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朝倉くんに連れてこられたのは、車で三十分ほどのところにある遊園地だった。
意外だったのは、彼の反応だ。
前日から遊園地に来るのを楽しみにしていた子供のような笑顔を浮かべている。いつもの仕事中の朝倉くんからは想像できないほど、瞳が奥から輝いていた。
「僕、瞳子さんとデートをしてみたかったんです♪」
「もしかして、朝倉くんはデートの経験がないの?」
「当たり前です。純潔を守るために、個人的な異性間交遊は避けてきましたので」
「そこまでして……ありがとう」
言いかけて、私は言葉を飲み込んだ。
振り返れば、彼は私への距離の取り方が極端におかしかった。自分の気持ちを優先してしまい、近づきすぎるところがある。
それはきっと、異性との交流を避けてきたために、経験が不足していたからなのだろう。
私のために、徹底して純愛を貫いてくれていた。
そう考えると、なんだか恐縮してしまう。
「デートといえば、やはり遊園地ですよね! 僕は遊園地が初めてなので、楽しみにしていたんです!」
「初めての遊園地? 子供の頃、遊びに行ったこと、ないの?」
何気なく聞いただけだった。
それなのに、朝倉くんは一瞬で表情をなくした。
「……記憶の中にはないですね」
小さな声だった。
「そう……」
(留学までさせてくれる両親だったのに……厳しい教育方針のご家庭だったのかしら)
少し気になったけれど、私が深く聞くことではないと思った。
朝倉くんは、すぐにいつもの表情を取り戻す。
そして遊園地のパンフレットを目の前に広げ、掲載されているアトラクションを次々と指差していった。
「瞳子さんはジェットコースターに乗れますか? やはり一番はカップルで乗れるティーカップでしょうか? いや、カップルならアイスクリームを一緒に食べるべきですか?」
あの朝倉くんが、嬉しさのあまりパニックになっている。
仕事ではいつも冷静で、何をやらせても完璧なのに。
その姿が実に可愛らしくて、私は思わず微笑んでしまった。
「全てやろうよ。朝倉くんがやりたいこと、順番にやっていこう」
「本当ですか?」
「うん」
こんな笑顔を見せられると、私まで楽しくなってくる。
「はい! では、一番はじめはメリーゴーランドにしましょう!」
「いいね。一緒に乗ろう」
私たちは手を繋いで、メリーゴーランドに並んだ。
順番が来て、自分たちが乗る馬を選ぶことになった。
「一緒に馬車もいいですが、瞳子さんの白馬に乗る姿も見たいし、僕も乗ってみたい……うーん。迷います」
顎に指を当てて真剣に悩んでいる。
仕事では見ることのできない、貴重な姿だった。
「私、朝倉くんが白馬に乗って笑っているところが見たい」
素直に言うと、彼は目尻を下げて笑った。
「では、そうしましょう。僕の隣に瞳子さんが乗る。二人並んで」
「うん」
白馬に跨ぐのか、横乗りにするのかまで真剣に試している。
「こんな一面もあるのね」
微笑ましい光景に、私は小さく呟いた。
やがてメリーゴーランドが動き出すと、上下する馬に驚いて、朝倉くんはポールにしがみついた。
「面白い!」
子供のようにはしゃぐ彼の反応が新鮮で、私もつられて陽気な声を出して笑った。
眺めているときは恐怖などなかったジェットコースターは、実際に乗ってみると絶叫が飛び出すほどスリル満点だった。
周回を終えて戻ってきたときには、髪の毛を逆立てた朝倉くんが放心している。
「こわかった?」
二人並んでベンチで休憩しながら、私は彼の乱れた髪を手櫛で直してあげた。
「いいえ。好きな人と一緒に乗ると、こんなに楽しいんですね。新たな発見です」
「私も楽しいよ。もっとたくさん遊んでいこう」
「はい! では次はソフトクリームを食べましょう。瞳子さんは何味がいいですか?」
「バニラでお願いします」
「僕はチョコにします。半分ずつ分けて食べませんか?」
そう提案した朝倉くんが、頬を赤くした。
きっと、これも彼が私とやりたかったことなのだろう。
(バニラとチョコのミックスもあるわよ)
その事実は、内緒にしておくことにした。
私はにっこり笑って答える。
「うん。半分こしよう」
「僕が買ってくるので、瞳子さんは次に乗る物を決めておいてください!」
そう言うと、彼は売店へ駆けていった。
そんな彼を、私は遠目から眺めてしまう。
長身でスタイルのいい、あの男性が自分の旦那さまになるなんて。
今でも自分では信じられない。
だけど、今日くらいは難しいことを考えず、彼と一日を楽しもう。
そう思ってパンフレットを広げ、次のアトラクションを探す。
ぐるぐると指を動かしていた私の目が、『ミラーハウス』の文字で止まった。
「……なつかしい。昔、両親と一緒に行った遊園地にもあったな」
次は、ここに決めた。
「瞳子さん、戻りました。はい、どうぞ」
戻ってきた朝倉くんから、バニラのソフトクリームを受け取る。
彼も満足そうに隣でチョコクリームを舐めていた。
「交換してくれますか?」
目がキラキラしているのはご愛敬。
私は快く交換した。
「瞳子さんとこんなこと、夢のようです」
これが恋人のマストだと思い込んでいるところが、素直だなと思う。
「でも、すみません。本当はミックスというものがあったんです。僕の願望で、こんなことをしてしまいました」
なぜか申し訳なさそうに俯いてしまった。
(自分から白状するなんて……か、かわいい)
「知っています。でも、私も朝倉くんと交換したかったから……」
恥ずかしいけれど、朝倉くんのピュアさに、私も感化されてしまった。
「瞳子さん……どうしよう。ものすごく……好きです」
「あ、ありがとう」
いい大人が二人して頬を染めながら、仲良くアイスクリームを頬張った。
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夏目莉央
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くま🐻☁️
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