「今日の昼は、なんだかにぎやかだったな」
会社を出て、二人で並んで歩いていると、彼からそう思い出したように話が振られた。
「あっ、聞こえてましたか?」
「うん、まぁな」
責任のある大きな案件を任されたばかりなのに、休憩中とは言えさすがに子供みたいで騒々しかったかなと、「すいません、うるさくしてしまって」と、口にすると、
「いや、別に謝らなくてもいい。ただ楽しそうに何を話しているんだと思っただけだから」
彼はレンズの奥の目をふっと細めて笑い、気にするなと言うように、私の頭の上にふわりと手の平を乗せた。
「ああー……えっと、尋問されてたんです、橋元さんたちから」
伝わる手の温もりの心地よさに、うつむいた顔を上げて応えると、「尋問?」と、彼が不思議そうに首を傾げた。
「えっと実は、最初に合鍵を交換したらと言い出したのは、彼女たちの方でして。それで、その後どうなったの? って、問い詰められたっていうような感じで……」
事のてん末を話すと、
「そうか、彼女らにバックアップをしてもらったのか」
彼が合点がいった風で頷いた。
「なんだかいつも、二人には話が筒抜けみたいで……」
ちょっと心苦しいような気もしていると、「構わないよ」と、彼がふっとまた顔を崩して微笑んだ。
「あの二人のおかげで、もっと近しくなれたというところもあるからな……君と」
顎にそっと添えられる手にドキッとする。ビルの陰に身を寄せ、キスを受け入れようと目を閉じた刹那……
私のお腹がグゥーと鳴り、いい雰囲気を一瞬でぶち壊した。
「遅くまで仕事をしていたんだ、お腹が減ったよな」と、キスをやめて優しげに話す彼に、
「ご、ごめんなさい!」ぶんと勢いよく頭を下げる。
「いや……僕は、」
うなだれた顎が、手の甲で押し上げられると、
「そういう君も……好きだよ」
下から掬うようにして、チュッと口づけられた……。
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