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🍵視点
「はぁ…」
(週間だから、最近寝れてないなぁ…辛い)
俺は事務所の作業室で、シュガーライフの原稿に向かっていた。机の上には資料や描きかけの原稿が広がっていて、目の前の画面には細かな線がいくつも並んでいる。
(アシスタントさんが風邪ひいちゃったんだし、頑張らなきゃだよねぇ…)
本当なら少し休みたいところだけど、今は自分がやるしかない。ペンを握り直して、もう一度作業に集中しようとした。
けれど、さすがに限界が近い。
「ん”〜!一旦休憩!!!」
椅子の背もたれに体を預け、俺は大きく伸びをした。 凝り固まった肩を回しながら、机の上を見渡す。
(…今日中に、どこまで進められるかなぁ)
「……」
スマホを手に取って時間を確認すると、表示されていたのは午前5時。
「……5時」
窓の外はまだ薄暗い。
(今寝たら…起きるの、昼か夕方だよな…)
最近ずっと昼夜逆転している。
このままじゃまずい。またみこちゃんに「ちゃんと寝てください」って、お説教される。
でも、今寝てしまったら
「寝たら、締め切り…間に合わな…」
そこまで呟いたところで、言葉が途切れた。 机の上には、まだ終わっていない原稿が残っている。
(あと、ちょっとだけ…)
重たい瞼を擦りながら、俺はもう一度ペンを握り直した。
カァ、カァ…
窓の外から、カラスの鳴き声が聞こえる。 ぼんやりと目を開けると、窓の向こうは橙色に染まっていた。
(…あれ?)
さっきまで、青かったはずなのに。
なんで?
「は、!!!!」
次の瞬間、俺はがばっと身体を起こした。
「え!ぁ、え!?嘘、寝てた!?」
慌ててスマホを手に取る。 画面に表示されていた時刻は、17時。
「…17時?」
一瞬、頭が真っ白になる。 そしてすぐに気づいた。
「12時間も寝てた!?」
自分でも信じられなくて、思わず声が大きくなる。
「うわぁぁ!!!編集さんからめっちゃ大量にメール来てる!💦」
通知欄には、見覚えのある名前がずらりと並んでいた。
(や、やばい!)
寝不足で限界だった身体は少し楽になっている。 けれど今度は、別の意味で心臓が忙しくなっていた。
ピンポーン。
「今度は何!?ちょ、っ、!」
慌てて玄関へ向かう。
インターホンの画面を確認すると、そこに映っていたのは
「い、いるまさん?なつさん?」
ハッピーシュガーライフでダブル主人公を務めている、叢雲入間さんと暇南月さんだった。
「え、なんで…?」
とりあえず玄関を開ける。
ガチャ。
「2人とも、どうし_わっ!?」
ガタン、ゴトンッ!
「いっ…!」
勢いよく扉を開けた拍子に足がもつれて、俺はそのまま盛大に転んだ。頭までぶつけてしまい、床に手をつく。
「夏目さんッ!?大丈夫ですか!?」
すぐになつさんが駆け寄ってきた。
「…っ」
差し出された手を握ると、なつさんはそのまま俺を立ち上がらせてくれる。
「だ、大丈夫…です」
「ほんとに?頭ぶつけてましたけど…」
「だ、大丈夫です、、ちょっとびっくりしただけで…」
頭をさすりながら答える。 すると、後ろにいたいるまさんも心配そうにこちらを見ていた。
「うわ、痛そ〜…大丈夫っすか?」
「は、はい…!」
まさか、こんな有名な二人が突然自分のところへ来るなんて。 さっきまで締め切りとメールに追われていた頭は、今度は別の意味で混乱していた。
とりあえず二人を事務所の中へ案内し、俺は自分用に淹れていたお茶を二人に渡した。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「わぁぁ✨️ここが漫画家の事務所…初めて入りました」
なつさんが物珍しそうに辺りを見回している。
机の上には原稿や資料が積み重なっていて、作業途中のものもあちこちに置かれている。
「ごめんなさい、散らかってて……笑。うちは小さな事務所だから、客人なんてなかなか入ってこないんですよ」
「いえいえ! むしろ、こういうの見られて嬉しいです!」
なつさんが楽しそうに笑う。 すると、隣にいたいるまさんが口を開いた。
「俺ら、見学に来たんです」
「えっ、見学?」
思わず聞き返す。 いるまさんは真剣な顔で頷いた。
「役を演じるために、もっとこの役を知りたいんです」
「……」
俺は二人の顔を見つめた。 ただの興味本位じゃない。 自分たちが演じる役をちゃんと理解したい。そのために、わざわざ原作者である俺のところまで来たんだ。
「…そっか」
胸の奥が、少しだけ熱くなった。
「じゃあ今日は、いっぱい話しましょうか」
