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46 - Ep41 異邦人

2024年03月31日

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 いつものように、長の指示の元で農作業が始まる。

 ここは異世界だと言うのに関わらず、数百年前の本で見た “日本” という世界の歴史書に倣い、毎朝起きてはカンカンカンと朝礼の鐘が鳴り響く。

咲良サクラ、早く行くぞ」

「分かってますよ…………」

 父の声掛けに、寝惚け眼の咲良は身支度を軽く済ませ、薄着を身に纏って畑に出でる。

「聞いてるか? 今日から、都市の方ではキルロンド王国の方から数十名の学生さんたちが来るそうだ」

「へー……」

 田舎に住む咲良に都市の話は無関係に等しい。

 そんな父の話を、話半分で受け流し、代々受け継がれているクワを片手に田畑を掘る。

 鎖国体制だの、なるべく倭国だけで流通を回すだのと、国の姿勢に咲良は反対派だった。

 もっと国々が友好的で、流通も盛んであれば、こんな面倒なことはしなくて済むのに……と、考えながらも、何も文句は言わずに農作業に勤しむ。

「おわああああああ〜〜!!!!!」

 ズドン!!!

 大きな音を立て、咲良の畑に少年が降ってくる。

 流石の父も、呆然と砂煙を眺めるが、咲良はハッとし、直ぐに救助に向かっていた。

「だ、大丈夫!?」

「うわ…………全然周りの光景が違う…………。あの、す、すみません…………ここ、どこですか…………?」

 降ってきた少年は、オレンジの髪を靡かせ、傷一つなく頭をボリボリと掻いていた。

「これ……岩シールド…………。君、もしかして “この世界の人” ?」

「ああ! 俺、キルロンド王国から来た、ヒノト! ヒノト・グレイマン! よろしくな!」

 そう言うと、ヒノトはニカっと笑った。

 ――

 父は、キルロンド王国から来た学生と知るや否や、すぐに家に招き、もてなしの準備を始めた。

 この国での規則、『他国との争いはしないこと』『従者には丁重に扱うこと』と決められていたからだ。

 父も初めての “この世界の人” と会ったせいか、どことなく緊張の様子が伺えた。

「なんか…………すごいもてなされてるけど、俺、早く戻らないといけないんだよな…………」

「そうだよね……! 都市の方から吹っ飛んで来たみたいだけど…………何があったの…………?」

「ああ、倭国に着いてから、まだ準備の部屋が整っていないってことで、取り敢えず大きな部屋に通されたんだけど、ちょっと浮き足立ってウズウズしてさ……。待ってる間に外の運動場を借りたんだけど、教官? みたいな人に吹っ飛ばされて…………」

