「昨日は8体で、今日は15体も討伐しているのよ?いくらなんでもレベル1のままなんて…」
アイラの指摘にレビンは焦らずに答える。この疑惑がもたれるのは織込み済みだったからだ。
「実は…理由は不明なんですが、僕はレベルが上がりづらい代わりに強いみたいです。もちろん口では何とでも言えると思うので、試してもらってもいいですよ」
どうせいつかはバレるのであれば、大丈夫な方をバラそうと考えていたのだ。
(ここではヴァンパイアの事も、ミルキィのレベルもバレるわけにはいかない)
タグを見ればミルキィのレベルはバレるが、もちろん見えるところには出していない。
街の門の出入りも、知り合いの門番の時はタグのレベル欄を指で隠して見せている。初めて街を出る時にしっかりと確認している為、2回目以降はほぼ顔パスで済んでいた。そして、知り合いの門番がいない時にはお金を払い街に入っていた。
「そうなの…でも大丈夫よ。納品しているのは普通にゴブリンのものだし、問題はないわ。ただ心配なだけよ。ごめんねお節介して」
「いえ。心配して頂きありがとうございます。そういう事なので、明日からもゴブリンを倒して来ますね!」
「ええ!レビンくんが強くても気をつけるのよ?後、レベルが1のままだとランクアップが難しいの。もしミルキィちゃんがレベル10を越えたら教えてね!直ぐにでもランクアップの申請をするから」
二人は心配と情報をくれたアイラにお礼を伝え、ギルドを後にした。
「今度は坊主の番か」
そう二人に告げたのは、この武器屋の店主キルギスである。
「はい!丈夫なロングソードはありますか?」
レビンには解体にも使える短剣があるのだが、そろそろ強度に不安を感じた為、他の武器を買う事にした。
出来ればミルキィと同じ物の方が緊急時にどちらでも使える為、ロングソードにしようと決めていたのだ。
「予算はどれくらいだ?」
「…金貨2枚です」
ここに来て、旅の軍資金と今まで稼いでいたお金が底をつきかけていた。理由はミルキィの剣であるが、それは口に出さない。…いや、出せない。
「金貨2枚!?そりゃないぞ?嬢ちゃんのロングソードで相場はしってると思うが、金貨5枚はするからな」
「そ、そうですよね…ちなみにここにあるロングソードで一番丈夫なのはいくらですか?」
「丈夫さか…ロングソードは元々肉厚に造られるから、そもそも丈夫さを念頭に置いて買うやつは居ないんだよな。
だが、勧めるならこれだな」
店主が見せたそれは、普通のロングソードに見えた。
「これは刀身が普通のとは違うんだぜ?」
そういうと店主は鞘から剣を抜いた。
「綺麗ですね…」
「だろ?こいつが丈夫な理由でな。値も張るがいいモンだな」
そこには黒色の刀身に、刃は銀色に輝くロングソードがあった。
「黒曜鉄って素材で出来てる剣だな。値段は金貨30枚だ」
「さ、30…出直して来ます」
元々手も足も出ない金額が6倍にもなってしまった為、レビンはすごすごと退散した。
「残念ね。金貨30枚貯まるまでは私の剣を使えばいいわ」
食後、自室にて意気消沈しているレビンへと、ミルキィが優しい言葉を紡いだ。
「ダメだよ。その剣はミルキィの安全の為に買ったんだから」
「でも30枚は今の稼ぎだと時間がかかり過ぎるわ。心配してくれるアイラさんにも疑惑があるのよ?私達の事を何とも思っていない人にはさらに疑惑が出るわよ?」
ギルドも職員以外の人がいないわけではない。何処かの冒険者が自分達の異常を知るかもしれないし、ギルドの職員もアイラ一人ではない。
「そうなんだよね…それで、別の街に行こうと考えているんだけど、ミルキィはどう思う?」
「良いんじゃないかしら?いつ出るの?」
「明日は午前中に旅の資金を稼ごう。昼からは次に向かう街の情報収集だね。いいかな?」
「もちろんよ。頑張りましょうね」
身軽な二人は早々に街を発つ事に決め、明日の予定を立てて眠りについた。
「えっ!?明日、ここを出て行くの!?」
次の日の夕方、ギルドにアイラの声が響いた。まだ早い時間の為、人が少なかったのが幸いした。
「はい。ミラードの街に行く用事が出来てしまいました。アイラさんには良くして頂いたのに申し訳ないです」
「それは良いのよ。でも寂しくなるわね。二人の事は街の人達もよく話ていたのに…」
(えっ!?なにそれ!?僕らは知らないよ!?)
