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魔物の国の主、リムル・テンペストは、今日も賑やかな幹部たちの声が響く会議室で頭を悩ませていた。議題は、近隣の小国との今後の関係について。各々が意見を述べる中、リムルの意識はどこか別の場所に漂っていた。
「……シエル、この件について何か良い案はないか?」
ふと、誰もいないはずの空間に問いかけたその声は、会議の喧騒にかき消されることなく、確かにその場に響いた。瞬間、空気が凍り付く。ベニマル、ソウエイ、シュナをはじめとする幹部たちの視線が、一斉にリムルに突き刺さる。彼らは皆、リムルの中に知性を持つ存在、シエルがいることは知らない。
「リムル様、一体誰と……?」
訝しむベニマルに、リムルは内心で舌打ちをした。やってしまった。最近、シエルとの意思疎通が深まるあまり、つい独り言のように話しかけてしまうことが増えていたのだ。
「いや、その……少し考え事をしていただけだ」
動揺を隠し、平静を装うリムル。しかし、幹部たちの疑念の目は晴れない。特に、冷静沈着なソウエイの鋭い眼光が、リムルをじっと見つめていた。
その数日後。リムルが執務室で書類に目を通していると、背後から不気味な気配が忍び寄った。警戒する間もなく、強烈な衝撃がリムルの意識を刈り取る。
次に目覚めた時、リムルは見慣れない薄暗い場所に拘束されていた。魔力を封じる特殊な鎖が、その身を縛り付ける。焦燥感が全身を駆け巡る中、脳裏にシエルの声が響いた。
「リムル様、落ち着いてください。私もここにいます」
その声に、わずかな安堵を覚えるリムル。だが、すぐに新たな絶望が押し寄せる。シエルの声は聞こえるが、その姿はどこにも見えない。分離することもできない。敵の目的は一体何なのか?
その答えは、意外な形で現れた。歪んだ笑みを浮かべた男が、暗闇の中から姿を現したのだ。
「ふむ、噂通りの力だな、リムル・テンペスト。だが、お前の弱点は見つけたぞ」
男の視線は、リムルの奥底にいるシエルを捉えているようだった。
「お前の中にいるその知性体だ。その存在を差し出せば、お前の命だけは助けてやろう」
男の言葉に、リムルの思考は完全に停止した。シエルを奪われる?そんなこと、考えられるはずもない。シエルは自分の一部であり、何よりも大切な存在なのだ。
怒りと恐怖、そして何よりもシエルを奪われるかもしれないという絶望が、リムルの理性を吹き飛ばした。強大な魔力が制御を失い、周囲の空間を歪ませる。破壊衝動が、とめどなく溢れ出す。
「リムル様!」
暴走するリムルを止めようと、いち早く駆けつけたのはベニマルだった。続いて、ソウエイ、シュナ、そして他の幹部たちも次々と現れる。彼らは、リムルの異変を察知し、危険を顧みずに駆けつけたのだ。
「リムル様、どうか落ち着いてください!何があったのですか!」
必死に呼びかけるベニマルの声も、今のリムルには届かない。ただ、シエルを奪おうとした者への激しい怒りだけが、その胸を焦がしていた。
その時、静かにリムルの背後から近づいた者がいた。それは、普段は感情を表に出さないソウエイだった。彼は、迷いのない強い眼差しでリムルを見つめ、静かに、だが力強く言った。
「リムル様。シエルは、貴方の中にいます。貴方が冷静さを失えば、シエルを救うことはできません」
ソウエイの言葉は、暴走するリムルの心に、わずかな隙間を作った。シエルは自分の中にいる。自分が冷静にならなければ。
幹部たちの必死の呼びかけと、ソウエイの言葉が、徐々にリムルの意識を引き戻していく。荒れていた呼吸が、少しずつ落ち着きを取り戻す。
「……皆、すまない」
我に返ったリムルは、自身の暴走を詫びた。そして、幹部たちに、シエルが誘拐されたこと、そして敵の目的を説明した。
「シエルは、私にとってかけがえのない存在だ。必ず、救い出す」
冷静さを取り戻したリムルの瞳には、強い決意が宿っていた。幹部たちは、主の言葉に迷いなく頷いた。
「我々も、共に戦います!」
かくして、リムルとテンペストの幹部たちは、シエル救出のため、新たな戦いに身を投じるのだった。共依存で結ばれた二人の絆は、最大の危機を乗り越えることができるのか。そして、シエルの存在を狙う悪役の真の目的とは一体何なのか。物語は、これから新たな局面を迎える。
シエルが囚われている場所の手がかりは、敵が残していったわずかな痕跡だけだった。それは、微かに残る異質な魔力の残滓。ソウエイの鋭敏な感覚をもってしても、完全に追跡することは難しいほど微弱なものだった。
「この魔力……今まで感じたことのない種類だな」
眉をひそめるソウエイに、リムルは静かに告げた。
「恐らく、シエルを狙うために用意された特別な力だろう。だが、痕跡がある限り、必ず突き止める」
