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桃源暗鬼

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桃源暗鬼

21 - 第21話

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2024年09月21日

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鳴海と無陀野が木の上から見守る中、一ノ瀬は何度も自身の手を傷つけ血を流す。

だがあの日のような武器は、欠片も作り出すことができなかった。

何故武器が出てこないのか分からない。

抉り取った土や岩を投げつけてくる巨人に、全く太刀打ちもできない。

弱く何も出来ない自分に、一ノ瀬は再び悔し涙を流すのだった。


第8話 俺は…ここからだ!/俺には関係ない


一方的にやられている一ノ瀬を前にして、鳴海は横に立つ無陀野をじーっと見つめる。

言葉に出さなくても、今彼が自分に対して何を望んでいるのか、無陀野には手に取るように分かる。

1つ大きな息を吐くと、鳴海の方へ視線を向けた。


「(巨人は見かけの割に結構素早く動ける…その倍の速さで動いて首を落とす…まずは身動き取れないように…)」

「半壊させるなよ」

「!行ってくる!!」


鳴海にGOの合図を出すと鳴海は明るい笑顔でそう言うと、鳴海はサッと木から飛び降りる。

そして両手を地面について下を向いている彼の元へと向かうのだった。



「泣きてぇならどっか他所で泣け。」

「あ!?泣いてねーし!殺すぞ!」

「…すぐ泣くガキはそいつに慰めてもらってろ。」

「は?”そいつ”って誰だ…って、鳴海!!」

「涙不似合いだね四季ちゃん」

「うっ…ダセぇから見せたくねぇ……鳴海には、もっとカッコいいとこ見せてぇよ…」


自分と目線を合わせるようにしゃがんでいる鳴海から顔を背け、一ノ瀬は涙を隠そうとする。

そんな彼の頭を優しく撫でながら、鳴海は諭すように穏やかに話しかける。


「四季ちゃんはダサくなんてないし、カッコ悪くもないよ。」

「…いくら天使の言葉でも…それは信じねぇ。」

「本当にダサくてカッコ悪いのは、今この場から逃げて、弱いままでいる人だと思う。お友達を守るために、頑張ってもがいてる四季ちゃんはめちゃくちゃカッコいい。」

「けど…」

「四季ちゃん、あの時と同じだよ?下ばっかり見てたら、大事なことを見落としちゃう。顔上げて、周りをよく見て?」


鳴海の言葉に引き寄せられるように顔を上げた一ノ瀬は、鳴海と視線を合わせた。

笑顔で頷く鳴海を見て、彼の脳内は少しずつ落ち着きを取り戻す。

皇后崎や屏風ヶ浦の血触解放の特徴、あの日自分が出した武器、そこから導かれる1つの仮説…


「鳴海。」

「ん?」

「ありがと。俺、分かったかも!ちょっとやってみる。」

「じゃあ頑張って!」


鳴海に今までと違う光を宿した瞳を向けると、一ノ瀬は右腕の袖をまくりあげる。

一方、巨人の相手をしていた皇后崎は、相手が発した強大な音波によって耳をやられていた。

着地した彼の元へ駆けつける途中、鳴海は木の上にいる無陀野に視線を送る。


「(無人くん…!)」

「(ここらが限界か…)」


鳴海の視線に1つ頷くと、無陀野は人差し指にはめた指輪から刃を取り出し戦闘態勢に入った。

その姿を横目に見つつ、鳴海は耳を押さえしゃがみ込んでいる皇后崎に声をかける。


「迅ちゃーーん!聞こえてるーー??」

「うるせぇ…!左は聞こえてる!」

「あ、そう?ぱぱっと右治しちゃうからこっち向いて」

「いい。ほっとけば治る。」

「はいはい。つんつんボーイは黙ってな」

「いいっつってんだろ。触るな!」