俺はそう言って、机の上に積まれた資料へ手を伸ばした。
「えーと、いるまさんの役は美来流李。漫画は見てくれてるって聞いたんですけど、どーいうキャラか掴めてます?」
「几帳面だけど、所々大雑把で、常識人ぶった変人…って、俺は見ていくうち思いました」
「はは、ですよねっ。俺もそう思うんですよ。この子、みこちゃんをモチーフにしてるんです」
「「みことモチーフ?」」
二人の声が綺麗に重なった。
思わず、ふっと笑ってしまう。
なんだかおかしくて笑ってしまったけれど、気を取り直して、俺は机の上に広げていた資料を指差した。
「みこちゃんとは、小学校から高校まで一緒だったんですけど、真面目そうに見えて課題やってなかったりとか、先生に怒られてたりとか…」
当時のことを思い出す。
「いい子なふりして、かなりの問題児だったんです。無自覚に天然だし」
「……」
いるまさんとなつさんは、資料を見つめたまま黙っている。
「だから、流李を描くときも、そういうところをちょこちょこ入れてて」
俺がそう説明すると、いるまさんは改めてキャラクター資料を覗き込んだ。
「…なるほど」
その表情は、さっきまでよりずっと真剣だった。
「なつさんのキャラは、織姫衣音璃。キャラは掴めてますか?」
「はい。俺とは正反対な、かなりの可愛いキャラですよね」
「え、正反対?」
思わず声が出た。 俺が目を丸くすると、なつさんも「え?」という顔をする。
「えと…このキャラは可愛くて、賢い。そして、どんなことも全力で楽しむ。かなり流李とは反対に作られてますよね?」
なつさんは資料を指差しながら言う。
「ぁ、周りの環境だったら、よく対比して描いてますね」
「周りの環境?」
「はい。例えば、流李は家族に恵まれて生きてきた。だけど、お金には恵まれていない。対して衣音璃は、お金には恵まれているけど、家族には恵まれていない…って感じですね」
「なるほど?」
なつさんが納得したように頷く。
「でも、性格は二人とも、とにかく大雑把で、かなりの問題児だから似てるんですよ。リアルな男子高校生を描きたくて」
「リアル?」
なつさんが首を傾げる。
「世界観はSFだと思いますけど」
「ふふっ」
思わず笑ってしまった。
「そうなんですよ。世界観はSF。でも、そこにいる人間までSFっぽくしたくなかったんです」
俺は二人のキャラクター資料を並べながら、続ける。
「どれだけ特殊な世界にいても、友達とくだらないことで笑ったり、授業をサボったり、先生に怒られたり…そういう普通の高校生っぽさは残したくて」
二人は黙って資料を見つめている。
「だから、衣音璃と流李は環境こそ正反対だけど、根っこの部分は結構似てるんですよ」
「なるほど……」
いるまさんは資料を眺めながら、ふと顔を上げた。
「……んにしても、夏目さんの作品を色々見てみたけど。ショタキャラ多いっすね」
「え」
固まった。
頭の中が、一瞬で真っ白になる。
「確かに、夏目さんの作品って結構ショタキャラ多いですよね。演技の役に立てるかなってシュガーライフのファンブックで見たんですけど、初期案だと全員ショタになる予定だったんですよね?」
「あ、え、あ、う、ああぃ」
口が勝手に変な音を出す。
(どうしよ、どうしよ、どうしよ、どうしよ、どうしよ、どうしよ、どうしよ、 どうしよ、どうしよ、どうしよ、どうしよ、どうしよ)
俺は必死に平静を装おうとした。
「っ、あ、はは…… 」
笑った。
とりあえず笑った。
「あっ、あの…!夏目、さん… ⸝⸝」
なつさんが、少し緊張したように口を開いた。
「? はい、なんですか?」
「その…僭越ながら、、夏目さんと、オトモダチ…になりたくて⸝⸝」
「えっ、!⸝⸝」
思わず目を見開いた。
「なつ、学生時代は勉強やら役者の仕事やらで、友達作りにくかったらしくて。だから今、シュガーライフで関わる人とかと友達になろうとしてるらしいです。俺からもお願いします」
いるまさんまでそう言ってくれる。
「もちろん!⸝⸝」
気がつけば、俺は笑っていた。
「俺も、みこちゃん以外に友達作ってなかったし」
(少しでも、みこちゃんの依存を抑えたいし)
それに、こうして自分から「友達になりたい」と言ってくれる人がいるのは、素直に嬉しかった。
「なろっか、!友達っ⸝⸝」
「!はい!」
なつさんの顔がぱっと明るくなる。
その笑顔を見ていると、なんだかこっちまで嬉しくなった。
「じゃあ、俺もなつって呼んでいいですか?」
「もちろんです!」
「俺のことも、すちでいいですよ。敬語もいらないから」
「えっ、じゃあ…すち!」
「じゃあ呼び方は、暇…だし…ひまちゃんって呼ぶね」
「え、ぁ、う、うん!」
