テラーノベル
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中学二年生の冬、三年生の卒業まであと数日ってときだった。
俺は、翔太から「話したいことがある」って呼び出された。
放課後の教室。
周りにはもう誰もいなくて、夕焼けが窓から長く差し込んでた。
翔太は少しうつむいて、拳をぎゅっと握って、こう言った。
「好きです。悠人のことが、ずっと。」
その瞬間、頭の中が真っ白になった。
「……え?」
情けない声が出た。
言葉の意味は分かったけど、どう反応していいか分からなかった。
男から告白されるなんて、想像したこともなかった。
しかも翔太は、同じクラスで、よく話してた相手だ。
勉強のこととか、漫画の話とか、他愛ないことばっかだったけど、
気がつけば、いつも翔太とは自然に話せてた。
でも——
「そういう目で見てたんだね……」
俺は、無意識にそう言ってしまってた。
言った瞬間、後悔した。
翔太の表情が、ほんの少しだけ歪んだ。
「……ごめん。嫌な気持ちにさせたよね。」
「いや、ちが…そんなつもりじゃ……」
でも、言葉は続かなかった。
何が違うのか、自分でも分からなかったから。
***
その夜、布団の中でスマホを握りながら、ふと気づいた。
(翔太って、ずっと俺の話、ちゃんと聞いてくれてたよな)
俺がちょっとしたことで落ち込んだときも、
部活のグチを言ったときも、
「それってさ、頑張ってる証拠だと思うよ」って、
静かにフォローしてくれた。
翔太の「好き」は、たぶんそういう優しさの積み重ねなんだと思った。
なのに俺は、傷つける言い方をした。
(最低だな、俺)
だけど、だからといって答えを変えられるわけじゃなかった。
俺は「そういう気持ち」を返せない。
だけど、あんな風に見られていたことが気持ち悪かったわけじゃない。
むしろ、俺みたいなやつをそんなふうに想ってくれる人がいたってことが、
今さらになって、少しだけうれしかった。
でもそれを、翔太に伝える勇気はなかった。
***
卒業式の日。
みんなが教室で写真を撮り合っている中、
翔太はいつも通り、静かに笑っていた。
俺の方を見ても、何も言ってこない。
まるで、何もなかったみたいに。
それが逆に、少し寂しかった。
(俺がちゃんと、向き合わなかったからだ)
気づいたときには、翔太の後ろ姿を追ってた。
校舎裏のベンチ。
翔太の隣には、いつものように凛がいた。
俺は何も言えずに、そのまま背を向けた。
(言葉ってさ、返さなくても伝えられるのかな)
あのとき、「ありがとう」って言えてたら。
あのとき、「ごめん」じゃなくて、「気づかせてくれて嬉しかった」って言えてたら。
…いや、それは違う。
「ありがとう」も、「ごめん」も、ちゃんと言わなきゃ伝わらない。
そして、もうあの機会は戻ってこない。
***
春になって、
俺は別の高校で新しい友達を作って、
それなりにうまくやってる。
でもたまに、雪がちらつく空を見るたびに思い出すんだ。
翔太の声。
少し震えてたけど、ちゃんとまっすぐだった、あの「好き」という言葉。
あれは、ただの“恋”じゃなかった気がする。
あいつはきっと、俺に“ちゃんと見てほしかった”だけなんだ。
あの日、届いた翔太の言葉。
俺はちゃんと、今でも覚えてる。
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