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明日は卒業式。中学校生活はあっという間だった。部活、学校行事、テスト…。
部活、楽しかった。後輩はみんないい子だった。その中でも凛は繊細。だけど強い。矛盾しているような不思議な子だった。
_昼休み
その凛が、まっすぐこちらを見て言った。
「先輩のこと、ずっと好きでした。」
…ああ、やっぱり。
そう思った。
気づいてなかったわけじゃない。
私に向ける目が、他の子とは違っていたことも。
でも、それを言葉にされた瞬間、
それは急に現実の輪郭を持った。
「ありがとう。嬉しいよ。」
それが精一杯だった。
本当はもっと、何か言うべきだったのかもしれない。
「ごめん」とか、「気持ちは嬉しいけど」とか。
でも私は、そういう言い方をしたくなかった。
なぜなら、私もまた、誰かに言えない気持ちを抱えていたから。
相手は1年生のときの同級生。
お互い違う高校を進んで、今はもうほとんど連絡もとってないけど、 彼女の笑い声やしぐさは今でも脳裏に焼き付いてる。
伝えることもできず、ただ隠して、普通のフリをして過ごした三年間。
その苦しさを、きっと凛も味わってきたんだと思った。
だから私は、拒絶するようなことは言いたくなかった。
好きだと言ってくれて、ありがとう。
私を“ただの先輩”以上に見てくれて、ありがとう。
それだけは、ちゃんと伝えたくて微笑んだ。
(その笑顔は、どんな風に見えたんだろう)
今でも少しだけ気になる。
***
それからしばらくして、春になって、私は高校生活に慣れようとしていた。
けれど、凛から告白されたあの日のことだけは、なぜか曖昧にできなかった。
不思議だ。
あの子のことを「好き」だったわけじゃない。
でも、嫌いになんて絶対になれなかった。
「先輩」って呼ばれるたびに、少しだけ心があたたかくなった。
あれは、恋とは少し違うかもしれないけど、
たしかに、何かが心に灯るような関係だった。
もし、もっと違う形で出会ってたら。
もし、もっと自分の気持ちに素直でいられたら。
…そんな「もし」ばかりが、
今の私を少しだけ、立ち止まらせる。
でも、伝えてくれた凛の勇気を、
私は今でも誇りに思ってる。
そして、きっともう会えなくても。
あの“好き”という言葉は、ちゃんと私の心に届いていた。
ちゃんと、あたたかかったよ。