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#中太
夏の穂|双黒中心|フォロバ
2,029
怜
200
44
最近左右なし旧双黒書いてないなと思ったので書きます。
5歳の中也と15歳の太宰です。
恋愛ではない…はず。
冷たい雨が、ヨコハマの租界地を重く濡らしていた。
ポートマフィアの最下層にある、湿気と硝煙の匂いが染みついた薄暗い一室。十五歳の太宰治は、全身を覆う漆黒の外套の袖を無造作に捲り上げ、鉄錆の浮いたパイプ椅子に深く腰掛けていた。その視線の先、部屋の隅の木箱の上に、場違いなほど小さな影が縮こまっている。
それが、首領である森鴎外から「今日から君がこの子の世話係だ」と押し付けられた、五歳の少女――中原中也だった。
「……君が、荒覇吐かい? 随分と玩具じみた神様だね」
太宰の声は、十五歳にしては低く、そしてひどく冷徹だった。
中也は、大人のマフィアから宛がわれたのであろうブカブカの外套に埋もれながら、燃えるような夕陽色の髪の隙間から、凍てつくような青い瞳を太宰に向けていた。五歳児とは思えぬほどの鋭い殺気がそこにはあったが、同時に、拠り所を無くした迷子特有の、怯えと拒絶が混ざり合っている。
「……よるな。ふきとばすぞ、」
小さな唇から零れ出たのは、どこで覚えたのかも分からない粗野な言葉だった。しかし、その声は細かく震えている。
太宰はふっと、感情の読めない薄い笑みを浮かべた。自死の手段を模索し、世界の全てに退屈していた少女にとって、この小さな「お荷物」はただの厄介事でしかなかった。だが同時に、その瞳の奥にある絶対的な孤独は、太宰自身の胸の奥にある底無しの空虚と、どこか酷似しているようにも思えたのだ。
「いいよ、吹き飛ばせるものならやってごらん。でもね、今の君にはその力すら満足に扱えないだろう? ほら、そんな重い上着は脱ぎなよ。溺れて死んでしまう前にね」
太宰が立ち上がり、音もなく中也に近づく。中也は威嚇する子猫のように身構えたが、太宰の手がその小さな肩に触れた瞬間、中也の身体を支配していた禍々しい異能の残滓が、霧が消えるように霧散した。
太宰の異能、人間失格。あらゆる異能力を無効化するその手が触れた瞬間、中也は生まれて初めて、己の内側で暴れ狂う「神」の存在が完全に静まり返るのを感じた。
「あ……」
中也の青い瞳が、驚愕に見開かれる。いつも脳裏を掻き毟るような神の咆哮が消え、ただの五歳の少女としての静寂が訪れたのだ。太宰はその隙に、中也の身体を圧迫していた黒い外套を乱暴に剥ぎ取った。
「森さんも人使いが荒いなぁ。女の子の服の着せ替えなんて、私の趣味じゃないというのに」
太宰は吐き捨てるように呟いたが、その手つきは、中也の怯えを刺激しない程度には、静かで、配慮に満ちていた。
翌日、太宰は中也を連れて、マフィアの縄張りから少し離れた一般の商業区へと向かった。
十五歳の太宰自身、黒い包帯を全身に巻いた異様な姿ではあったが、マフィアの外套を脱ぎ捨てて普通のブラウスを着た姿は、年相応のどこか儚げな美少女に見えなくもない。その後ろを、あまりにも短すぎる足で、必死についてくる中也の姿があった。
「おいだざい……! どこへいくんだよ! てめぇはまふぃあのせんりょくなんだろ! にんむとかはしねえのか!」
中也は周囲の人間を警戒しながら、太宰のシャツの裾をぎゅっと掴んで抗議した。
「馬鹿を言わないでよ。今の君の格好を見てごらん。マフィアの下っ端から恵んでもらった破れたシャツを着て、まるで浮浪児じゃないか。そんなチビを連れて歩く私の身にもなってほしいものだね」
太宰が連れてきたのは、色鮮やかな生地やレースが飾られた、少女向けの衣料品店だった。港湾の血生臭い空気とは無縁の、洗剤と新しい布の匂いが満ちた空間に、中也は完全に気圧されていた。
