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意識を集中させて自分自身を確認してみる。
私の身体を不可思議エネルギーが薄い膜を張るように全身を覆っている。
私の身体が頑丈なのは、この不可思議エネルギーのせいだろうか?
いや、なんとなくだが、今の状態と普段の状態に差異がある気がしてならない。
今の私は、普段よりも鼓動が僅かに早い。
少し攻撃的な意味で興奮している自覚がある。普段の自分を思い出しながら、深呼吸を数回行うことにした。
鼓動の早さがいつも通りに戻り、興奮も収まってきた。
改めて自分を認識してみると、不可思議エネルギーは体を覆っていなかった。
だが、自分の不可思議エネルギーを感じられないわけではない。私のこの不可思議エネルギー(長いからもうエネルギーでいいか)、私の胸の中心から外に向けて放出し続けているようだ。
その範囲は非常に広く、放出したエネルギーに意識を集中させれば、その範囲の全容が理解できてしまったのだ。
私が”|死猪《しのしし》”を倒した後に”老猪”の接近を五感を頼らずに分かったのは、彼が発していたエネルギーを感知したからだけではない、ということなのだろう。
私の開けた穴に尻尾を入れて底に触れるまで伸ばしてみた。
だが、最大まで尻尾を伸ばしてみても|鰭剣《きけん》の先端が底に触れることは無かった。一体どれだけ深くまで穿ってしまったのだろうか?
こうなったのは十中八九、私が明確な意思を持って鰭剣に意識を集中させたからだろう。
『貫く』という意思にエネルギーが乗せられ、突き刺すという行動が合わさり相乗効果を得ることによって、普段とは比較にならない威力となったのだと予想する。
ただし、『貫く』という意思を込めたからか、発熱はしなかったようだ。
どうやら、私がこれまで発生させていた高熱は、空気の摩擦熱によるものではなかったらしい。
拳や足、それに尻尾が高熱を帯びたのは、特に意思を乗せず、それでも使用されたエネルギーが最も簡単に発生させられる現象として、高熱を発する現象を引き起こしたのだろう。
試しにエネルギーを意識しながら、右手を握り締め、右手にエネルギーが少しずつ集まるように意思を集中してみた。
すると思った通り、私の胸の中心から右手の握りしめた手の中へとにエネルギーが流れて集まっていくのが理解できた。
今もエネルギーは集まり続け、薄い膜を張るどころではなく、拳よりも二回りほど大きい七色に輝く光が拳を包み込んでいる。しかも、その光は徐々に大きくなっている。
瞳と同じでえらく派手だな、おい。
おそらくこの状態で地面を思いっきり殴ったら、崖にある滝の池よりもさらに大きなクレーターが出来てしまうんじゃないだろうか?
なんとなくだがそんな気がするし、実際そうなのだろう。
今のところ私は、私のことに関しての[なんとなく]による予測は、ほぼその通りの結果をもたらしている。
いやまぁ、外れたこともあるけれど。それは想定を上回る結果になっていたことだし、仮に予測を外れたとしてもより規模が大きくなるだけだろう。予測を下回ったことは無い。全く嬉しくないが。
どこまでエネルギーを溜められるか気になるところだが、それはまた別の機会にしておこう。
一度ゆっくりと手を開いてから、すこしずつ右手のエネルギーを私の身体全体に流していき、エネルギーを霧散させた。
この力は、言うまでもなく危険極まりないものだ。しかも、尻尾や鰭剣と同じく、使いたくないからと排除できるようなものでもない。
だとしたら、やるべきことは一つ。力の制御だ。訓練、いや修行だ。十全に扱えるようにならなければ、私に明るい未来は訪れない。
まずはエネルギーを精密に、迅速に体の至る所に自在にいきわたらせられるようにしよう。エネルギーを利用して体を動かすのはまだ早い。
理想としては、先程右手に集めたぐらいの量を瞬きするよりも早く、どの部位にでも集められるようになりたい。
エネルギーの制御を始めて二日経ったぐらいか。
雨はずっと降り続けているし、それどころか徐々に勢いが増している。
そして分かったことがある。
まず、このエネルギーの質は皆が皆同じものではないのだ。
私のように七色に輝くようなものもあれば、”死猪”のようにひたすらにドス黒いものもある。
それに、エネルギーを所有しているのは、動物だけではなかった。