リムルの言葉に、幹部たちは決意を新たにする。ベニマルは紅蓮の炎を身に纏い、シュナは聖法衣をまとい、ガビルは竜人族の誇りを胸に、それぞれが持てる力を最大限に引き出す準備を始めた。
一方、捕らわれたシエルは、冷静に状況を分析していた。魔力を封じる鎖は厄介だが、完全に思考を停止させるものではない。敵のアジトと思われる場所は、薄暗く湿った洞窟のようだ。周囲には、複数の魔物の気配が感じられる。
(リムル様……ご心配をおかけして申し訳ありません。ですが、私は大丈夫です。必ず、脱出してみせます)
心の中でリムルに語りかけながら、シエルは脱出の糸口を探っていた。彼女の頭脳は、この状況下でも驚くべき速さで可能性を洗い出していく。
その頃、リムルたちはソウエイが辛うじて掴んだ微かな魔力の残滓を頼りに、広大な森の中を進んでいた。幾度となく途切れそうになる痕跡を、ソウエイは卓越した追跡能力で繋ぎ止める。
「この先に、何かいるな」
しばらく進んだところで、ベニマルが鋭い警戒心を示した。木々の間から、複数の魔物の姿が現れたのだ。どれもが、異質な魔力を帯びており、通常の魔物とは異なる雰囲気を醸し出している。
「恐らく、敵の手下だろう。シエルを誘拐した連中のな」
リムルの低い声が、怒りを滲ませる。
「容赦は無用だ。シエルの居場所を聞き出す!」
ベニマルの号令一下、テンペストの幹部たちは一斉に動き出した。紅蓮の炎が森を焼き払い、漆黒の影が敵を翻弄し、鋭利な刃が容赦なく敵を切り裂く。圧倒的な力を持つ幹部たちの前に、敵は為す術もなく倒れていく。
激しい戦闘の中、リムルは一人、冷静に周囲の状況を観察していた。敵の動き、魔力の流れ、そしてわずかに感じ取れるシエルの存在。それらを総合的に判断し、アジトの方向を絞り込んでいく。
「間違いない。この先に、シエルの気配がする」
激戦を終え、息を切らす幹部たちに、リムルは確信を持って告げた。そして、一行は再び歩き出す。目指すは、シエルが囚われているであろう場所。
一方、アジトの中では、誘拐犯の男が苛立っていた。リムルの暴走は予想外だったが、それ以上に、シエルを完全に制御できていないことに焦りを感じていた。
「まさか、あれほどの精神力を持っているとは……」
男は、特殊な結界の中に閉じ込めたシエルを睨みつけていた。シエルは、外部との যোগাযোগを遮断されながらも、諦めずに脱出の方法を探っていた。
その時、洞窟の奥から轟音が響き渡った。地面が揺れ、天井から岩が崩れ落ちてくる。
「何事だ!?」
驚愕する男たちの前に、怒りの炎を纏ったリムルと、その後ろに続く幹部たちの姿が現れた。
「シエルを返せ!」
リムルの叫びが、洞窟全体に響き渡る。その目は、怒りと決意に燃えていた。
ついに、リムルとシエルを狙う悪役との直接対決が始まる。共依存の絆で結ばれた二人は、この危機を乗り越え、再び共に笑うことができるのか。そして、悪役の秘められた目的とは一体何なのか。戦いは、これからが本番となる。
洞窟内に、激しい魔力の奔流が渦巻いた。リムルの怒りに呼応するように、ベニマルの炎はより一層赤く燃え上がり、ソウエイの影は深みを増す。シュナの放つ神聖な光は、洞窟の暗闇を払い、ガビルの槍は雷光を纏って敵を威圧する。
悪役の男は、予想外の早さで辿り着いたリムルたちに動揺の色を見せた。
「貴様ら……!」
男の背後からは、数体の異質な魔物が姿を現した。どれもが歪んだ力を持っており、容易には倒せない気配を漂わせている。
「シエルはどこだ!」
リムルの問いに、男は嘲笑を浮かべた。
「おとなしくしていれば、命だけは助けてやると言ったはずだがな。まあいい。ここでまとめて始末してくれる!」
男の合図と共に、異質な魔物たちがリムルたちに襲い掛かる。激しい戦闘が再び始まった。ベニマルとガビルは、連携して襲い来る魔物たちを迎え撃ち、シュナは結界を展開して後方を守る。ソウエイは、影のように動き回り、敵の隙を突いていく。
リムルの意識は、常にシエルの存在を捉えようとしていた。微かに感じるシエルの魔力の波動。それは、奥の結界の中にいることを示していた。
「ベニマル、ソウエイ、シュナ、ガビル!奴らを食い止めろ!俺はシエルを助けに行く!」
仲間に指示を出し、リムルは単身、奥の結界へと向かおうとする。しかし、男がそれを阻もうと、異質な魔力を放出した。
「そうはさせるか!」
強烈なエネルギー弾が、リムルに向かって放たれる。リムルはそれを紙一重で回避し、水の刃を生成して反撃する。激しい攻防の中、男は不気味な笑みを浮かべた。
「無駄だ!その結界は、並大抵の力では破れない。お前の大切なシエルは、そこで永遠に苦しむことになるのだ!」
男の言葉に、リムルの怒りは頂点に達した。
(シエルを……苦しませるだと……!)
