テラーノベル
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ある日、私はスマホのボイスメモを開いた。
雑音。
制服の擦れる音。
小さいため息。
それから、小さな声。
「ちゃんと大人になれる気しない」
少し笑って、それから沈黙。
「でも、なれなくても別にいいか」
窓の外で電車が通る音がした。
私は、その声を何回も聞いた。
会ったこともないのに、少しずつその人を知っていった。
寂しがりで。
でも一人の時間が好きで。
優しくて。
面倒くさくて。
生きるのが下手で。
でも、ちゃんと生きようとしてた人。
冬になる頃、スマホの充電は完全に死んだ。
画面はもう光らない。
なのに私は、捨てられなかった。
知らない誰かの人生なのに、そこには確かに体温が残っていた。
そして時々、思う。
もしあの日、あの人がまだ生きていて、駅前でこのスマホを落としていたら。
私はちゃんと、
「落としましたよ」
って声をかけられたのかなって。