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第10話「ここにいて」
部屋の中は静かだった。
時計の針は回っているのに、時間だけが止まっているようだった。
愛美はベッドの中。
毛布にくるまり、ぬいぐるみを胸に抱いていた。
「……ねえ、ウサちゃん」
「このまま、ずっと眠っててもいい?」
『うん。まなみが安心できるなら、それでいい』
「外は、まだ騒がしいのかな」
「誰かが、わたしを探してたりするのかな」
『もう、そんなこと気にしなくていい』
『ここには、もう誰も来ないよ』
カーテンは閉めっぱなし。
冷蔵庫は空っぽ。
スマホは壊して捨てた。
世界との接点を、すべて、自分の手で断ち切った。
不思議と、それは悲しくなかった。
ただ、ようやく静かになった心が、深く深く沈んでいくだけだった。
「ありがとう、ウサちゃん」
「最後まで、ずっとそばにいてくれて」
『まなみ。ずっと、ここにいて』
『まなみはもう、どこへも行かなくていい』
愛美は目を閉じた。
呼吸がゆっくりと落ち着いていく。
浮遊感のような心地よさ。
まるで、深い水の底に、音もなく沈んでいくようだった。
そして部屋は、完全に静寂に包まれた。
カーテンの隙間から、朝の光が少しだけ差し込んでいた。
その光に照らされて、
ベッドの上に置かれたぬいぐるみが、
ただじっと、まっすぐ前を見つめていた。
最終話終わりました!最後まで見てくれてありがとうございます!他の作品も見てくれると嬉しいです!
ーぬいぐるみに話しかける夜ー【完】
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