テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します
ご本人様方とは一切関係ありません
小児科医青×天才外科医桃
のお話です
ワードパレットでリクエストいただいた3つの言葉(タイトルになってます)を本文中に使用してのお話になります
青視点→桃視点
「抱きとめる 事故 真っ赤な顔」
病棟の小児科フロアに着いた途端、いつもより騒がしいな、とは思った。
「おわっ」
階段を上りきった先で、小さな影がどしんとぶつかって来る。
思わず声を上げて抱きとめると、俺の腰の辺りに思い切り鼻をぶつけた男児。
「ごめんなさい」と小さく謝るその頭をくしゃりと撫でてやる。
「どしたん、走り回って。危ないから廊下は歩こうな。どーんて、そのうち事故るで」
微笑を浮かべて諭すように言い、その子を見下ろす。
小さな手には紫色の紙が握られていた。
ぶつかったときに焦ったせいか、くしゃりと皺が寄っている。
「それ何?折り紙?」
目線を合わせて問うと、その子は後方を指さした。
示す先を追うと、何人もの子供とその親、看護師たちが集まって賑わっている。
その真ん中には見上げるほどに大きな、青々とした笹があった。
「…あーそうか、来月七夕かぁ」
もう1か月前だから、例年通り七夕飾りの準備が始まったらしい。
小児病棟は長期間入院している子もいるから、こういうイベントごとは割としっかり行われる。
毎年大きな笹が飾られ、子どもたちが願い事を書いた短冊を吊るす恒例行事だ。
「あ、いふくーん!いふくんも書こうよ願い事!!」
子供たちの真ん中にいたほとけが、俺の姿を見つけてぶんぶんと手を振った。
周りの子どもたちも振り返り、「先生こっちこっち!」と、あっという間にその中心に誘いこまれてしまう。
簡易的に容易されたテーブルに、色とりどりの短冊とペンが並んでいる。
引っ張られるようにして辿り着いたそこには、子どもたちに囲まれたほとけともう一人白衣の姿。
近藤先生という、うちの小児科の同僚だ。
高校時代から知り合いで、一つ年上の先輩だったりする。
「おつかれさまです」と軽く頭を下げた俺に、近藤先生は「おつかれさまー」といつものにこにことした笑顔を向けた。
少しだけぽっちゃりとしたどこか愛くるしさのある手にはペンが握られていて、子どもたちに急かされるままに願い事を書いているところらしい。
『みんなが一日も早く元気に退院できますように』
そんな願い事が書かれているのがちらりと見えてしまった。
子ども思いで優しい近藤先生らしい。それに引き換え……。
目の前の笹には、もう既に願い事を書いて飾り付けていった人も多いようだ。
その中に、近藤先生の爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいの自分本位な願い事を見つけてしまう。
『体脂肪一桁になりますように』
『にことずっと一緒にいられますように』
『今年の冬こそめちゃくちゃかっこいいコートほしい!』
短冊に書かれた名前なんて見なくても誰が書いたか分かってしまう。
…最後に至ってはクリスマスと勘違いしてないか?
そんな思いで失笑しかけた俺に、ほとけが言葉を継いだ。
「見て見て、さっきないちゃんも来て書いてったよ」
一番目立つ、ちょうどいい目線の辺りに飾られたピンク色の短冊を指さしてほとけが言う。
決してお世辞にもうまいとは言えない文字が、『世界征服』なんて簡潔な文字を誇示している。
……どこの悪役やねん。
そんな言葉を胸の内で転がした俺の隣で、近藤先生はペンに蓋をした。
それからまたこちらに軽く挨拶だけして立ち去っていく。
その後ろ姿が見えなくなってから、俺はほとけを振り返った。
「七夕の願い事やろ? 近藤先生みたいなん書くんが職員の鑑ちゃうん」
小さく肩を竦めながら言うと、ほとけは首を横に振って返す。
「近藤先生は立派だよ? でもそういうのは病院として用意した短冊にも書かれるから、職員だって自分の名前の短冊には好き勝手に書いていいと僕は思うわけ。見てよないちゃんめっちゃおもろいじゃん」
おもしろいか? 世界征服が???
