ともさんたちに見送られて、いつもの家に帰ってきた。
「(やっぱりこの家がいちばん安心する)」
「あ」
「「「?」」」
「みんな、おかえり。お疲れ様」
いつもは出迎えてすることだけど、今日は一緒に帰ってきたから変な感じがする。
「ただいま、トラゾー」
「ただいまです、トラゾーさん」
「ただいまトラゾー。…トラゾーもおかえり」
「!、はい、ただいまです」
なんとなく擽ったい感じがして照れる。
「あ、ねぇトラゾーさん。僕お腹空いちゃいました」
「あ俺も。腹減った」
「え、急に何…。てか俺、料理得意じゃないけど…」
「俺もトラゾーが作ったもの食べたいな」
「えぇ…」
疲れた顔をしてる3人にじっと見られて、困惑する。
「……うぅ…不味くても文句言うなよ。…特にぺいんと」
「は⁈なんで俺だけ⁈」
「だって思ったことすぐ口に出すじゃん」
「言わねぇって!」
「…ホントかよ」
「トラゾーが作ったもんに文句言うわけないじゃんか」
嘘をついてるような顔はしてない。
ここは諦めた方がいいみたいだ。
「………分かった、分かりました。…ホントに文句言うなよ、あんたらが言ったんですからね」
「言わないよ。俺はね」
「僕も言いませんよ!」
「言ったら一生作んないから」
「「「それはやだ」」」
「も、う…、あっち行っててください。見られてたら気が散って作れないです」
エプロンをつけて、袖を捲る。
「?、」
手首に残る鬱血痕。
「縛られたような…?」
ここ2日ほど前の記憶が曖昧だ。
いや、記憶がない。
すっぽりとそこだけ抜け落ちてる。
体に残る傷といい、大怪我をするような依頼を受けた記憶、と言うよりも受けさせてはもらえないのだけどないはずだ。
「トラゾー?」
「いえ、なんでもないです」
顔を覗かせたクロノアさんが心配そうに眉を下げている。
「そう…?」
鬱血の跡をじっと見てきたから、首を振る。
「はい。憶えてないってことは大したことじゃなかったのか、よほど忘れたかったことでしょうから」
「……そっか。…やっぱり俺もなんか手伝おうか?」
「いえいえ、疲れてるクロノアさんに手伝ってもらうのは申し訳ないですから。大丈夫ですよ。ゆっくりしててください」
リビングの方を見れば2人も心配気に俺を見ていた。
大丈夫だと笑うとぺいんともしにがみさんもほっとした顔で笑い返してくれた。
「ほら、クロノアさんも2人のとこに座ってテレビでも観ててください。本音を言えば邪魔ですから」
「邪魔…、…うん、ごめん。大人しく座ってるよ」
若干肩を落としてソファーに座るクロノアさんの落ちた肩を2人が叩いていた。
「…食べたいって言われたけど、何でもいいのかな」
冷蔵庫、冷凍庫を開けて中を確認する。
自炊しないからあんま入ってない。
「こんなんじゃあんま手の込んだもの作れねぇよ…。いや、そもそも作れんけど…」
ちらっとリビングを見れば談笑してる3人。
「うーん…まぁ、うどんとかでいっか。夜遅いし」
冷凍うどんとネギ、豚肉がちょうどあったから。
うどんを茹でている間、豚肉を小口に切る。
切った豚肉に塩振って麺つゆに漬けてレンジで数分チンする。
3人分の器を出して、茹で上がったうどんを分ける。
夜中だから少なめに。
うどんのつゆはお手頃のものを使わせてもらった。
「調味料だけ無駄にあんだよな…」
チン、と音がして火が通っているかを確認してもう少しかと追加で数分チンする。
その間に洗い物を済ませようとたまたま前を見たら3人が黙って俺の方を見ていた。
「うわ、え、なに」
「いや、手慣れてんなって」
「手慣れてるって、…ともさんに教えてもらった簡単なやつだぜ?」
「それができてるからすごいんですよ」
「えー…」
「うん、奥さんみたいだね」
「なっ、…バカですか!俺男です!」
「トラゾー可愛いから」
「可愛くないですって!」
そこでチンとまた音が響く。
レンジを開けて、火の通った肉をうどんに乗せる。
「ほら!できました!さっさと食べてください!!」
「「「わーい」」」
大きい子供を見てるようで呆れつつも笑う。
「食べててくださいね。俺、お風呂入ってきますから」
「「「………」」」
「?、どした」
「「「いってらっしゃい」」」
ほんの少し、ホントに一瞬。
3人の目が細められ、肌を刺すような空気を感じる。
「(なんだ…?)」
それはすぐに消えたけど、確かに感じた。
「……ま、いっか」
頭を振ってお風呂場へと向かった。
お風呂から上がると3人の姿はなく。
