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燈は静かに、しかし確かな意志をもって太宰を見つめた。
その瞳は青く透き通り、まるで氷のように冷たい――けれど、その奥には何かが渦巻いていた。
「太宰くん、取引しましょう」
その言葉は、まるで遊戯の始まりを告げるかのようだった。
しかし太宰の顔は一切崩れない。ただ鋭く、燈を見返す。
「……私が、それに応じる理由は?」
低く、鋭い声。感情を押し殺した声音が、部屋の空気を震わせる。
燈はくすりと笑った。どこか哀しげで、それでも確信に満ちた笑みだった。
「私が、消えない限り――美琴は、二度と目覚めないのよ。だから」
太宰の表情が一瞬揺れる。
すぐに取り繕うが、その内心は静かな激震に飲み込まれていた。
「……本当か?」
「あら、信じないの? でもあなた、もう気づいてたんじゃない?」
燈はゆっくりと近づき、太宰の目の前で足を止める。
青い瞳が、獲物を射抜くように彼を捉えていた。
「私がこの世界に留まり続けているかぎり、美琴は“夢”から戻ってこれない。……あなたがどれだけ手を伸ばしてもね」
その言葉に、太宰は拳を握りしめる。
沈黙。
わずかな沈黙のあと、太宰は小さく息を吐いた。
「……わかった。条件は?」
燈の表情が、わずかにほころぶ。
そして、次の言葉をゆっくりと、確実に突きつけた。
「私に、接吻《キス》して」
「……何?」
「取引ってそういうものよ。互いに“価値”を差し出すの」
燈は自分の唇に指を当て、愛おしむように微笑んだ。
「ちゃんと、ここにして。……触れるだけじゃダメ。心を、込めて」
「……ッ」
太宰の目が細められる。だがその奥に、激しい怒りと葛藤が混ざる。
「どういうつもりだ。お前は――」
「美琴が羨ましかったの」
燈の声が、ふと弱くなる。それは計算か、それとも本音か。
わからない。
「あなたに愛される彼女が、ただ……羨ましかったのよ。たった一度でもいい、私も……そうされてみたかった」
次の瞬間、燈は懐から何かを取り出す。
氷のように冷たく光る、アイスピック。
それを、美琴の首元に――眠る彼女の肌に、すっと押し当てた。
「選んで、太宰くん。私を拒むなら、彼女も一緒に消えるわ」
「脅しか……」
「ええ。そうよ。だけど、これはあなたの選択。あなたがどうしたいか、ただそれだけ」
静寂。
空気が張りつめる。
やがて、太宰は燈の頬に手を添えた。
その目は、まるで断罪を下すように真っ直ぐだった。
「……それで、美琴が戻るのなら――私は、地獄に唇を重ねる」
そして、太宰は燈の唇に、そっと、けれど確かに触れた。
ほんの一瞬。
それは愛ではない。決意と犠牲の接吻だった。
燈は、その一瞬を永遠のように味わいながら、微笑んだ。
「取引成立ね」
「美琴を起こして貰う」