TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「スパイってなに?」

と脇田が言った。


社長室で脇田と一緒になったとき、渚が彼にも蓮の家の話を振ったのだ。


脇田は、昨日、徳田に電話で聞いたと言っていた。


そして、その流れでうっかり、お隣はスパイの話をしてしまった。


「秋津さんの発想が妙なのは、お嬢様だから?

秋津さんだから?

渚の彼女だから?」

と畳みかけるように言われてしまう。


いやあの、秋津さんだからってのが一番気になるんですが……と思っていると、


「……確かに、人の正体ってわからないよね」

と含むところあるように、脇田は言う。


なんだろう? と思っていると、脇田は、こちらを見て、

「ああ、でも、秋津さんのことは大体わかってたよ」

と言ってくる。


「え?」


「お嬢様だって言うのはさ。

やっぱり見てればわかるよ。


お金に関して、緊張感がないって言うかね」

と渚と同じことを言った。


でも、想像していたより、家が凄かったんで、びっくりした、と言う。


「秋津会長の直系のお孫さんとはね」


「うち、兄も居るんですけど。

放蕩して飛び出して、私にお鉢が回ってきたっていうか。


和博さんの父親は、お爺様から見て、次男になるんですけど。


そのおじ様たちも、私と和博さんを結婚させたら、我が息子が後を継げるかもと言うので、押せ押せなんです。


でも、なんで、脇田さん、徳田さんからその話聞いたんですか?」

と言うと、脇田が、えっ、という顔をする。


「徳田さんって、自分から余計なことを話しそうにはない方ですが」

「それは……」


「脇田ー、そろそろ行った方がいいんじゃないか?」


突然、渚が話を遮る。


あー、そうだねー、とよくわからない誤魔化し方を脇田はする。


渚さんがなにか言って、脇田さんが徳田さんに電話したとか?


私の家のことを調べさせようと?


いや、渚さんは、早くから知ってたみたいだった。

じゃあ、なにを? と口では敵いそうにない渚ではなく、脇田を見る。


じーっと脇田を見上げていると、目をそらされた。


「……ごめん、秋津さん。

見つめないで」


ああ、すみません、と言いながら、まだ見ていた。

ちょっと違うことが気になったからだ。


脇田さん、男なのに、色が白くて、肌がすべすべだなあ。


お手入れとか特にしそうもないのに、としょうもないことが気になっていたのだが、渚がイラついたように言う。


「いいから、早く仕事に戻れよ、お前ら」


社長様がそうおっしゃるので、はーい、と社長室を出ようとすると、

「蓮、待て」

と言われた。


一瞬、脇田も振り返ったが、なにも言わずに出て行く。


扉が閉まるのを待って、側に来た渚が言った。


「蓮、こっちを見ろ」


は? と言いながらも、見上げると、

「俺を見てろ。

脇田より長く」

と言い出す。


「……なんなんですか」

と言ったが、まだ、イラついているように、いいから、と言う。


ちょっと笑ってしまった。


「笑わずに見上げてろ」


はいはい、と見る。

そうだ、この隙に、と思って、一応、訊いてみた。


「渚さん、脇田さんに、なにを調べさせようとしてたんです?」

「……俺はなにも命じていない」


「目をそらさないでください」


貴方が見てろと言ったんですよ、と言うと、渚は蓮の肩をつかんで抱き寄せた。


胸に押し付けるように頭を抑えつけられたので、顔が見えなくなる。


「えーっ、もうっ。

なんなんですかっ。


ずるいですよーっ」




「またなんか揉めてますね」


閉まっている社長室の扉を見ながら、浦島がパソコンのディスブレスから顔を上げ笑う。


傍目に見てる分には、まあ、微笑ましいカップルだ、と脇田は思った。


『人の正体ってわからないよね』


そう言った自分の言葉を思い出す。

社長室の中ではまだなにか蓮がわめいていた。


渚は、蓮の過去を洗えと言ったことを彼女に知られたくないようだった。


らしくもなく、本人に問いただす勇気がなかったことが、恥ずかしいからかもしれない。


いっそ、バラしてやろうかと思ったが、余計に愛が深まるだけのような気がして、やめておいた。


秋津和博のことは、ちょっと調べたらすぐにわかりそうだが。


蓮は、和博には気はないようだったから、渚が引っかかっているのは、誰か違う男の存在だろうと思う。


一番怪しいのは、前の会社だな、と思った。


っていうか、調べて、本当になにか出てきたら、どうしたらいいんだろう。


すぐに、渚に言うべきか。

まず、蓮に断ってからにするべきか。


恐らく、蓮は自分から言うと言うだろう。


でも、確か、蓮は渚と付き合うまで、誰とも付き合ったことはないと言っていたし。


彼女が嘘を言うとも思えないんだが。

なんなんだろうな、と思いながら、なんとなく、パソコンで以前、蓮が居た会社を調べる。



うおっ、雨だ。

傘ないのにっ。


仕事が終わり、玄関ロビーまで降りた蓮は、そこでようやく、雨が降っていたことに気がついた。


音もなく降っていたので、わからなかったのだ。


いつの間に~。


コンビニで傘を買おうかな。


いや、すぐそこだから、走って帰ろうかな、と思っていると、

「どうしたの? 秋津さん」

と声がした。


振り向くと、脇田が立っていた。


「ああ、いえ。

雨、降ってたんですね」


気がつかなかった、と言うと、

「もしかして、傘ない?」

と訊いてくる。


「そうなんですよー。

降ると思ってなかったから。


でも、すぐそこなんで、走ろうかな、と思って」


じゃあ、と脇田は軽い口調で言ってきた。


「僕が入れてってあげるよ。

ちょうど、あっちに用事があるから」


「えっ。

悪いですよ、そんな」


いいよ、いいよ、近いから、と言いながら、外に出た脇田は傘を差した。















派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

44

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