コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
通っている美容専門学校の横にあるこじんまりとした食堂でオムライスを食しながら昼休憩を過ごす私の元に、万人受けしそうな紺色の髪色をした男が私の座席の横に腰掛けた。
なんか、見たことあるかも。
思い出せそうで思い出せない脳みそをフル回転させる。
「川口さんだよね?」
男は紙コップに入ったお茶を片手に飲みながら突然、私の名を呼んだかと思うと、
「キミの彼氏ってこの人だよね?」
右上に細かい傷が入った自分のスマホを差し出し、1枚の写メを見せてきた。
――――それは私の彼氏が他の女と腕を組んで歩いている所だった。
でも、私は見逃さなかった。
この男の口元の口角が、ニヤリと上がっていたことを。
◆
私の名前は川口凪(かわぐちなぎ)。
美容の昼間課程の専門学校に通う2年生。
ここの学校で勉強したいと昔から思っていた。
入学してからというものの、楽しい専門学校の日々もあっという間に過ぎ、今では就職活動に追われる日々を送っている。
そんな私には、高校のときから付き合っている彼氏がいる。
彼氏は私の1個上で、所属していた部活の先輩だった。
毎日電話はしているし、連絡もマメに取り合っている。週に数回の頻度でお泊りもしている。
だからこの男の人が言っていることを、どこか他人事のように聞いていた。
何で私に彼氏がいることを知っており、写メまで撮ってきてるのだろう。
お昼時は込むからと、わざわざ時間をずらして食堂で食事を取っていた私を見つけては、丁寧に忠告してくれているつもりらしい。早くどこかに行ってくれないかなと願うも、自分が今から食べるであろう、うどんを私の真横に置いて、体を密着するように近づいた。
「……………はあ。確かに、似てますね」
「どうすんの?」
「………まだ浮気と決まったワケではないです。もしかしたら、このオンナが体調悪くて腕を組んでるだけかもしれないし、足を捻って腕を組んでるかもしれないし……というか、さっさと食べないと麺伸びますよ」
話題を変えたくて男のうどんの麺の心配をしてみるけれど、
「ハハッ。川口さんってドライだね。ちゃんと好きじゃないでしょ、その彼氏のこと」
失礼極まりない事ばかり言う、この男を、強く睨みつける。
「たったこれだけであなたは浮気と決めつけるんですか? ずいぶんねちっこいですね」
「まあ、オレは好きを高めて行動に移すから、好きな子できたら絶対離さないけどね。ねちっこいんじゃなくて、執着が凄いんだと思う」
いきなり自分の恋愛観を話し出すこの男に、空返事をしながら止めていたスプーンを持ちオムライスに視線を移す。
執着が凄いだろうが、ねちっこいだろうが、正直どうでもいい。早く私の前から消えてほしい。だけど、この男がどうやって私の彼氏を突き止めたのかが気になってしょうがない。
大学の友達には彼氏の顔は見せていないし、なんなら名前さえ言っていない。
誰かに聞くにしても、誰に聞いたんだろう。
「――――あの、なんで私の彼氏を知ってるんですか?」
「ん? あぁ、川口さんと彼氏が一緒にいるところを見たからだよ」
「…………見ただけなのに、私の彼氏だって、何でわかったんですか?」
「だっていつも夜の7時に南町のコンビニで待ち合わせしてるでしょ? その後、だいたいファミレスでご飯を一緒に済ませて川口さんのアパートに向かう」
「…………………え」
「川口さんのアパートに出入りしてるのは、コイツだけだし。彼氏かなって、違う?」
なんなのこの人………
なんでこんなに逐一私とヒロシの行動を知ってるの。それに、私のアパートまで把握されていて、彼氏以外の男は出入りしてなことも知られている。
怖くてゾッと背筋が凍った。
「あなた、何なんですか?」
強く睨む私に、男はキョトンとした目をする。
「おかしいなあ。キミの彼氏が浮気していることを忠告してやってるのに、何でオレが睨まれるかなぁー?」
―――――事実だとしても、事実なら知りたくなかった。知らないまま、ずっとこの先もヒロシと仲良く過ごしたかったのに……
この男が善としてやってる行動は、私にとっては悪だ。
「――――で、別れるよね?」
“どうするの?”から、”別れるよね?”に、質問がすり替わっている。
「教えてくれてありがとうございます。でも、別れるか別れないかはあなたに関係ないですよね?」
男は持っていたお茶のカップに一口、口を付け、ゴクッと喉を鳴らした。
「オレは教えてる側なんだから、別れたか、別れてないかくらい知る必要あるよね?」
意地でも知りたいらしい。
それでも、今この場で別れる別れないの判断をすることはできない。
「今は答えられないです」
「なんで? 何が答えられないの?」
「まだ彼氏とは話し合ってないので」
「話し合ったとこで、言いくるめるられるだけだよ? オレも話し合いに加わろうか?」