「え…………先生に吹っ飛ばされたの…………?」

「先生って言うか…………あの人は特殊なんだよ。他にもちょっと問題があって、俺、急いで強くならなくちゃいけなくてさ…………」

 そう言うと、先程の満面の笑みとは違った、汗混じりの笑みを浮かべた。

「ほんじゃあ、悪いけど…………俺はそろそろ…………」

 ヒノトが立ち上がる瞬間。

「あのっ…………!」

「ん?」

 咲良は、咄嗟にヒノトを引き止める。

「僕でも…………こんな田舎育ちの僕でも…………強くなれると思いますか…………?」

 恐らく、ヒノトにとっては初めての質問に、静寂が訪れたが、ヒノトは咲良の目を真っ直ぐ見つめていた。

「わかんねぇ!」

「えっ…………?」

「俺もまだまだ未熟だし、強くなれるかどうかなんか、やってみないと分かんない。だからさ、着いてこいよ!」

 そう言うと、出会った時の笑みを浮かべた。

「着いてくるって…………どこに…………?」

都市部! 俺たちと訓練しようぜ!」

 咲良は、いけない展開になってしまうと、断りを入れようとした途端、父が先に言葉を向けた。

「いいのですか!?」

「はい! 倭国の人たちと沢山関わって、沢山の知見を得ろって言われてるんで、大丈夫だと思います!」

 咲良の知らない間に、話は進み、倭国の家には、一家に一つ置いてある刀を持たされ、気付いた頃には、咲良は案内役としてヒノトを都市部まで連れて行く命を課された。

「そういや、お前の父ちゃんが話してるので、サクラ? って名前は聞いたけど、なんて名前?」

「ああ、僕? 僕は、風間咲良カザマ サクラ。一応、風属性の魔法は使えるけど……戦闘経験はないんだ…………」

「へぇ! いいなぁ! 風の剣士か!」

 お世辞でもない、話を盛り上げる為でもない、本当にいいなと思っているヒノトの反応に、咲良は唖然とする。

「風属性の剣士なんて珍しくないでしょ…………?」

「んー、まあいるっちゃいるけど、俺って魔法が使えねぇからさ」

“魔法が使えない…………?”

「あぁ! 俺、生まれ付き魔法が使えなくてさ、だから、こうやって攻撃するんだ!」

 すると、ヒノトは剣を平らな地面に向ける。

「剣先を……後ろに構えた…………?」

 ボン!!

 轟音の後、ヒノトは猛烈な速度で前進し、吹き飛ぶように数十メートル先にいた。

「す、凄い…………。でも、属性を感じない…………?」

 ヒノトは、「お〜い!」と手を振っていた。

「これ、魔力を暴発させてるんだ! 魔法は使えない代わりに、魔力を爆発させて速度に変えてる」

「へ、へぇ…………。すごい戦い方だね…………」

「アハハ、でも俺の世代でも、まだまだ強い奴は沢山いるからさ、早く強くなりてぇんだ!」

 そんなヒノトの言葉に、咲良はただ見つめていた。

 “強くなれるかどうか” を悩んでいる暇があるなら、こう言う人は、“どう強くなるか” 考えているのだと。

 暫く歩くと、倭国にしかないと言われている電車が走る駅に着き、ヒノトは目を輝かせて乗り込んだ。

 小一時間、電車に揺られると、ヒノトの「あ、ここ! ここさっき見た!」との声で、近場の駅に降りる。

「ああ、ここだ! この建物!」

 すると、中から赤髪の目付きの怖い女性が現れる。

「おい、ヒノト! 防御もロクにできないで、一体どこまで吹き飛ばされていたんだ!!」

「いやいや、ルギアさん…………。倭国来て、シールド張ってもらったとは言え、あんな急に全力でぶん殴られたら誰だってぶっ飛びますって…………」

「何を甘えたことを言っている!! 貴様が早く、力に目覚めたいと言うからだ!! 本気でやらねば力の覚醒など出来るわけがないだろう!!」

 ヒノトが何も言い返せずに冷や汗を滴らせる中、「この人がヒノトを吹き飛ばした鬼教官か……」と、咲良は確信と同時に同じく威圧感にただ呆然としていると、ルギアは咲良を見遣る。

「ん? なんだ、ソイツは?」

「あ、吹き飛ばされた俺を助けてくれたんです! シルフさんも、小さな出会いを大切にするようにって馬車で言ってたし、強くなりたいって言うから連れて来たんです!」

「ほう、貴様、名は?」

「倭国より、稲作村いなさくむら出身、風間咲良です!!」

 ルギアは、暫く睨むような目付きで咲良を眺めると、歯を見せてニタリと笑った。

「いい筋肉だ。扱き甲斐がありそうだ…………」

 そう言うと、ルギアは中へと入って行った。

 ヒノトは立ち止まったままだった。

「ヒノト……着いて行かなくていいの…………?」

「咲良……聞いてなかったのか……? あの人、『扱き甲斐がある』って言ったんだぞ…………」

 そう言うヒノトの目は、自分のことじゃないのに涙目になっており、ヒノトと出会った経緯を思い出しながら、咲良も背筋を凍らせた。

「ま、まあ、取り敢えず行くか…………」

 こうして、田舎に住む少年、風間咲良を引き入れ、ヒノトたちは大きなビルへと足を踏み入れた。

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