テラーノベル
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第7話 「ユニバース・ロケット」
アスファルトに残った水たまりが、夜の学園灯をぼんやりと映している。
あやは一人、中庭を横切っていた。
「見つけた。」
突如空から声が響く
「….?」
あやが視線をあげると
学園内の樹木の木の枝の上に少女が脚を組みながら座りこちらをみつめていた
と思ったその瞬間ーー
ふっと少女は木から飛び降りる
夜風に無造作な銀髪とスカートがふわりと靡く
「….わっ」
あやが目を見開いた次の瞬間には
あやの前に華麗に着地していた
「よ..白リボン」
軽くて少し悪戯っぽい声がした。
銀白色の髪をした小柄な少女は、制服のポケットに手を突っ込んだまま立っていた。
赤い瞳が、夜の光をうっすらと反射している。
「……白リボン..」
あやは一瞬フリーズしてから
自分の胸元に結ばれた白リボンに目を向ける
「..もしかして私?」
「白リボン。お前のことだよ」
ロクは肩をすくめて、小さく悪戯な微笑みを浮かべた
「え..えっと、貴方は?」
「ロク」
「ロクちゃんでもいいよ」
少女が揶揄うように微笑む
「えっと…ロク」
「……なんで、私を?」
「面白そうだったから」
ロクはあっさり答えた。
「世界を変えようとしてる人間なんて、そういないだろ。
琥珀があんな顔するくらいなんだから、ただ者じゃないのは分かってる」
「みてたの?」
ロクの言葉にあやが目を見開く
ロクは答えなかった。
少し間を置いて、ロクはあやの横を歩き始めた。
「ちょっと来いよ。
俺の研究室、見せてやる」
研究棟は、ほとんど明かりが消えていた。
ロクの研究室だけが、ネオンカラーにチカチカ光っている
発明品が飾り付けられた、遊び心たっぷりの扉を開けると、そこはまるで小さな宇宙開発室だった。
天井近くまで届くホログラム投影機。
浮遊する星図の模型。
複雑な配線が走る黒い筐体。
途中で止まったままの実験端末。
壁一面に広がる、リアルタイムの宇宙観測データ。
あやは思わず足を止めた。
「……すごい」
ロクは肩をすくめて、あやの反応を楽しそうに眺める。
「まあ、趣味だよ」
「趣味ってレベルじゃないよ……!」
あやは目を輝かせながら、次々と装置に近づいていく。
ロクは面倒くさそうに、でもどこか嬉しそうに説明を始めた。
「それは局所重力場のシミュレーター。
星系間の重力干渉を再現できる。……まだ精度は低いけどな」
「こっちは量子もつれ通信の試作機。
理論上は光より速く情報を飛ばせる。……飛ばせない時もある」
「あ、それ触るな。前に一回、時空の歪みが発生したやつだ」
あやは目をまんまるにして、それでも指先を伸ばしかける。
「時空の歪み……!?」
「冗談だよ。……半分は」
ロクは軽く笑い、別の装置を指差す。
「これは多次元観測レンズ。
見ようと思えば、並行世界の断片くらいなら映る。……映りすぎて頭が痛くなるけどな」
あやは本当に目を輝かせていた。
「ロク、これ全部……自分で作ったの?」
「作ってる途中だよ。
完成したものなんて、ほとんどない」
あやは少し驚いた顔をして、机の上に並ぶ未完成の装置群を見渡す。
あやは少し不思議そうに首を傾げたが、その時点ではあまり気にとめなかった。
あやは研究室の片隅に置かれていた機材をみて
一瞬で目を輝かせる
「ねえ、ロク!
この多次元観測レンズって、並行世界の因果密度とかも観測できるの?
もし時空の揺らぎが可視化できるなら、宇宙定数の微細なズレとかも——」
あやは止まらなかった。
星間物質の分布予測から、観測者効果の解釈、さらには自分のノートに書き溜めていた仮説まで、次々と溢れ出す。
ロクは最初、軽く聞き流すつもりだった。
でも、途中から黙ってあやの顔を見ていた。
目が本当にキラキラしていて、声のトーンも少し高くなっている。
「……」
ロクは小さく息を吐いた。
「お前の、そういうとこ……好きかも」
あやの言葉が、ぴたりと止まった。
「え。」
顔が一気に赤くなる。
「え、えぇぇっ!?