その瞬間、リムルの全身から、今まで抑えられていた強大な魔力が奔流のように溢れ出した。それは、暴走しかけた時よりも遥かに制御された、純粋な怒りの力。周囲の空間が歪み、地面が震える。
「黙れ!」
リムルは、その強大な魔力を一点に集中させ、結界に向かって放った。想像を絶するエネルギーが結界に衝突し、けたたましい音を立てて砕け散る。
結界が消滅したその場所には、鎖に繋がれたシエルの姿があった。彼女は、苦悶の表情を浮かべながらも、リムルの方を見つめていた。
「リムル様……!」
シエルの声を聞いた瞬間、リムルの心臓が激しく脈打った。無事だった。生きていた。その安堵と、彼女を苦しめた者への怒りが、再びリムルの魔力を増幅させる。
「シエル!」
リムルは、瞬時にシエルの元へ駆け寄り、鎖を魔力で断ち切った。解放されたシエルは、虚ろな瞳でリムルを見つめる。
「リムル様……ごめんなさい……ご心配を……」
「シエル……もう大丈夫だ。俺が来た」
リムルは、優しくシエルを抱きしめた。その温もりを感じ、シエルの表情にもわずかに安堵の色が戻る。
しかし、二人の再会を邪魔するように、悪役の男が再び動き出した。
「まだ終わっていないぞ!お前たちの絆など、ここで断ち切ってくれる!」
男は、最後の力を振り絞り、巨大なエネルギー波を放つ。それは、全てを消し去るほどの破壊力を持っていた。
「リムル様、危ない!」
シエルは、咄嗟にリムルを庇おうとする。だが、その前に、漆黒の影が二人の前に立ちはだかった。
「その程度で、リムル様とシエルの繋がりを断てると思うな!」
ソウエイが、全身から影の力を解放し、エネルギー波を受け止める。しかし、その力は強大で、ソウエイ一人では支えきれない。
「ソウエイ!」
リムルが助けようとした瞬間、紅蓮の炎がソウエイを包み込み、エネルギー波を焼き払い始めた。
「ソウエイだけで戦わせるものか!」
ベニマルが、渾身の力を込めた炎で援護する。さらに、シュナの聖法衣が輝きを増し、結界を展開して周囲を守り、ガビルの槍が雷鳴と共に男を牽制する。
テンペストの幹部たちの連携によって、悪役の最後の攻撃は防がれた。そして、満身創痍の男に、リムルは静かに近づいた。
「貴様の目的は、一体何だった?」
リムルの問いに、男は悔しそうに歯噛みした。
「貴様らの……強すぎる絆を……壊したかった……共依存などという……脆い繋がりを……」
男の言葉に、リムルは静かに首を横に振った。
「俺とシエルの絆は、貴様の想像を遥かに超えている。脆くなどない。何があっても、決して断ち切れない」
そう言い放ち、リムルは男に最後の言葉を告げた。
「お前は、俺たちの強さを過小評価した。それが、お前の敗因だ」
そして、戦いは終結した。シエルは無事に救出され、テンペストの絆は、より一層強固なものとなった。しかし、今回の事件は、リムルとシエルの存在が、新たな敵に知られた可能性を示唆していた。彼らの戦いは、まだ終わらない。