寝ていていびきをかきながら寝言まで嘆く最悪の寝方をしている。
その横に苦痛を感じながらも布団を敷いて
僕も眠りについた。
『私、君のこと好きだよ。』
その言葉を思い出すたびに顔が熱くなる。
(…明日も会えるのかな)
ウーンウーンウーンウーン
サイレンが町に鳴り響く。
地面はところどころ割れていて、
電柱は倒れている。
山から轟音が響き、土煙を
たたせている。
僕は走っていた。
隣で泣いている子の手を引きながら。
ただひたすらと。
ザバーンザバーンザバーン
ここは町の中なのになぜか
波の音が聞こえる。
おかしい。
背後から聞こえるその波から
必死に逃げていた。
その時、隣の少女から悲痛な声が聞こえた。
足を捻ってしまったらしい。
『私のことは…もういいから逃げて!!』
『置いていくわけないだろ!?』
助けなきゃ。
助けたい。
この子がいないと僕は。
『もうダメだ…』
ザバーンザバーン
「は…!」
「…良かった」
すごくリアルな夢だった。実際に痛みを
感じそうなほど、すごく鮮明な。
(こんなことしてる場合じゃない、早く神社に 向かわないと)
集合時間も知らない、場所もわからないがとりあえず早くあの子に会いたかった。
よくわからない、天真爛漫だけどミステリアスで、怖いはずの少女。
ただ今はその女の子に会いたかった。
「母さん、行ってきます」
「どこにいくの?」
「ちょっとだけ散歩」
朝方だというのにもう陽射しが照りつけている。家を出て2分も経ってないのにもう汗が
溢れ出てきている。
ちょっとしないうちに神社に着いた。
(…あれ?あの子は?)
いない。どこを見渡してもいない。
おかしい。今日も会うはずだった。
『ーーーーーまた明日ね!』
そう言っていたはず。
「…わぁ!!」
「わぁ!?」
「…ってびっくりした…脅かさないでよ」
「いやーよくこの時間に来たねー」
「いや、なんとなくわかって」
「…敬語、やめてくれたんだ」
「…いや知らない間に勝手に取れて」
「すごい!すっごい嬉しい!!」
この人は笑顔になる度に長い髪が少しフワッと揺れる。なんでこんなに笑顔が輝いて見えるんだろう。もう既に俺は警戒心の欠片も残っていなかった。すごく単純だなと自分でも思う。
「それで、思い出作りって何をするんですか?」
「それはねー!」
「1.2.3 もーいいかい」
「まーだだよ!」
「はぁ…」
(なんで高校生にまでなってかくれんぼなんかするんだよ…)
彼女はかくれんぼを提案した。一体どういったチョイスかはわからないが思い出作りに付き合うと言った時点で参加は確定事項だ。
「…もーいいかい!」
「もーいいよ!」
(こうなったら本気で見つけてやる)
今の俺は燃えるに燃えていた。
風がすごく涼しく吹くこの神社、暑さも一切感じなせないこの空間、すごく居心地が良かった。
木の上、草むらの中、神社の階段横、木の後ろ、小さな池の中など有り得ないであろうところも探したが一切見つからない。
「本当にどこにいるんだよ…」
「…わぁ!!」
「わぁぁ!?」
「やったー!びっくりした?」
「本当に、心臓止まったよ」
驚いた、さっきは探したはずの草むらからまさか飛び出してくるとは思わなかった。
「本当にリアクションいいな〜もっとからかいたくなっちゃう!」
「もう…次は君が見つけて」
「りょーかい!ちゃんと隠れてよ?」
(ここだ。絶対バレない)
こちらも草むらの中に隠れた。しかしすごく見ずらいところにあって角度も完璧。
しめしめと思っていた。
思っていた。
「みーっけ!!」
「…おかしい」
おかしい。足音すら聞こえなかったから油断していたがこんな近くにいたとは。
もう疲れてきたので違うゲームを提案しようと草むらから出ようとすると
「待って」
「もう少し、一緒に居させて…」
と彼女が草むらに一緒に入ってきた。
心臓がドクドクする。
距離はもうゼロだ、真横で彼女が俺に
抱きついてきている。
ドキドキして止まらない。
「…ここでキスしちゃう?」
「…し、しないよ!!」
本当になんてことをいうんだろう。この人は。
でも心なしかこの子も顔が赤いような…
涼しい風が入ってくる。
彼女の髪が揺れて、赤らめた頬が
視界に入る。
目は潤んでるように見えて
すごく真剣な目をしている気がする。
(いい雰囲気でこのまま…)
ウィーンウィーンウィーン
ーー緊急地震速報です。ーー
ーー強い揺れに警戒してくださいーー