「ほら、これを着てごらん」
太宰が棚から引き抜いたのは、落ち着いた色彩の、しかし裾に可愛らしいフリルがあしらわれた、小さなワンピースだった。
「な、なんだよこれ……! ぴんくなんて、おれみたいなやつににあわないだろーがよ、」
「五歳のチビが強がってどうするのさ。マフィアの服はね、大人の身体になってからいくらでも着られるよ。今は、その年齢に相応しい可愛いらしい格好をしていなさい」
太宰は中也の抗議を一切無視し、半ば強引に彼女を試着室へと押し込んだ。
数分後、カーテンが控えめに開く。そこには、普段の刺々しさが嘘のように、年相応に愛らしい姿となった中也が立っていた。衣服が変わるだけで、彼女がただの小さな女の子であるという現実が、残酷なほどに際立つ。
「……へん、じゃねえか?」
中也は恥ずかしそうに、ワンピースの裾を両手で握り締めながら、上目遣いで太宰を見た。その表情には、誰かに容認されたいという、幼子特有の根源的な欲求が滲んでいる。
太宰は一瞬だけ、その鋭い瞳を丸くしたが、すぐにいつもの意地悪な笑みに戻した。
「ふふ、案外似合っているじゃないか。まるで本物の人間の女の子みたいだ。よし、それと、その髪に似合う小さな帽子も買おう。君の頭は寂しそうだからね」
中也は「ぼうしはよけいだ!」と怒鳴り散らしたが、太宰に選んでもらった黒いキャスケット帽を頭に乗せられると、鏡に映る自分の姿をどこか嬉しそうに、何度も、何度も見つめていた。その小さな手は、自分のために選ばれた衣服の温もりを、確かめるように握り締めていた。
服を買い終えた二人が次に向かったのは、大通りから一本入った場所にある、古びた喫茶店だった。
太宰は席に着くなり、メニューも見ずに「イチゴのパフェを一つ」と注文した。
運ばれてきたのは、ガラスの器に高く盛られた生クリームと、真っ赤なイチゴが乗った華やかなパフェだった。中也はその視覚的な暴力に圧倒され、ごくりと唾を飲み込んだ。
「ほら、スプーン。溶けないうちに食べなよ」
太宰に促され、中也は恐る恐る小さなスプーンでクリームを掬い、口に運んだ。
その瞬間、中也の青い瞳が弾けたように輝いた。あまりの衝撃に、身体が小さく跳ねる。
「ん……っ、あめえ! なんだこれ、すげえ美味い!」
「ふふ、子供は本当に単純でいいね。脳の栄養が足りていなかったんじゃないかい?」
「だざいはくわねえのか? 」
中也が自分のスプーンを差し出すと、太宰は心底嫌そうな顔をして身を引いた。
「私は甘いものは反吐が出るほど嫌いなんだよ。……あ、でも、その一番上のイチゴは貰おうかな」
太宰が長い指を伸ばし、パフェの頂点に君臨していた大粒のイチゴをひょいと奪い取った。そのまま、自分の口へと放り込む。
「あ! おれのいちご! 」
「お世話係への報酬さ。文句があるなら、残りのクリームを全部没収するよ?」
「うぐ……っ、おまえ、せいかくわるぃ……!」
中也は頬をリスのように膨らませて怒ったが、それでもパフェの美味しさには勝てず、再び夢中でスプーンを動かし始めた。
太宰は、そんな中也の姿を、頬杖を突きながら黙って見つめていた。窓外から差し込む柔らかな光が、二人の横顔を照らしている。ポートマフィアという闇の深淵に足を一歩踏み入れながらも、この一瞬だけは、彼女たちはただの十五歳と五歳の、どこにでもある姉妹のような平穏の中にいた。
季節は巡り、ヨコハマに激しい嵐が吹き荒れる夜が訪れた。
窓ガラスを叩き割らんばかりの豪雨と、天地を震わせるような激しい雷鳴。マフィアの重厚な本部の建物さえも、心なしか微かに震えているように感じられる夜だった。
十五歳の太宰は、自室のベッドの上で読書をしていた。膝の上には、難解な哲学書が広げられている。部屋の明かりは極力落とされ、静寂だけが支配していた。
その静寂を破ったのは、扉を小さく叩く、躊躇いがちな音だった。
