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「」せりふ ()こころ
桃 side .
朝の教室は、いつもよりずっと静かだった。
いや 、 静か というより 、 重苦しい空気 が 澱んでいる と 言ったほう が 正しい 。
自分の席 に カバンを置き 、 周囲 を 見渡す 。
昨日 まで 五人 だった 空席 は 、 そのまま 増えること も 減ることもなく 、 そこに ぽっかり と 不自然 な 空白 を 作っていた 。
(誰も 話しかけてこない 。 これでいいんだ)
俺は 机に 視線 を 落とし 、 小さく 息を 吐き出す 。
クラスメイトたち は 、 突然 心を閉ざした 俺を 不気味に 思ったのか 、 あるいは 腫れ物 に 触るような 目で 見ているのか 、 誰も 近づいてこようとは しなかった 。
俺の 作った 孤独の 防波堤 は 、 今のところ 正しく 機能 している 。
けれど 、 その 平穏は 、 朝の ホームルーム の チャイム とともに 無残 に 打ち砕かれた 。
ガラガラ 、 と 前方の ドア が 開く 。
入ってきたのは 、 担任 の 先生 ではなかった 。
隣のクラス の 、 白髪混じり の 学年主任 の 先生 だ 。
教壇 に 立った その顔は 、 いつになく 強張っている 。
「えー 、 朝の連絡 の 前に 、 お前たちに 伝えることがある」
学年主任 の 先生は 、 一度言葉 を 詰まらせ 、 それから 重い口を 開いた 。
「担任の 、 佐藤先生 の ことだが 。 …… 昨日の夜 、 学校からの 帰宅途中 に 、 不慮の事故に 遭われた」
(え ―― ? )
心臓が 、 ドクンと 嫌な音を 立てて 跳ね上がった 。
「事故 、 ですか ? 」
クラスの 誰かが 声を上げる 。
学年主任は 痛ましげに 頷いた 。
「ああ 。 昨日の 帰り道で 、 トラックに 巻き込まれたらしい 。 幸い一命は 取り留めたが 、 大怪我で 意識が 戻っておらず 、 そのまま 入院と なった」
「警察が 詳しく 調べているが 、 運転手は そのまま 逃走したそうだ 。 …… そういうわけだから 、 しばらくの間は 俺が このクラスの 副担任として 代わりを 務める」
先生の声が 、 どこか 遠くの方で 響いているように 感じられた 。
嘘だ 。
嘘だろ 。
昨日 。
昨日の放課後 、 あの 無人の教室で 、 先生は 俺 を 心配して 声をかけてくれた 。
『何か怯えている 理由が あるなら 、 俺に 話してくれ 。 力になるから』
そう言って 、 俺に 優しく 手を 差し伸べてくれた 、 あの先生が 。
(俺 の せいだ)
頭の中が 真っ白になり 、 指先が ガタガタと 震え出す 。
同級生だけ じゃない 。
俺を 心配して 、 俺に 深く関わろうとした 大人まで 、 あの恐ろしい 『呪い』 は 容赦なく 引きずり込んでいくんだ 。
(昨日 、 先生の 優しさを 拒絶して 、 逃げるように 飛び出したから ? )
(それとも 、 俺の近くに 居すぎたから ?)
激しい 罪悪感が 、 津波のように 俺の身体 を 飲み込んでいく 。
俺 の近くにいる人間は 、 みんな 不幸になる 。
傷つけられる 。
消されてしまう 。
もし 、 俺が これ以上 、 この学校に いたら 。
誰かと 一言でも 言葉を交わしたら 、 次は 別の誰かが 血を流すことになる 。
「百瀬くん ? 顔色が 悪いよ 、 大丈夫 ? 」
隣の席の 女子生徒が 、 怯える 俺 の様子に 気づいて 声をかけてきた 。
その瞬間 、 俺 は 悲鳴を上げそうになりながら 、 椅子を 蹴立てて 立ち上がった 。
「さわるな …… っ ! 」
「えっ …… ? 」
驚き 、 傷ついたような顔 をする 彼女の 視線が 痛い 。
ごめん 。
ごめんなさい 。
でも 、 俺に 関わっちゃ ダメだ 。
俺に 優しくしないでくれ 。
死んでしまう 。
みんな 、 いなくなってしまう 。
「すみません 、 気分が悪くて …… 保健室に 行きます」
俺 は 学年主任の 返事も 待たずに 、 カバンを 掴んで 教室を 飛び出した 。
廊下を がむしゃらに 走り 、 階段を 駆け下りる 。
目指したのは 保健室ではなく 、 学校の裏口 だった 。
もう 、 この学校には いられない 。
俺 が みんなを 壊してしまう 。
冷たい 冷汗が 全身から 噴き出し 、 過呼吸気味の息が 喉を せき止める 。
誰もいない 場所へ 。
誰の手も 届かない 、 暗くて静かな場所へ 逃げなきゃいけない 。
学校を 飛び出し 、 住宅街の 細い路地を がむしゃらに 走った 。
涙で 視界が 歪み 、 足元が ふらつく 。
もう 実家に帰る気力すら なかった 。
あそこは 、 夜になれば 親が 帰ってくる 。
俺 が いたら 、 お父さんも お母さんも 、 あの 呪い に ―― 。
「はぁ 、 っ 、 は …… っ 、 だれか …… 」
助けて 、 と叫びそうになって 、 その言葉を 飲み込む 。
俺 を 助けられる人間 なんて 、 この世界には もう 、 一人しか いない 。
―― すち 。
どんな時でも 俺 を 最優先にして 、 絶対に 居なくならないと 抱きしめてくれた 、 世界で一番愛おしい恋人 。
スマホの電源を 入れれば 、 すぐに すちの声 が 聞ける 。
すち のあの優しい笑顔に 会える 。
でも 、 ダメだ 。
今 、 すち に頼ったら 、 すち まで あのトラックに 撥ねられてしまうかも しれない 。
すち が血を流して倒れる姿 なんて 、 想像しただけで 狂ってしまいそうだ 。
「すち …… すち 、 会いたい 、 よ …… っ」
冷たい コンクリートの壁に 背中を 預け 、 俺は その場に へたり込んで 激しく 泣いた 。
大好きな人 を 守るために 、 大好きな人 に 会えない 。
世界から 一人ずつ 人が消えていき 、 最後には 俺一人だけが 取り残されるのではないか。
そんな 底知れない恐怖に 震えながら 、 俺は 膝を抱えて 泣き続けた 。
その 路地の入り口に 、 静かに 黒いセダンが 滑り込んできた ことにも 、 気づかずに 。
【い】
episode 4 . fin_
コメント
3件
今回も🌾失ですっ.ᐟ.ᐟ 毎回クオリティ高すぎて尊敬すぎますっ….ᐟ 🌸様の呪いへの悩みとか、最後のセダンのシーンとか… ワクワクするところが多すぎて夜しか眠れません((((( 最後に毎回【】をつけて一文字書いてるのもなんかヒントになりそう… 考察が捗りそうなお話でした.ᐟ.ᐟ 毎日投稿も頑張ってください.ᐟ.ᐟ 長文失礼しましたぁ〜
うわ、重い……。桃くん、自分を呪いの原因だと思い込んでる感じが痛いほど伝わってきた。担任の先生の事故が「自分のせい」って自己犠牲的な思考、読んでて胸が苦しくなったよ。すちに頼りたいけど頼れないジレンマも切ないし、最後の黒いセダン、何か不穏すぎる…。次が気になりすぎるわ。