「な、何を噂されていたのですか?」
「ミルキィちゃんよ。あんなに可愛くて冒険者なんて出来るのかって、もっぱらの噂よ?私はそれを聞く度に、レビンくんも可愛いって広めておいたわ!」
(ほっ…そんなことか…いや、実際に目立って居たのなら安心は出来ないな。早めに出る事を決めて良かったよ)
「僕の事はどうでもいいですが…わかりました。
次の街でも頑張るので、アイラさんもお身体に気をつけて頑張ってください」
二人は今までのお礼をアイラに伝えると、ギルドを出るタイミングで、後ろから声をかけられた。
「待ってください!ミルキィ・レーヴンさんですか?」
声を掛けてきたのは、話したことがないギルド職員だった。
「はい。そうですが…」
「やっぱり!噂通りの美人さんだったので、すぐにわかりましたよ!こちら手紙です!受領にサインをお願いします」
噂が役に立つ事もあるのだと、レビンはサインしているミルキィを見つめた。
手紙を受け取った二人は、今度こそギルドを後にしたのだった。
「誰からだったの?」
宿に帰ったレビンは手紙の送り主を聞いた。
「まだ見てないけど、ママしか有り得ないわ」
「そうだよね」
そう言いながらミルキィは手紙の封を切った。
「これは…うそっ…」
手紙を読んで絶句したミルキィ。それを不安な目で見つめるレビン。
静寂が元々簡素な部屋を包んだ。
「ごめんなさい。驚く事が書いてあったの。見てみる?」
「いいの?じゃあ遠慮な、く…あれ…?読めない…」
静寂を破り声を出したミルキィは、手紙をレビンに渡すが……
「そうでしょ?これはママから教えてもらった文字なの。何処の文字か知らなかったけど、その手紙でやっとわかったわ」
「えっ…どこの文字なの?」
「それよりも翻訳した方が早いわね」
そういうとミルキィはレビンから手紙を受け取り、外行きの綺麗な声で読み上げていく。
『頑張っているかしら?この手紙には貴女に黙っていた秘密を書くわ。
貴女のお父さんのことよ。貴女にはバーンと言っていたけれど、正確には『バーンナッド・レーヴン』エルフの王族なの。
エルフは人族の街では目立つ上に、自分は王族だから姿を隠していたの。そこでお母さんと会うのだけれど…それは割愛するわ。この小さな紙には書ききれないもの。
本題よ。貴女のお父さんは生きているわ。貴女が産まれてからすぐにトラブルに遭い、エルフの国にどうしても戻らなければならなくなったの。
もし探すのなら気をつけてね。レビンくんと末永く幸せに。
貴女の幸せを願って。レイラ・レーヴンより』
「エルフ語なんだね。お父さんがエルフだったのか。お母さんも美人だったけど、お父さんがエルフならもしかしたらミルキィはお父さん似なのかもね」
エルフが美形揃いなことは世界共通の認識だ。いつになく真剣な表情のミルキィに掛ける言葉が見当たらず、そんな冗談が口をついて出た。
「パパは死んだと聞かされていたわ。生きていたのね…」
「どうする?お父さんを探すなら、もちろん一緒に行くよ」
今更離れてなど暮らせない。レベルの事もあるが、レビンはミルキィのいない生活が考えられなくなっていた。
「ふふっ。安心して。居なくなったりしないから。それに探しになんて行かないわ。向こうが会いに来るのが筋よ!」
「わかったよ。確かにミルキィからすれば、どんな理由があったにせよ許せないよね。じゃあ、僕らは予定通り次の街を目指そう」
翌日から始まる旅を考えると早く寝てしまいたかったが、ミルキィは中々寝付けなかったのであった。
『追伸。初めての吸血衝動前後は情緒不安定になるけど、レビンくんと喧嘩しちゃダメよ?』
(通りでイライラしたりしたわけね…まぁレビンは気にしてなかったからいいけど…ママ。そういうのは、早く伝えてよね……)
レベル
レビン:1→0→1→0→1→0→1(34)
ミルキィ:30→33
〓〓〓〓〓注意書き〓〓〓〓〓
以前にも書きましたがこの世界の金貨(500円硬貨より一回り以上小さい)の価値は10,000円くらいの設定です。物価の違いはあれど、地球では10万円以上の価値はありそうなサイズ感ですが、あくまでもわかりやすい設定にこだわっただけなのであまりにも不評であれば変えるかもしれません。
この世界の金や銀の埋蔵量が多いと考えていただければ整合性は取れます。
それを踏まえてもご納得頂きづらい場合は感想にてお願いします。
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