「……だざい。おい、だざい、あけろ」
蚊の鳴くような、細い声。
太宰が本を閉じ、扉を開けると、そこには案の定、五歳の小さな影が立っていた。昼間に買い与えたパジャマ姿の中也は、大きな枕を両手でしっかりと抱き締め、全身を小刻みに震わせている。その青い瞳には、涙が溢れそうになるのを必死に堪えた、強がりな光が宿っていた。
「やれやれ、夜更かしは子供の成長に悪いよ、中也。こんな夜中に何の用だい?」
太宰がわざと冷淡に問いかけると、中也は唇を噛み締め、俯いた。
「……かみなりが、うるさいんだよ。へやがひかるし、じひびきがするし、……それに」
「それに?」
「うちがわのやつが、あばれやがるんだ」
中也の声は、恐怖に震えていた。
嵐の持つ強大な自然のエネルギーに触発されたのか、中也の内なる荒覇吐が、檻を壊して外に出ようと狂い鳴いているのだ。五歳の小さな肉体にとって、その負荷はあまりにも重く、恐ろしいものだった。彼女の周囲の重力が、無意識のうちに微かに歪み、床の絨毯が不自然に浮き上がっている。
太宰は小さく溜め息を付いた。
「本当に、君は手のかかる神様だね」
太宰は中也の前に屈み込み、その小さな、震える手をそっと包み込んだ。
瞬間、中也の身体の周囲で歪んでいた重力が完全に霧消し、床へと戻った。内なる神の叫びがピタリと止み、中也の呼吸が劇的に楽になる。太宰の「人間失格」だけが、中也をこの世界の理へと繋ぎ止める唯一の錨だった。
「ほら、中に入りなよ。床で凍死されても寝覚めが悪い」
太宰が部屋の奥へと戻ると、中也は安堵したように、トトト、と足音を立てて太宰の後を追った。
太宰がベッドに戻り、掛け布団をめくると、中也は当然のような顔をして、その小さな身体を滑り込ませてきた。太宰の隣は、中也にとって、この世で最も安全な聖域だった。
ベッドの中に並んで横たわると、二人の距離は必然的に近くなる。五歳の中也の身体は驚くほど小さく、そして、驚くほど温かかった。いつも冷え切っている太宰の身体に、その幼い体温がじんわりと伝わっていく。
「だざい」
「何だい、静かに寝ないと、部屋から叩き出すよ」
「……おまえのて、つめたいな」
「生きてる実感がないからね」
「おれがあたためてやるよ」
中也はそう言うと、小さな手を伸ばし、太宰の包帯で覆われた手をぎゅっと握り締めた。五歳児の小さな握力など、太宰にとっては簡単に振り払えるものだったが、太宰はそうしなかった。ただ、握られた手をそのままにして、天井を見つめていた。
中也は太宰の腕に頭を擦り付け、その身体から漂う、包帯と消毒液の匂いを深く吸い込んだ。マフィアの戦火の中で、誰もが恐れる太宰治という存在。しかし、中也にとっては、自分を異能の呪縛から救い出し、可愛い服を買い、甘いパフェを分けてくれた、世界で唯一の拠り所だった。
「だざい」
「またかい?」
「……おれ、おまえのこと、きらいじゃねえよ」
「それは光栄だね。私は君のことが、五円玉の次に嫌いだけど」
「うそつけ。おまえ、いっつもおれのことみてるだろ」
中也はふふ、と幼い笑い声を漏らし、次第にその呼吸を深く、規則正しいものへと変えていった。太宰の異能に守られている限り、荒覇吐が目覚めることはない。完全な安息の中で、中也は瞬く間に深い眠りへと落ちていった。
小さな寝息が、静かな部屋に響く。
太宰は、自分の腕の中で無防備に眠る中也の顔を、じっと見つめた。普段の生意気な口調も、マフィアとしての強がりも消え去った、ただの、純粋で無垢な五歳の少女の寝顔。
太宰は空いている方の手を伸ばし、中也の柔らかな赤髪を、そっと指先で梳いた。その手つきは、自分でも驚くほど穏やかで、繊細なものだった。
「本当に、馬鹿な子供だ」
太宰の唇から、小さな、しかし確かな体温を持った言葉が零れ落ちる。
