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第3話 届かない声
深澤side
——笑ってる。
今日も、変わらず。
佐「ふっかおはよー!」
教室に入った瞬間、
深澤の視界に飛び込んできたのは、いつもの笑顔
佐久間は、何も変わらないみたいに手を振っている
深「…朝から元気だな」
佐「えへへ、元気だけが取り柄なんで!」
いつも通りのやり取り。
周りから見れば、きっと何も変わってない。
——でも
(…なんか違う)
自分でもうまく言葉にできない違和感。
笑い方も、声のトーンも、
全部いつも通りのはずなのに。
どこかだけ、噛み合ってない気がする。
—
佐「ねえふっか、今日さ!」
昼休み、弁当を広げながら佐久間が話しかけてくる
佐「放課後、またあの公園行こーよ!」
深「あの公園?」
佐「そう!声響くとこ!」
一瞬だけ、あの日の声が頭をよぎる。
深「…またやるのかよ」
佐「いいじゃんいいじゃん!」
楽しそうに笑うその顔に、
“断る理由”なんて見つからなかった。
深「…少しだけな」
佐「やった!」
—
放課後
あの公園は、今日も静かだった。
佐「ふっか、聞いててね!」
そう言って、少しだけ距離を取る佐久間
深呼吸をひとつしてから、口を開く
佐「——『俺は、諦めない』」
その言葉は、前よりも強くて。
まっすぐで。
でも——
どこか、苦しそうだった。
佐「どう!?今の!」
振り返って、いつもの笑顔を見せる。
深「…上手いと思う」
素直にそう言うと、ぱっと嬉しそうな顔になる
佐「ほんと!?」
深「ああ」
少しだけ間を置いて、続ける
深「…好きなんだろ、それ」
空気が、一瞬止まる
佐「…え?」
深「声でなんか伝えるやつ」
言葉を選びながら言う。
深「この前も言ってたし」
佐久間は黙ったまま、こちらを見る
その目は、笑ってなかった。
深「だったら——」
言いかけて、止まる。
“だったらやればいいじゃん”
その言葉の続きを、飲み込んだ。
代わりに出てきたのは——
深「…なんでやんねえの」
少しだけ、踏み込んだ言葉。
沈黙。
風の音だけが、やけに大きく聞こえる。
佐「……」
佐久間は、視線を逸らした
佐「…別に」
小さな声。
佐「ただの遊びだよ、これ」
深「嘘つけ」
思わず、強く返していた。
深「そんな顔で言うなよ」
ピクリ、と肩が揺れる。
佐「顔って…どんな顔?」
ゆっくり振り向く
その顔には——やっぱり、笑顔が貼り付いていた。
でも
深「…笑ってねえじゃん」
その言葉に、佐久間の表情が一瞬だけ崩れる。
ほんの一瞬。
すぐに元に戻ったけど。
佐「なにそれ、ひどくない?」
軽い口調。
でも、どこか震えてる。
佐「俺、ちゃんと笑ってるよ?」
深「…そういう問題じゃねえ」
また沈黙が落ちる
さっきまでの空気が、嘘みたいに重い。
佐「……帰ろっか」
ぽつり、と佐久間が言った
いつもの明るさは、そこにはなかった。
—
帰り道
会話は、ほとんどなかった。
隣を歩いてるのに、やけに遠く感じる。
(やりすぎたかもな)
少しだけ後悔する。
でも
あのまま何も言わないのも、違う気がした。
深「さくま」
名前を呼ぶ。
佐「…なに?」
足を止めずに返ってくる声。
深「さっきの——」
佐「忘れていいよ」
遮るように言われる
佐「全部、俺が勝手にやってただけだから」
その言葉に、何も返せなくなる。
—
校門の前で、足が止まる。
佐「じゃあね、ふっか」
いつものように手を振る。
いつものように笑う。
深「…おう」
それだけ返すのが、精一杯だった。
—
その日から
少しずつ、距離ができ始めた。
一緒に帰ることも減って、
話す時間も減って。
でも——
教室では、変わらず笑ってる。
誰に対しても、同じように
明るくて、優しくて、楽しそうに。
…なんなんだよ。
わかんねえよ。
あんな顔されたら、踏み込めねえし。
でも
放っておけるほど、どうでもいい存在でもなくて。
—
気づいた時にはもう
“ただのクラスメイト”には、戻れなくなっていた。