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「どうしてこうも私の子は……丈夫に産まれぬのだ……!?」
そう嘆いているのは邦川家の下流家臣・櫛崎浅長である。
彼の正室である良姫は子が出来ぬ病にかかっており、側室であるもお露の方は過去三回程妊娠したが、無事に産まれたのは御嫡女である澪姫のみ_____。
男子を望んでいる浅長は、最近ずっと苦悩しているのである。
「殿……其れは実に嘆かわしい事で御座います」
良はおずおずと言ったが、浅長はこれに逆上した。
「何をのうのうと言ってられるのだ!?」
「え? 嘆かわしいですと……」
「良よ…………其方お露の懐妊を羨ましく思うて、毒を盛ったり人を働かせたりしているのではないか? 子が二人も亡くなるなど可笑しい。お主も二十七だからな。嫉妬に駆られるのも分かるが、抑えよ」
年が明け、皆が一歳成長することを喜ぶ季節柄の為か、今回の流産は相当堪えてしまったらしく、勢いよく怒っているな声音で浅長は良を責め立てた。
勿論、良はそんな事などして居ない。
ましてや、自分が腹を痛めて産んだ子はこの世にはいないものの、その代わりお露が産んだ澪やその腹に宿った子を女中の誰よりも気遣って来たはずなのだ。
そして今日も、傷心のお露が奥を仕切るのが難しいだろうと配慮したことから、通常お露が治めている御殿を彼女が再び懐妊するまで自分に任せて欲しい_____とお願いしに来たのだ。
「ッ……そんな事しておりません」
変わってしまった夫の言動に、良はたじろいだ。
これは彼女にとって大きなショックだったのである。
「ほう?? だが然しもうお主を信じられぬ。とっとと失せるが良い」
「お露殿の御殿の事は?」
「ふっ、お露の苦労をお主も味わうが良い。許可する」
「承知致しました」
ガラガラ…………と浅長の部屋を出てすぐ、侍女長であるお葉が
「殿は何処か具合が悪いのでしょうか」
と言ってきた。
良はショックやら悲しみやら怒りやらで震えていたが、最終的には怒りが勝った。
「さあ______分からぬ。ただ、お露殿の御殿のお話はしかと了承していただいて良う御座いました」
「あんな広い所を掃除など、お方様は大丈夫ですか」
「大丈夫よ」
「_____それなら良いのですが」
これが後で悲劇を繰り返すことになろうとは、誰も気づいていなかったのである。