世界の全てを呪い、自らの死だけを望んでいた十五歳の少女の胸の中に、ほんの小さな、名前のない感情が芽生えていた。それは男女の情愛などではなく、もっと根源的で、泥泥とした闇の中で唯一互いを認識し合うような、純粋な魂の結びつきだった。
外の嵐は、さらに激しさを増し、窓を激しく叩き続けている。しかし、遮光カーテンに閉ざされたその部屋のベッドの上だけは、世界の崩壊から切り離されたかのように、ただ静かで、温かな光に満たされていた。太宰は中也の手を少しだけ握り返し、ゆっくりと、その重い瞼を閉じるのだった。
おまけ
逆転?バージョン
ヨコハマのすり鉢街、その最奥に位置するポートマフィアの地下施設。十五歳の中原中也は、重い革靴の音を響かせながら、コンクリートの通路を歩いていた。その表情はひどく不機嫌だ。
「おい、太宰。どこに隠れてやがる」
首領の森鴎外から「今日から彼女の面倒を見ておくれ」と直々に押し付けられた、五歳の少女――太宰治。
物陰からひょっこりと顔を出したその姿を見て、中也は思わず舌打ちをした。
五歳の太宰は、自分の身体の何倍もある大人の包帯を全身にぐるぐると巻き付け、まるで怪我をした子猫のようだった。その大きな瞳は完全に濁っており、五歳児らしい輝きはどこにもない。
「……中也、大きな声を出さないでおくれよ。脳漿が耳から飛び出しそうだ」
「うるせえ! 探させやがって。ほら、行くぞ。首領からお前の服を買いに行けって命令されてんだよ」
中也が太宰の小さな手を乱暴に掴む。その瞬間、中也の身体の底で常に燻っていた「荒覇吐」の禍々しい重力が、すっと消えていくのを感じた。太宰の異能、人間失格。五歳にしてその力を発動させている少女は、驚きもしない冷めた目で中也を見上げている。
「君のその呪われた力、私の手の中だと大人しいね」
「チビのくせに、生意気な口叩くんじゃねえよ」
中也はふいと顔を背けたが、握った太宰の小さな手は驚くほど冷たく、そして細かった。マフィアという闇の中で、生きる意味を見出せずにいる五歳の幼子。その圧倒的な孤独が、手のひらを通じて伝わってくるようだった。
休日のヨコハマ大通り。
十五歳の中也は、まだマフィアの幹部ではない。普通の少年らしい、しかし少し背伸びをしたジャケットを着た中也の後ろを、トトト、と小さな足音が追う。
「おい、これなんかどうだ」
中也が衣料品店で指差したのは、黒を基調とした、少し大人びたシックなワンピースだった。フリルやレースといった無駄な装飾はなく、どこかマフィアの夜を思わせるデザインだ。
「……中也、私は死に装束の方がいいのだけど」
「縁起でもねえこと言うな! ほら、着替えてこい!」
中也に背中を押され、試着室へ押し込まれた太宰。
数分後、カーテンが開く。そこには、普段の薄汚れた包帯姿からは想像もつかないほど、端正で、人形のように美しい少女が立っていた。衣服が変わるだけで、彼女が守られるべき「子供」であることが、嫌でも強調される。
「……どう? 滑稽だろう」
太宰は自嘲気味に呟いたが、中也はその姿を凝視したまま、一瞬言葉を失った。それから、少し照れくさそうに自分の帽子を深く被り直す。
「……へん、悪くねえじゃねえか。サイズもぴったりだ」
中也はそう言うと、太宰の短い黒髪に、自分が選んだ小さな黒いリボンをそっと結びつけた。
「お前はいつも暗い顔してっからな。これくらい、つけておけ」
太宰は頭の上のリボンに触れ、不思議そうに瞬きをした。拒絶されると思っていた中也の優しさが、五歳の心をほんの少しだけ揺らしていた。
服を買い終えた二人が向かったのは、中也がよく通う、路地裏のレトロな喫茶店だった。
中也は席に着くなり「お前にだ」と言って、チョコレートパフェを注文した。
「……中也、私は甘いものはそれほど好きじゃな」
「いいから食え。お前、ガリガリじゃねえか。マフィアの飯が口に合わねえなら、こういう美味いもんで栄養つけろ」