「触ってないじゃん。手かざしてるだけでしょ。大人しくして。」



強めにそう言うと、皇后崎の右耳に手をかざして治療を始める鳴海。

彼の手から出た菌は皇后崎の耳の中へと入り、内部の破壊された器官を生成していく。


「(菌…?こいつ桃太郎なのか?いやでも鬼だからここにいる訳だし…)」

「ど?聞こえる?」

「……余計なことすんな」


自身の戸惑いを隠すように、皇后崎は礼も言わずに立ち上がる。

鳴海はと言えば、その失礼な態度に気分を害した様子もなく、やれやれと肩を竦めた


鳴が皇后崎の治療に当たっている間、一ノ瀬は再び手から血を流していた。

鳴海の言葉を機に得たヒント…無作為に武器をイメージするのではなく、自分が一番好きなものを思い浮かべる。

イメージを具体的かつ鮮明にするために、意識を集中する。

その結果…!


「喚くなよ。」

「あっ…!」

「(掴んだのか…?)」

「俺は…ここからだ!」


ついに血触解放を成した一ノ瀬の手に、彼の大好きな大型の銃が握られていた。

鬼の血は、血液の形や強度を自由に変えることができる。

頭でイメージしたものが神経だけでなく血管にも伝わり、それが最終的に傷口から出た血液に流れ込み形を造るのだ。

その鬼が何を造り出すのかは、各々の脳内にあるものがベースとなる。

トラウマが反映される者…

趣味嗜好が反映される者…

経験が反映される者…

そうして独自の武器を血液で造り出すことを、いつからか”血触解放”と呼ぶようになった。


「これで戦える!」

「(この短期間で血触解放を覚えた…飲み込みが早い…)」

「…こっちだ。歯ぁ喰いしばれ!」


巨人の攻撃を避けた一ノ瀬は、そう言うと大型の銃から強烈な攻撃を放った。

放たれた弾が一撃で巨人の体を貫くと、それと同時に屏風ヶ浦の体も限界を迎える。

巨人を倒すだけでなく、天候までも変える程の威力に、撃った本人も驚きの表情だ。


「す…すげぇ…」

「え、雨…?って、それよりも帆稀ちゃん…!」

「(なんだ今の威力は…あの巨人どころか…天候を変えやがった…!)」

「(確かに威力は文句ない…が…)」

「屏風ヶ浦、大丈夫か!?」


場が落ち着くとすぐに、倒れ込んでいる屏風ヶ浦の元へ駆け寄る一ノ瀬。

だがその彼自身の体も、さっきまでとは勝手が違っていた。

走り始めた途端に倒れた一ノ瀬の前に、無陀野が姿を見せる。


「体が…動かねぇ…」

「脱力感で体が動かないだろ。」

「!」

「あれだけ高濃度の血を撃ち込んだから、血が足りないんだろ。」

「(くそ…ここで来るのかよ…)」

「無理するな。目も霞んでいるだろ。」

「全然、余裕!」


無理やり立ち上がった一ノ瀬だったが、その目は完全におかしな状態になっていた。

血をコントロールできないことは、最悪の場合命を落とすことにも繋がる。

一ノ瀬にとって、この課題は早急に解決する必要があるだろう。


「そ…そうだ…屏風ヶ浦を…見てくれよ…鳴海が、血ぃ…使い…過ぎてるって…言ってたから…俺は…あとでいいか…ら…屏風ヶ浦を…手当て…して…くれ…」

「(お前も十分瀕死だろうに、人の心配か。)もう鳴海が診てる。安心し…」


無陀野の言葉を遮るように攻撃を仕掛けてきたのは、しばらく大人しくしていた皇后崎だった。

目の前の男を殺せば、即卒業で望む部隊へ…それを実現するための当然の行動というわけだ。


「そんな奴らどうでもいいだろ。時間がもったいねぇ。」

「応急処置をしないと危険だったら?」

「俺には関係ない。」

「関係ない…か。生徒を分別するつもりはないが…嫌いだよ、お前みたいなタイプは。」


仕込み傘を開きながらそう言った無陀野は、いつもとは違う冷たい目をしていた。

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