突然のあだ名に、なつ…いや、ひまちゃんが少し照れたように頷く。
「いるまちゃんは、いるまちゃん」
「よく『ちゃん』呼びするよな。なんで?」
いるまさんが不思議そうに尋ねる。
「くせでさ、笑」
すちは軽く笑いながら答えた。
「昔から、人の名前にちゃん付けすること多くて」
「へぇ… …」
「まぁ、嫌だったら変えるけど?」
「いや、別に。いるまちゃんでいいよ」
「じゃ、決まり!」
そんなやり取りをしているうちに、さっきまで少し緊張していた空気も、すっかり和らいでいた。
すっかり窓の外は暗くなっていた。さっきまで差し込んでいた夕暮れの光も消え、事務所の窓には室内の明かりだけがぼんやりと映っている。 暇ちゃんといるまちゃんは、そんな夜の街へ帰っていった。
二人の姿が見えなくなったところで、俺は小さく息を吐いて、机の前へ戻る。
「ふー…さて、続きしますか!」
さっきまで二人が座っていた場所をちらりと見て、思わず頬が緩んだ。
今日、友達が二人もできた。
しかも、みこちゃん以外で。
(みこちゃん以外の友達…初めてできた⸝⸝)
そう思うと、なんだか胸の奥が少しだけ温かくなる。 俺は小さく笑いながら椅子に座り直し、ペンを握った。
「……よし、頑張ろ」
いつもと変わらないはずの作業机なのに、今日は少しだけ違って見えた。
「………」
目を開けると、視界いっぱいに見慣れた顔があった。
……あれ
俺、今いるまに押し倒されてる?
背中に触れているのは、ふかふかとした柔らかな感触。少し頭を動かしてみれば、白いシーツが視界の端に入った。
…ってことは、ここ、ベッドの上?
まだ頭がぼんやりしていて、何がどうなっているのか上手く思い出せない。
確か、すちの事務所を出て、それからいるまと一緒に飲みに行って… そうだ。話が思ったより盛り上がって、気づいたら時間が遅くなっていたんだ。
終電も、逃しちゃって。
「……」
俺は改めて周囲を見回した。 見覚えのある内装。簡素な机に、小さなテレビ。ベッドが二つ並んだ、よくある部屋。
(…ここ、ビジネスホテルか?)
なんとなく記憶にある。 前にも仕事で泊まったことがあったような気がする。
いや、それより
(なんで押し倒されてるの?)
視線を戻す。 すぐ目の前にいるいるまは、頬を赤くしていた。 普段より明らかに顔が赤い。
(いるま、顔赤…)
どう考えても、酒を飲みすぎている。
「…いるま?」
声をかけると、いるまがゆっくり俺を見る。 俺はまだ状況を飲み込めないまま、困ったように眉を寄せた。 すると、ふいに視界が暗くなった。
「……?」
顔に何か硬いものが当たる。
少しだけ顔を動かしてみると、どうやらいるまの胸板らしい。
…え、なんで?
「いるま?」
返事はない。 代わりに、身体がゆっくりと引き寄せられた。
(もしかして抱き寄せられた?)
状況がよく分からない。
ただ、すぐ近くから酒の匂いがして、いるまの体温が伝わってくる。
(こいつ、かなり酔ってんな、、)
俺もまだ酒が回っていて、身体に力が入らない。離れようにも、今はまともに動けそうになかった。
「あったか… ⸝⸝」
ぽつりと呟く。 抵抗する気力もなく、そのままいるまの腕の中で力を抜いた。 ふかふかのベッドに、温かい体温。 さっきまで何が起きているのか分からなかったはずなのに、急に眠気が押し寄せてくる。
(…もう、いいや)
目を閉じる。
(あったかい…また寝ちゃいそう…)
そう思ったところで、俺の意識はゆっくりと眠りの中へ沈んでいった。
「…………」
腕の中で、すっかり力を抜いてしまったなつを見下ろす。
……可愛い。
何、この生き物。
俺が酔ってるって思ってんのかな。
さっきから全然抵抗しない。むしろされないから、こっちのほうがどうしていいのか分からなくなる。
(…抵抗しないから、逆にやりにくいんですけど)
そう思いながらも、離すつもりにはなれなかった。 むしろ、今だけは。
眠っているなつを起こさないように、そっと腕に力を込める。
ぎゅぅぅぅ。
(……早く、恋人になりたい)
まだ正式にそうなったわけじゃない。 だからこそ、余計に思う。 なつから抱きついてほしい。 俺に甘えてほしい。
「……」
(ハグを求めてほしい。早く…早く、なつが俺を選んでくれたらいいのに)
焦る気持ちを胸の奥へ押し込めながら、もう一度だけ、そっと抱きしめる。
眠っているなつの体温が伝わってくる。
(世界で一番、大好き)
それだけを胸の中で呟いて、俺は静かに目を閉じた。
コメント
2件
💚💚……ついにこの世界でもショタコンに…………
尊いッ!最高です、ありがとうございます😭 ショタが多いのはなぜだ、? 続き楽しみにしてます!