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はる🐣
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夢主の設定
・名前:不死川萌希(しなずがわ もえぎ)
・玄弥のお嫁さん
美味しく食べられるものを
幼馴染みで長年想いを寄せた相手とめでたく結婚した。可愛くて優しい、自慢の妻だ。家族ぐるみで仲が良く、兄貴も妹のように可愛がってきた萌希。
籍を入れて2ヶ月程経ち、萌希の妊娠が発覚した。生理が遅れているのと、ずっと熱っぽい感じで検査薬を試し、陽性が出たとのことだった。一緒に病院へ行き、無事に着床していることが分かり、俺と萌希は手を取り合って喜んだ。
妊娠3ヶ月。萌希の体調に異変が現れた。“つわり”というやつだ。彼女の場合、典型的な“吐きづわり”に苦しめられるようになった。食べたものを吐いてしまうし、匂いにも敏感になって、思うように食事が摂れない。酷い時には自分の唾液さえ飲み込むのがつらいと言う。元々色白な肌が紙のように真っ白になって、ひと目で具合が悪いのが分かる。小柄で華奢なのによく食べる彼女が、大好きな食事もできなくなってしまい、俺も俺の家族もめちゃくちゃ心配した。
『…玄ちゃんごめんね……。全然ごはん作れなくなっちゃって…』
青い顔でソファに横になったまま、萌希が申し訳なさそうに言う。
「気にするなよ。実家からおかずもらうこともあるし、適当に惣菜買ってきたりして食べるからさ」
『料理どころか家事もまともにできてない……』
「いいって。萌希は今お腹の中で人間育ててくれてるんだから。家事は俺にもできるけど、それだけは替わってやれないから。気にするなよ」
『うぅ…っ…』
萌希の目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。つわりが始まってから、萌希はよく泣くようになった。妊娠によるホルモンバランスの変化だけじゃないと思う。体調も悪い上に家事もできなくて、気分もかなり落ち込んでいるのだろう。
気の利いた言葉が浮かばなくて、俺は零れ落ちた涙をティッシュで拭って、頭を撫でてやるしかできなかった。
妊娠中は食の好みも変わることが多いとよく聞く。しかも日によって食べたいもの、食べられるものが変わることもあるそうだ。妊婦さん全員がそうとは限らないが、萌希の場合はちょこちょこそれに当てはまっていた。栄養を摂るのはもちろん大事だが、つわりでしんどい時は無理せず、食べられるものを食べられる時に食べられる量だけ摂るのがいいらしい。
「萌希、プリンとヨーグルトとゼリー買ってきたけど、どれか食えそうか?」
『…ん…、ゼリー食べてみようかな……』
昨日はプリンなら食べられた萌希。しかしその十数分後にはトイレに駆け込んでしまった。今日はどうだろうか。
『あ、ぶどう味だ』
蓋を捲り、スプーンで掬って口に運ぶ。
『おいしい』
青白い顔に少し赤みが戻る。
よかった。ちょっとでも食べられるなら。
でも2、3口食べたところでスプーンを置いてしまった。
「もういいのか?」
『…うん、ごめん…、ちょっともう食べられないかも…』
「…そっか……。また何か食べたいのあったら言ってな」
『うん……』
萌希をソファに横にならせてから、食べかけのゼリーを俺が食べる。そして、夕飯の仕度に取り掛かった。
妊娠4ヶ月。12週目の中間くらい。ほんの少し、萌希のお腹がふっくらし始めたように感じる。つわりのピークは過ぎたものの、まだ思うように食べられない萌希。病院に入院するレベルでは無いが、少し体重が落ちてしまっていた。
夕方。アパートのインターフォンが鳴り、出てみると兄の実弥だった。
「よォ」
「兄貴。どうしたんだ?」
「帰りにスーパー寄ったらいいもん見つけて買ってきた。……萌希は?」