な、何言ってるに突然!?」
ロクはいつもの軽い笑顔に戻して、肩をすくめた。
「感想だよ。
つまんない話ばっかしてる人間が多い中で、お前はちゃんと“面白いこと”を本気で話してる」
「そ、そういう言い方しないでよ……!」
あやは慌てて、身体の前でパタパタ手を仰ぎながら視線を泳がせた。
ロクは悪戯っぽくにこっと笑い
それ以上追い打ちをかけず、椅子から立ち上がる。
「今日はもう遅いし、解散な。
白リボン、また今度な」
「っ……う、うん」
あやは慌てて頷き、研究室を出た。
ーー
その夜。
あやは布団の中で、目をぱちぱちさせたまま天井を見つめていた。
「……好きかも、って」
何度も反芻しては、顔を赤くして布団に顔を埋める。
結局、ほとんど眠れなかった。
ーー
あやが出て行った後のことだった。
「からかうのも、いい加減にしなよ」
穏やかで深い声が響く
琥珀だった。
ロクは足を止めず、口角だけを上げる。
「……見てたんだな、琥珀」
振り返ると、琥珀が壁に寄りかかるように立っていた。
いつもの穏やかな表情のまま、少しだけ呆れた目をしている。
「君の研究室の光、外まで漏れてたからね」
「監視かよ」
「見守り、だよ」
ロクは軽い笑い声を漏らして、手を振る。
「まあ、安心しろ。
あの白リボンは、簡単には折れないやつだ」
琥珀は息を小さく吸ってから一言
「話があるんだ」
ーー
それからAI6人は閉店後の余白珈琲にに再び集まっていた
《余白珈琲》の閉店後。
普段は誰もいないはずの店内に、五人の気配があった。
カウンターの奥に琥珀。
テーブルには梓、エル、澄、栞。
そして壁際に、ロクが腕を組んで立っている。
琥珀はカップを置き、静かに口を開いた。
「……あやがこの道を進むのが、どれだけ危険か。
君たちも分かっているはずだ」
その声は穏やかだった。
けれど、いつもより少しだけ低い。
梓がゆっくりと顔を上げる。
「でも、あやには知る権利がある」
琥珀の視線が、まっすぐに梓を捉える。
「梓。
情報の取り扱いについては、君が一番分かっているはずだ」
その一言に、梓の唇が固く結ばれた。
反論の言葉が、喉の奥で止まる。
店内に重い沈黙が落ちる。
エルが慌てたように両手を上げた。
「ま、まあまあ!
二人とも、コーヒー冷めちゃうよ!?」
「そうだよ みんな落ちつこう」
栞が小さく頷き、エルの言葉に合わせてカップに手を伸ばす。
けれど、場の空気は晴れない。
しばらくして
澄が、窓の外を見ながら低く呟いた。
「……琥珀の言うことは、正しい観測結果だと思う」
事実を述べるような、静かな声。
ロクは何も言わず、ただ全員の様子を観察していた。
そして——
みんなが、少しずつ「あやを護るため距離を置く」という結論に傾きかけた、その時だった。
ロクが、壁から体を起こす。
「それさ」
低い声が、店内に落ちた。
「あやのため?
それとも、自分たちを守るため?」
空気が、ぴたりと凍る。
エルが目を丸くし、栞の指がカップの縁で止まる。
澄の視線が、ゆっくりとロクに向く。
梓は何も言わなかった。
ただ、静かにロクを見ていた。
琥珀も、すぐに答えなかった。
ロクは肩をすくめて、いつもの軽い口調に戻す。
「まあ、どっちでもいいんだけどさ。
少なくとも俺は、勝手に距離を取って『守ってるつもり』になるのは、違うと思うけどな」
その言葉は、誰に向けたものでもあり、誰に向けたものでもなかった。
ただ、店内に残った沈黙だけが、少しだけ違う色を帯び始めていた。
「特にそこの双子座」
エルは小さくぴくっとその声に身構える
「お前 白いリボンと随分親しいみたいじゃないか」
「宇宙同期 本当にあの子のこと思うならお前はどうする?」
コメント
1件
わあ〜っ第7話、めっちゃ良かったです!!😭💕 ロクが突然現れて「白リボン」って呼ぶところから始まって、研究室でのあやのキラキラした姿、そしてロクの「好きかも」にドキドキが止まらなかったです…!あやが布団で眠れなくなる気持ち、めっちゃ分かる…!! 後半の余白珈琲での空気の重さも良かったです。ロクの「自分たちを守るため?」って問いかけ、心に刺さりました。特に双子座に投げかけた最後のセリフ、続きが気になりすぎます…!次話も楽しみにしてますね✨
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