リビングの明かりも消えていた。
食べた器もちゃんと食洗機に入っていた。
「部屋に戻ったんかな」
待っててと言ったわけじゃないけど、なんか寂しい。
「…ま、いいや。俺も自分の部屋に戻ろ」
なんかすごく体が疲れてる。
タオルで髪の毛を拭きながらクロノアさんの部屋の前を通りかけて、急にドアが開き中に引っ張り込まれた。
突然のことで反応できず。
ドアが閉まる寸前、頭にかけていたタオルが廊下に落ちるのが見えた。
「あったまれた?トラゾー」
「ク、ロノアさん…?」
「またちゃんと乾かさずに出てきたんですね」
「しにがみ、さん…?」
「短いからってちょっとズボラすぎだろ」
「ぺい、んと…?」
俺の腕を掴むクロノアさんを見つめる。
「どう、かしましたか?…うどん、美味しくなかった…です、か…?」
「ううん。すごい美味しかったよ」
ふっと穏やかに笑う顔はいつも見てるのに、どこか違和感があって。
「トラゾーさん、ありがとうございます。ごちそうさまでした」
「どういたしまして…?」
にこっと可愛く笑う顔も、なんとなく違和感があって。
「なぁ、トラゾー俺ら掃除頑張ったんだよ。いい子に待てたトラゾーにもご褒美やるから俺らにもくれねぇ?」
にっこりと明るく笑う顔も何故か違和感があって。
「クロノアさんが言ってた、やつ…?」
「うん」
腕を引かれてベッドに座らされる。
「俺たち、トラゾーのこと大切で大好きなんだ」
「俺も、みんなのこと大切ですし、大好きですよ?」
「俺たちの好きは、こういうことだよ」
トンと肩を軽く押されてベッドに倒れる。
「へ…⁇」
見上げる先には、天井とライトと3人の顔。
「愛してるんだよ、トラゾーのこと」
「ひゃっ」
Tシャツの裾からクロノアさんの手が入ってきてお腹を撫でられる。
「俺らトラゾーのことマジで愛してる」
「ひゃう」
ぺいんとの手がハーフパンツの裾の中に入って太ももを撫でた。
「ホントですよ。僕たち、トラゾーさんのこと超愛してます」
「ひぅ」
首元をしにがみさんが撫でる。
「ま、待っ…」
「待たない。ずっと待ったよ、俺たち」
押し返そうとした手はクロノアさんに握られ、ベッドに縫い付けられた。
「トラゾーは、俺たちのこと嫌い?」
「嫌いなわけ!……だ、だって、過保護だなって、ずっと思ってたから…」
「言ったじゃねぇか。大切な、って。過保護になるに決まってんだろ」
「でも、っ」
「トラゾーさんは、僕たちとこういうことするの嫌ですか?」
「嫌とかじゃなくて、…は…」
「「「は…?」」」
「恥ずかしいじゃんか…」
空いてる方の手で顔を隠す。
「こ、こんなこと…っ」
「嫌じゃないんだ?」
意地悪くそう言ってくるクロノアさんを涙目で睨み上げる。
「ぅ、いじわる…」
「「「………は?」」」
三者三様の低い声にびくりと肩が跳ねる。
「決めたわ」
「そうですね」
「うん」
「な…なに…?」
「「「抱き潰す♡」」」
なんの防御力にもならない服はあっという間に脱がされた。
「!!、せ、せっかくお風呂入ったのに…!」
「大丈夫ですよ、また一緒に入りましょう?」
「そうそう。キレーにしてやるよ」
「てか、俺たちに抱き潰されるのはいいんだ」
「っっ!」
この人俺に言わせる気だ。
「、!っ〜〜!!あなたらを拒絶してない時点で察しろバカッ!!」
片手で顔を覆い隠す。
真っ赤になって涙目でみっともない顔を。
「……あー…」
「……これは…」
「トラゾー」
「は、ぃ…?」
指の隙間からクロノアさんたちを見る。
けど、見なきゃよかったって後悔した。
まさに今から喰うぞ、と言わんばかりに瞳孔が開いて俺を見下ろす3人がいた。
「!!…ぁ、ぇ、あっ、と……や、ヤサシクシテネ…?」
「「「ム、リ♡」」」
触れられることに、なんの恐怖感もなく。
感じていた違和感とかはこれだったのだろうと、無理に納得させた。
「(…”初めて”なのに……、うぅ…もう、どうにでもなれ!)」
俺は縫い付けられたままになっていたクロノアさんの手を強く握り返すのだった。
コメント
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krさん達のこと受け入れてるtrさん可愛い💕 あーそっかぁ、"初めて"かー そっかそうだもんな、そうだよね 当たり前かぁ…なんにも思い出さなくていいんだよtrzさん、いや、思い出すものもないか! そのまま愛され抱かれてろ!!!