「今日は比較的体調いいみたいだよ」
「そうか。よかった」
『あ、実弥兄ちゃん』
後ろから萌希が顔を覗かせた。
「具合どうだ?」
『気持ち悪いののピークは過ぎた気がする。でも油断するとまた食べたもの戻しちゃうの』
「そうか。きちィな……」
『大丈夫だよ。玄ちゃんもいっぱいサポートしてくれるし。…実弥兄ちゃん上がったら?』
「いいのか?」
『うん、もちろん』
「ならお言葉に甘えてお邪魔すっかな」
兄貴が家の中に入る。買ってきた“いいもん”の入った袋を俺に手渡してきた。
「あ、スイカ!」
「糖度13度だってよ」
『わ、それは甘いね』
2袋のカットスイカのパッケージには、兄の言った通り両方に「糖度13です」と書かれたシールが貼ってあった。自分がスイカが好きなので買ってきてくれたのだろう。
「早速切って食べようか。せっかくだし兄貴も食べるだろ?」
「んー、そうだな。ちといただこうかね」
キッチンでスイカを開封する。包丁で実をカットして皿に移す。そしてちょこっとだけつまみ食い。
「ん!甘い」
『甘い?よかったね』
いつの間にいたのやら、萌希に俺のつまみ食い現場をしっかり目撃されていた。
「萌希も食えそうか?」
『うん。食べたい。美味しそう』
「!そっか。一緒に食べような!」
萌希の口から“食べたい”と言葉が出てきたのはかなり久し振りだった。お腹の子の為にと、無理矢理食事を摂ってはトイレに駆け込んでいた彼女。そんな彼女が自ら“食べたい”と言ってくれて、俺は嬉しさのあまり思わず目頭が熱くなった。
「…よし、これでいいか」
カットスイカ2つ分の入った皿をリビングに持って行く。フォークも3本つけて。
「お待たせ」
「サンキュー」
『玄ちゃん、ありがとう』
いただきます、と手を合わせてそれぞれスイカを口に運ぶ。
「お!ほんとに甘いな」
「うん、美味い!」
『美味しい〜!』
萌希が顔を綻ばせた。何かを口にしてこんな笑顔を見せてくれたのも久々だった。
「萌希、よかったな。いっぱい食えよ!」
『うん!』
めちゃくちゃ嬉しかった。多分、それは兄貴も同じだと思う。
「買ってきた甲斐あったわ。また買ってくっからな。スイカじゃなくても食べたいもんあったら遠慮なく言えよ」
『うん、ありがとう実弥兄ちゃん』
萌希も幸せそうにスイカを食べる。その頭を、兄貴がわしゃわしゃ撫でくり回した。
『つわりがもう少し落ち着いて色々食べられるようになったら焼き肉行きたいな』
「おう、いいぜ。連れてってやる」
『あとスイーツバイキングも行きたい』
「よし行こう!」
『あとは、お洒落なカフェにも行きたい』
「萌希の食いたいもん全部食わしてやるよ」
『やった!実弥兄ちゃん、玄ちゃんありがとう 』
食べることが好きな萌希。つわりできつい時期、食が楽しくないと嘆いていたが、また自分の食べたいものを言ってくれるようになって本当に嬉しい。
俺たちのところに来てくれた命を、一生懸命にお腹の中で守り育ててくれている萌希。出産まであと数ヶ月、そして無事に産まれてきてくれてからも、全力で妻を支えたい。幸せな家庭を作るんだと、これからの人生、彼女と共に歩いていくと決めた日に誓った。
萌希、いつもありがとう。これからも俺の命を懸けて君を守るよ。
終わり
コメント
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読ませていただきました。第12話、じんわりと心が温かくなりました。萌希さんが久しぶりに「食べたい」と口にした瞬間、玄弥さんの目頭が熱くなる気持ち、すごく分かります。実弥さんの「糖度13度」スイカの気遣いも、お兄ちゃんらしくて素敵でした。ああ、食べられるって、こんなに嬉しいことなんだなって。お腹の命を守りながら、家族の絆がまた深まっていく様子が丁寧に描かれていて、とても好きです。次も楽しみにしていますね🌷