テラーノベル
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「……俺、気づいてしまったかもしれん」
イルカショーの会場。濡れへんギリギリを攻めたセンター席に、横一列で座る。
元、はんちゃん、空、俺。
行きの電車の時とは違う並び順。空が先に元とはんちゃんを順番に座席へ押し込んだのは、少し意外やった。
「……え?」
「……お前、あの子のこと好きやろ?」
「………………………え?」
バレた。
自覚した途端、耳の付け根が熱くなるのがわかった。自分でも体温が上昇していくのがはっきりと伝わってくる。
「……ッ、え? どのタイミングで?」
空が訝しげに俺を見つめてくる。こいつには全然思い当たる節がないらしい。そりゃそうや、あの仲直り騒動の最中、こっちのことなんて気にする余裕はなかったはずやし。
「……なんで決定なん?」
ふふっと誤魔化して笑うと、空がニヤリと口角を上げた。
「だって、もとちゃん分かりやすいもん。あから様に意識してますって感じでてる」
すごいな。流石、長年友達をやってきただけはある。はんちゃんのことだけ見てるようで、俺のこともちゃんと見てくれてたんやな。
「あと、この動画……はんちゃんが『その動画あとでちょうだい』って言うた後の、この顔!!」
「……ッ」
「めっちゃ目泳いで、必死で何か考えてるやん!」
証拠の動画を見せつけながら、悪魔のような声で笑っている。もう、やめてくれ。
「この『よし、決心した!!』みたいな顔が笑えるわ」
クククッと笑いを堪えながら、空が画面を突きつけてくる。俺自身には、そんな風には全然見えへんねんけど。
「……残念ながら、おっしゃる通りです。いや、空の観察眼はすごいわ」
「はんちゃんなら絶対見抜けへんな。……いや、俺、ほんまに凄いわ」
二人で目を合わせて、小さく笑い合う。隣に座る二人が時折、こっちの盛り上がりを気にして覗き込んでくるけれど、とりあえず動画を見て楽しんでいる風、を装っておかなければ。
「で? 言うの?」
「はぁ!? 言うわけないやろ。さっき会ったばっかりやぞ!?」
ほんまに有り得へん。これがただの「旅行マジック」なだけかもしれへんのに。
「……はんちゃんにも、そんな感じやったんやろ? 遠慮して、結局気づかれもせず終わらせた」
「……空だってそうやったやろ。だから、この歳まで付き合えへんかったんやん」
「やからよ。俺ら、いくつやと思ってるん? もう三十前やで? 俺ら大人やで? この先はもう、しわくちゃになっておじいちゃんになっていくしかないんやで?」
空の言葉に熱がこもる。
「もとちゃん、知ってるか? 人間の一番美しい年齢って、二十八歳やねん。まさに今!! また十年経って、『好きな子を手に入れたい』って思った時には、もう、きったない、くっさいただのおじさんになってるんやで!? 今! この時に伝えな、どうするん!?」
「……いや、やっぱ早すぎるわ」
「……じゃあ、もしも、あの子に会えるのが、もう今日と明日だけやって考えたら? もとちゃんは後悔せえへん? 明日で最後やで。それ以降、金輪際会うことはない」
少し声のトーンを落とした空が、真面目な顔で問いかけてくる。
そんなん……「もしも」の話じゃなくて、ほんまにそうなる可能性だってあるやん。
「……悲しい。この先、誰かに出会って運良く結婚できたとしても、結局、ずっと心の隅に居座り続けるんやと思う」
「ほら、もう決まってるやん。とりあえず、意識してもらうところから始めよ。――はんちゃん、ちょっとチュロス買いたいからついてきて。もとちゃんが買ってこいって、めっちゃわがまま言うねん」
「えー、しゃあないなぁ。元もいる?」
はんちゃんが隣の席の元と話しながら、通路へと足を向ける。
俺が立ち退いたものの、元までついて行ったらどうしようと焦った。けれど、元は座ったまま、ひょいと隣の空いた席を叩いた。
「もとちゃん、こっち。そこ、荷物置いといたら?」
そんな無邪気に、俺を誘う。さっき放った自分の言葉が、今さら頭の中をぐるぐると駆け巡っている。
「……近ない?」
ゼロ距離で太ももが触れ合う位置に腰を下ろすと、元が少しはにかんで笑った。
青白い照明の下、その横顔があまりにも綺麗で、俺は喉の奥が熱くなるのを感じる。
「……あの」
「ん?」
「……好きやなって思ってる。元のこと」
恥ずかしすぎて、直視できひん。断られるよな? 絶対に引くよな?
心臓の音が、会場の音楽よりも大きく響いている気がした。
「え?……俺も好きよ、もとちゃんのこと」
「……ほんまに?」
「うん、ほんまに会えて良かったって思ってる」
少し戸惑った後に見せた、元の柔らかな笑顔。
それを見ていると、伝えて良かったと思った。これがもし、恋愛感情としての「好き」だと大袈裟に伝えていたら、明日までずっと、この子の顔を曇らせるところやったから。
「そっか、良かった。同じ気持ちで」
俺も、できる限りの笑顔で返す。
いいねん、このままで。友達としてでも「好き」やと言ってもらえた。それだけで今は、十分に満たされている。
「……元はこういうところ、デートで来たりすんの?」
「ん~、デートかぁ……どこ行くかなぁ……」
「そんな考え込むほど行ってへんの?」
思わずクスクスと笑いが漏れる。
はんちゃんからは、突拍子もないことを急にやったりすると聞いていたけれど。全然ふざけたりもせえへん、普通に可愛らしいだけの子やな。
「え~、逆にもとちゃんはどこ行く?」
「俺?……俺は、家でまったりするタイプかなぁ」
「あ、俺もそれかも! そりゃデートの思い出、出てこーへんはずやわ」
改めて考えへんと自分のこともわからへんって、どういうことよ。
元はいっつも、好きな人に合わせて、無意識に自分の過ごし方を変えてるんかな。
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