ないことほとけの笑いのツボはたまによく分からない。
「いふくんも自分本位な願い事書いてみなよー。子供たちからウケるかもよ」
「…ウケ狙ってどないすんねん」
鼻であしらいながら、テーブルの上から青い短冊を取る。
黒ペンの蓋をきゅぽんと音を立てて開けると、そこに字を滑らせた。
その日家に帰ると、最近手術続きで疲労困憊のはずの天才外科医がソファに転がってスマホを弄っていた。
「おかえりー」
軽い口調で言って、肘置きの部分に置いた頭を仰向ける。
顎を上げて上目遣いのような態勢でこちらを見上げてきた。
「でた、どこぞの魔王みたいな願い事書いたやつ」
「ふは、あれ見たんだ」
揶揄するように言った俺に、ないこは吹き出すように笑って応じる。
「かずに書けって言われたから書いた」なんて人のせいにしながら。
「まろも書いた?」
「書いたよ」
「えー何書いたん? お前の願い事ってなに?」
うきうきした様子で声を弾ませながら、ないこは上体を起こした。
ソファの上に座り直し、何かを期待しているような眼差しを向けてくる。
「普通のこと書いたよ。『小児病棟の皆が早く元気になりますように』って」
言うと、ないこは「…まじめか」と唇を歪ませた。
「そういうのは病院の名前で書くじゃん。個人の名前で書くやつはもうちょっとウケ狙うとかしろよ」
「ほとけと同じこと言うやん」
「それかもっとプライベートに走った内容書くとか」
「例えば?」
「えー? 『ないこが一生笑って暮らせますように』『ないこが一生幸せでいられますように』『ないこが毎日お腹いっぱいご飯食べられますように』とかさ」
「最後はもう自分で叶えとるやん」
「はぁぁ? 俺今日緊急手術入って昼も食ってないんだけど!?」
「はいはい、おつかれー」
いつもの軽口の応酬を繰り広げながら、俺はないこが半分明け渡したソファに座った。
怠惰で緩慢な姿勢で背を預けて座り、足を組む。
そんなこちらに体重を預けるようにして「よっと」とないこはもたれかかってきたから、こてんと頭を寄せ返してやった。
「それにさぁ、ないこが今言うたような願い事って、天とか星とかに願うようなことじゃなくない?」
「へ?」
「『ないこが一生幸せでいられますように』じゃないんよなぁ」
言って、俺はないこの肩を後ろから掴む。
少しだけ前に身を乗り出すようにしてその顔を覗き込んだ。
「ないこは俺が一生幸せにするよ」
ふふ、と笑って口にした瞬間、ピンク色の髪に負けないくらいその頬が明るく染まっていった。
真っ赤な顔で、「おま…」なんて言葉を詰まらせている。
「…よくそんなはずいこと言えるよな」
「いい年した成人男性が『世界征服』も十分はずいと思うけどな」
からかうように言うと、「うるせ」とむくれたような声が返ってくる。
そしてお互いに、相手のこれ以上の悪ふざけを塞ぐようにして唇を重ね合わせた。
「ないこー!!」
翌日、病棟の階段を駆け下りていると大きな声が俺を呼んだ。
ちょうど小児病棟のフロアを通りかかったところだった。
振り返ると、かずが七夕の笹の下から手を振っている。
医局へ戻るだけだったし、今は時間に余裕がある。
呼ばれるままにそちらに足を向けると、今日も子供たちはきれいに飾り付けられた笹を見上げては嬉しそうだ。
「見て!今日もう一個お願いごとかいた!」
「へー、何書いた?」
「今日はー、『新しいゲーム機欲しい』って!」
「ふはは、いいじゃんいいじゃん」
頭をぐりぐりと撫でると、かずは嬉しそうに「ふふん」と得意げに鼻を鳴らした。
そんなかずが示す短冊の隣、青い紙が視界に飛び込んでくる。
きっとささっと書いただろうに、それでも流れるようなきれいな文字。
内容は昨日あいつ自身が言っていた通り『皆が早く元気になりますように』なんてものだった。
更にその隣には、近藤先生の名前で似たような願い事が書かれている。
…小児科医は真面目な奴しかいないのか。
そう思ったけれど、ふと顔を上げた時に見えてしまったピンク色。
笹の上の方に飾られた短冊で、しかも裏側に位置するせいできっとほとんど人の目に触れることがない。
小さな子供たちからしたら完全に視野の外で、目に留まることはないだろう。
大人でも顔を仰向けたり背伸びしたりしないと視界に入らない。
そこまでして探す人なんていないだろう場所に、ひっそりと括りつけられた桃色の短冊。
「…?」
裏向きになっているそれを、ぺらりと表に返してみる。
それを見やった瞬間、思わず息を飲んだ。
誰の目にもつきそうなさっきの青色の短冊と同じ文字。
名前は書かれていなかったけれど、あいつの字体を俺が見間違えるわけもない。
『好きな子が、ずっと隣にいてくれますように』
…お前はそういうやつだよな。
『ないこは俺が幸せにする』なんて言っておいて、それと同時に俺自身に選択肢も残している。
自分は俺を幸せにできると自負しているくせに、俺がそれを望まないなら縛り付けておくつもりもないんだろう。
だから、俺が自分の意志でまろの傍にいることを願う。
…なんて自信家で、なんて消極的。
矛盾したそんな側面すら、俺はこんなにも愛してるっていうのに。
「ばーか」
笑って独り言のように呟く。
お前が思ってるよりも遥かにもっと、俺は自分の自由意志でお前の隣にいるよ。
そんな当たり前のこと、改めて言うほどのことでもないけれど。
裏返っていたピンク色の短冊が、もう返ることのないように表へ向ける。
(俺が征服したいとしたら、お前の世界まるごとじゃんね)
胸の内の小さな小さな囁きは、当然すぐ傍にいる子どもたちの耳すら届くことはない。
ゆるりと吹き込んできた風に短冊が揺れるのを見やり、俺は白衣の裾を翻すと軽い足取りで病棟の階段を駆け下りた。
コメント
6件
フォロー失礼しますっ.ᐟ.ᐟ.ᐟマイリスト追加失礼しますっ.ᐟ.ᐟ.ᐟ やっぱお医者さんってかっこいいっすね、、✨✨ リアリティがあってなんかドラマみたいで、何度読んでもニヤニヤしてしまいます……(((
めちゃくちゃ久しぶりに見た✨️やっぱり医者っていいですよね(?)小児科の人たちは全員真面目…私も見習おうっと((実際にガチであるお話みたい(リアルってことです)桃くん緊急手術で大変そう…緊急手術ってだいぶ大きい病院じゃないと、なかなかありませんよねw同じことを言うようですけど、リアリティがあってとっても好きです!これからも更新頑張ってください!
医者パロ久しぶりですね💕︎ あおばさまを見つけたきっかけですし、大好きだったので更新嬉しかったです😊💖 青さんの「好きな子が、ずっと隣にいてくれますように」 子供の幸せを願うと共に、そんな事書いてあったら泣いちゃいますね🥹 そういえばあと1ヶ月で七夕ですもんね🫶🏻❤︎ 桃さんの「世界征服(青さんの」 はもう出来てると思いますよ〜、ꉂ🤭 更新ありがとうございます🙇♀️ 続きも楽しみに待っておきます🍀*゜