運ばれてきたパフェを前に、五歳の太宰はスプーンを握ったまま、じっとそれを見つめていた。
「……どうやって食べるの」
「はぁ? パフェも食ったことねえのかよ。貸せ」
中也は溜め息をつき、太宰の隣に座り直すと、スプーンでクリームとバナナを掬い、太宰の小さな唇へと運んだ。
「ほら、あーんしろ」
「……ん」
太宰が恐る恐る口を開く。次の瞬間、太宰の濁っていた瞳が、微かに丸くなった。
「……甘い。でも、悪くない味だね」
「だろ? ここのチョコは絶品なんだよ」
中也が嬉しそうに笑う。太宰はその横顔を見つめながら、今度は自分でスプーンを動かし始めた。
「中也、その一番上のチェリーをあげよう」
「おう、サンキュ。……って、俺に餌付けすんな!」
そんな二人のやり取りを、店のマスターが微笑ましそうに見守っていた。十五歳の少女と、五歳の少女。マフィアの血生臭い世界に身を置きながらも、この場所だけは、ただの不器用な姉妹の時間が流れていた。
その夜、ヨコハマは激しい豪雨に見舞われた。
カミナリが鳴り響き、窓がガタガタと音を立てる。十五歳の中也が自室のベッドで横になっていると、ドアが静かに開いた。
暗闇の中、五歳の太宰が、自分の背丈ほどもある大きな毛布を引きずりながら立っていた。その身体は、カミナリの音に怯えているというよりは、寒さと孤独に凍えているように見えた。
「……中也。部屋がうるさくて、自死の瞑想ができない」
「言い訳すんな。怖いなら怖いって言えよ、チビ」
中也は苦笑し、掛け布団をバサリと跳ね上げた。
「ほら、入るなら入れ」
太宰は弾かれたように中也のベッドに潜り込んできた。五歳の身体は驚くほど小さく、そして冷え切っていた。中也は迷わず、その小さな身体を自分の胸の中に抱き寄せた。
太宰の「人間失格」のおかげで、中也の底に眠る荒覇吐の気配は完全に消え去り、驚くほどの静寂が訪れる。同時に、中也の温かい体温が、太宰の冷え切った身体をじわじわと温めていった。
「……中也の身体は、まるでお日様みたいだね」
太宰は中也のジャケットの袖を小さな手でぎゅっと握り締め、その胸に顔を埋めた。中也の身体からは、仄かに革の匂いと、安心する煙草の匂いがする。
「お前が冷たすぎるんだよ。ちゃんと飯食って寝ねえからだ」
中也はぶっきらぼうに言いながらも、太宰の小さな背中を、トントンと優しいリズムで叩き始めた。
「中也」
「ああ?」
「……明日も、あの甘いものを食べに行こうね」
「おう。お前が残さず食うなら、いくらでも連れてってやるよ」
太宰は小さく笑うと、中也の腕の中で、生まれて初めて本当の「安眠」へと落ちていった。
男女の恋愛ではない。これは、闇の世界で偶然出会った、孤独な二つの魂が寄り添い合う物語。中也は腕の中の小さな重みを感じながら、この先、何があってもこの少女を守り抜こうと、静かに心に誓うのだった。
コメント
5件
お世話係っていう設定が最高すぎる!! 何だかんだ小言を言いながらも面倒をみる太宰さん♀︎が大好きすぎました。 中太♀︎も、相変わらずの面倒見の良さ抜群の中也がホント魅力的すぎました。
いやあ、もう冒頭から引き込まれました……! 5歳の中也ちゃんが小さすぎて、でも眼光は鋭くて、そのギャップにまずやられました。太宰が無理やりワンピースを着せて、パフェのイチゴを奪うシーン、最高に“らしくて”笑っちゃいました。でも一番ぐっときたのは、雷の夜に中也ちゃんが太宰のベッドに潜り込む場面。「おれがあたためてやるよ」って、五歳児が言う台詞じゃないですよ……! おまけの逆転バージョンも、中也が無意識に包む構図がまた愛おしくて。恋愛じゃない、でも確かにそこにある“魂の結びつき”が丁寧に紡がれていて、胸がぎゅっとなりました。本当に素敵な物語をありがとうございます🌷