──渡された資料を見て、自分なりに取扱い店舗のジャンルや販売ターゲット等のプロモーション用リストをまとめていたら、いつの間にか時間が過ぎていたらしかった。
途中で、「「お先に、帰るね」」と、アミとエミの二人に声をかけられて、「うん、お疲れさま」と、返したのまでは覚えてる。
一心にパソコンのディスプレイを目で追っていた私は、ふっとほっぺたに温かいものが触れて、「あっ」と、顔を向けた。
するとそこには矢代チーフがいて、あったかい缶コーヒーを差し出していた。
「……根を詰めすぎるな。遅いから、今日はもう帰ろう」
もらったコーヒーを、「ありがとうございます」と受け取って、プルタブを開け一口を飲みながら、オフィス内を見回してみると、いるのは自分たち二人だけにもなっていた。
「もう、こんな時間に……」6時が終業時刻で、チーフが少し余裕を持って8時にと伝えてくれていた時間も、既に一時間近くが経過しようとしていた。
「最初から飛ばすと、後で息切れをする。時間配分と自身のペースをよく考えて、仕事は進めた方がいい」
的確でもっともなチーフの言葉に、「はい、そうですよね」と頷いて、コーヒを口にしつつキリのいいところまで終わらせると、パソコンをシャットダウンした。
「すいません、つい気張ってしまって。お待たせしました」
私の言葉に、「いや、それはいいんだ」と、チーフが首を軽く振る。
「気張ってやるのも、君のいいところだと、僕は思うから。ただ、それとは別に、君自身を心配もしているから。……恋人としてな」
付け足された最後の一言に、胸の鼓動がトクンと小さく跳ねる。
「あの、ありがとうございます。チーフは私にとって、最高の上司で、そして恋人です」
彼に応えるつもりで思ったままを口にしたのだけれど、さすがに頬が火照ってうつむくと、彼の手の平がその頬にそっと当てがわれた。
「ありがとう、美都」
甘く優しい声音でそう告げられて、周りにはもう誰もいなかったけれど、社内で名前を呼ばれたことに、心臓はまたもビクンと跳ね上がったのだった……。
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