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心非ずの後追い

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心非ずの後追い

1 - 短編小説

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7

2025年08月02日

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【心非ずの後追い】

荒れ狂う波の音、世界の行き止まりのような断崖に立つ。

ここはイギリスの名所、ビーチーヘッド。眼下には雲海が広がり、果てしない空が永遠と続く。

男は静かに殺人犯が落とした銃を取り出し、額に当て、目を閉じる。暫くしてからゆっくりと引き金を引いた。しかし何も起こることは無く、少し残念そうにしてから車へと戻った。

───────────────────────

俺の名前はジェン・アヴィンソン。

今は、かつて死に別れた彼女と一緒に行った観光名所を1人で周って自害をする旅に出ている。結婚も近く、彼女の親とも関係は良好、幸せを掴む矢先、彼女は命を奪われた。


俺が家を留守にしていた時だった。俺に恨みを持った奴が彼女を殺したのだそうだ。


はっきり言って、彼女を殺した奴を同じ手段で殺してやりたい。だが、殺人犯が落とした銃に残っている弾は一発、しかし殺したところで、彼女が帰ってくるわけでもない。


彼女の元へといきたい、ならせめて彼女との思い出と共に死のう、という目的で人生最後の観光名所巡りをしている。


その場で死ねるほどの勇気があれば良かったんだが……臆病な俺にはそんなものはない。


観光名所を周りながら彼女との思い出に浸り、最後に残った弾丸をリボルバーに装填し、適当に回してから一発撃つ。空撃ちであれば、そこに彼女は居ないとして次の観光名所へ、そこで死ねれば彼女の元へといけると、そう信じて。


ペルーのマチュ・ピチュ、フランスのヴェルサイユ宮殿、スペインのアントニ・ガウディなど観光名所を周り、6回ほど自害を試したが、ことごとく失敗した。


彼女とは8つの観光名所を周って旅をしてきた。最後に行ったのは彼女が1番喜んでいた日本の來宮神社。


どうやらそこは健康長寿の効果があるとして有名だそうで、結婚後も2人で健康に長生きしていたいと、死が2人を別けても、片方が長生きして思い出話を語り聞かせようと言っていた。


もし、彼女が俺の死を望んでいないのだとしたら、そこまで俺がたどり着いたのだとしたら、もう少しだけ生きて、思い出作りでもしてみようと思う。


世界を旅するだけの貯蓄はある、元は結婚式の資金だったが、今となってはこれ以外に使い道が思い浮かばない。


観光先の国で泊まりと食事を行い、服や持物はリュック一つで収まるのみしか持ってきていない。どうせ死ぬなら、わざわざ大荷物にする必要もない。

次に行く場所は、7回目の旅行で2番目に行きたがっていたグアムの恋人岬。


ここは禁断の恋に落ちた男女が、周囲の反対を押し切って髪の毛を結び合い、断崖から飛び降りたという、伝説の残る場所だそうだ。


展望台には、その伝説にちなんだ「愛の鐘」とやらが置いてあり、カップルで鐘を鳴らすと永遠の愛が約束されると言われている。


俺は、愛の鐘の紐を軽く握る。透き通るような白と肌触りの良いその感触を懐かしむ。

彼女は俺の手を引っ張りながら、鐘のもとへと連れて行き、共に盛大に鳴らしたものだ。


その時の彼女は本当に楽しそうにしていた、波風に揺られ、輝く太陽のような髪と、夜空を映したような瞳がより一層美しく見えた。


思い出に浸りすぎていたのか、ゆっくりと吹き込んできた波風が彼女が常に纏っていた甘い香りを運んできた、そんな気がした。


目から溢れた涙を拭い、覚悟を決める。

いつの間にか波は荒れだし、風も強くなってきているが、丁度いい。


静かに銃を取り出し額に当てる。

手の震えは荒波と同調するように大きくなる。


勢いに任せ、トリガーに力を入れる瞬間──彼女の声が聞こえた。忘れるはずもない、聞いてるだけでも落ち着くような、水が滴り落ちるような繊細で、か細い声。


ふと、気が付けば猛々しい音を出すほどに荒れていた海は静かになっていた。

俺は深呼吸をしてからゆっくりと、トリガーに力を入れた。

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