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放課後の教室は、夕陽に染まり、柔らかいオレンジ色の光が差し込んでいた。胡々は自分の席でノートを広げ、集中して問題を解いていた。
「ここ、まだ残ってたのか?」
ふいに聞き慣れた低めの声が響く。私が顔を上げると、教室の入り口に佐倉湊が立っていた。制服のネクタイが少し緩められていて、その無防備な姿に胸がキュンと鳴る。
「佐倉くん……。うん、ちょっと数学が難しくて……。」
「あー、また数学か。お前、ほんと真面目だよな。」
そう言って、佐倉くんは私の隣の席に腰を下ろした。ほんのりと感じる佐倉くんの香りに、胡々の心臓がドキドキと速くなる。
「どれどれ?……お、これか。」
佐倉は胡々のノートを覗き込み、さらっと解答を見つけ出した。その横顔はどこか誇らしげで、少し悔しいけど頼りになる。
「ここ、これ、こうやって解くんだよ。」
「わあ……ありがとう、佐倉くん。」
胡々が感謝の気持ちを込めて笑顔を見せると、佐倉は一瞬視線をそらし、頬をかすかに赤らめたように見えた。
「な、なんだよ。その笑顔。」
「え? 別に普通だよ?」
「いや、普通じゃねえし……。」
佐倉は不機嫌そうに言いながらも、少し照れているようだった。そのやり取りに、胡々は思わずくすっと笑ってしまう。
「ん? のど乾いたな……。」
佐倉は突然、胡々の机の上に置かれたペットボトルを手に取った。
「あ、それ……」
胡々が何かを言いかける間もなく、佐倉はキャップを開け、一口飲み干した。
「はー、うめえ。」
「佐倉くん、それ……私のなんだけど。」
「……え?」
佐倉の動きが止まり、顔が固まる。
「俺……飲んだ?」
「飲んだ。」
胡々が頷くと、佐倉くんは耳まで真っ赤になった。
「な、なんだよそれ! 先に言えよ!」
「えー、だって佐倉くんが勝手に飲んだんじゃん。」
胡々はむすっとしながらも、心の中ではドキドキしていた。これって、もしかして……間接キス?
「……悪かったよ。」
佐倉はバツが悪そうに視線を逸らしながら、小さな声で謝った。その姿に、胡々はまたもや胸がキュンと鳴る。
「でも、まあ……別にいいけどね。」
「は? 何がいいんだよ。」
「間接キスぐらい……気にしてないし。」
胡々が小声でつぶやくと、佐倉はさらに顔を赤くして、慌てて立ち上がった。
「お、俺、帰る! じゃあな!」
「え、ちょっと待ってよ!」
佐倉はそのまま教室を飛び出して行った。残された胡々は、頬を赤くしながら、ペットボトルをそっと見つめる。
「佐倉くん、意外と可愛いところあるんだな……。」
そうつぶやく胡々の表情は、どこか幸せそうだった。