植物にもエネルギーが感じ取れたのだ。
この辺り一帯に生え広がっている樹木は、皆同じ種類のようではあるが、所有しているエネルギーには様々な差異がある。
質は同じだがエネルギー量の大小、そして密度。例えば、いつも私が美味しくいただいている果実にもエネルギーが含まれていた。というか、樹木の中で最もエネルギーが蓄えられているのが果実だ。
エネルギーの密度が大きいほど、濃厚な味を持ち、エネルギーの量が多いほど香りが強く大きく広がっていたのだ。
エネルギーの制御を始めてから果実を食べてみて気がついたが、私は無意識にのうちに、エネルギーの量、密度、そのどちらもが大きいものを選んで食べていたらしい。
というよりも、ある程度の量と密度を持たないものは目視したとしても果実として認識していなかったようだ。
試しに一度、エネルギーの量、密度ともに普段よりも小さい果実を食べてみた。
その味は確かに美味かったのだが、今まで食べていたものよりも甘さが物足りなく、口の中に広がる香りも小さい。
そもそも近くまで手繰り寄せないと匂いが感じ取れない、というものだった。
仮に、最初に食べた果実がこれだった場合、あの時ほどの感動は得られず、頻繁に口にすることも無かっただろう。
もう一つ、分かったことがある。今も降り続けているこの雨だ。
雨が降り始めてからというもの、雨水の水温がほんの少しずつではあるが下がってきている。
私にとっては冷たくて気持ちがいいものだが、動物達にずっとこの状態が続いた場合に、彼等の健康状態に影響が出ないか少し心配になってくる。
そう思って雨水を見れば、驚いたことに、雨水がエネルギーを含んでいたのだ。
そして、雨水のすべてが均一だったのだ。雨水の一粒一粒の大きさが、含んでいるエネルギーの量が、密度さえも、全てが均一だった。
雨水が何かに触れた際に、エネルギーは触れたものに移り、触れたものの温度を奪っている。
エネルギーを目に集中させていた時に、偶々気づくことができた。
生物でなければエネルギーを持たない。そう認識していたが、少し違うのかもしれない。一度飛び上がって雨雲を確認してみた。
雨水と同様に、雨雲全体に均一にエネルギーが行き通っているのが分かる。
エネルギーを制御していて分かったが、生き物が意識せずに常にエネルギーを体全体に均一に行き渡らせるのは、至難であると言わざるを得ない。
体を動かせば、それに沿ってエネルギーも移動するのだ。
その分、動かした部位のエネルギーが他の部位よりも大きくなる。私もなるべくエネルギーを均一に保ったまま体を動かしてみているが、意識している時ですら難しいのだ。
あの雨雲を生物として判断することはできないだろう。
あの雨雲は、何者かが明確な意思を持ってエネルギーを使用して作り上げたものではないだろうか?
あらかじめ行動内容を決めて、その通りに現象を引き起こすように作られた、道具のようなものだとしたら?
森の外部からの干渉…いや、これは最早、森全体に対する攻撃だ。
………。
不愉快だ。あぁ、実に不愉快だ。
どういうわけか私は、この森に対して深い愛着のようなものがあるらしい。
森にとって不都合なことを、見過ごすことができないようだ。
この雨を止ませるには、どうすればいいだろうか?
雲を吹き飛ばせれば、いけるだろうか?私は、自分のこれまでの行動を振り返り、あの雨雲に対して最も有効な手段を探す。
私にとっても最も広範に影響を及ぼす行動は。
ただのクシャミでクレーターが作れるからな。どうなっても知らないぞ?
あれか。
私は一度寝床のあった場所まで戻り、そこから雨雲を睨みつける。
この森に対する攻撃だというのならば、この崖から向こうへはあまり雨雲が広がっていないとみていいだろう。
自分の体に意識を向ける。
私の胸の中心からは、今もエネルギーを放出し続け、この体にどれほどの量のエネルギーを所有しているのか自分でも把握できない。
この有り余るエネルギーを一気に放出したのならば。おそらくあの雨雲を消し飛ばすことが出来るだろう。
エネルギーを肺に急速に集中させる。
エネルギーが肺に留まり切らずに喉まで溢れてきたところで、大きく息を吸う。明確に『消し飛ばす』という意思を肺に、そこに溜まっているエネルギーに込めていき、尻尾を伸ばして私の身体を支えるように地面に突き刺した。
雨雲へ向けて全身全霊を込めて、叫ぶ要領でエネルギー口から放出した。
「『――――』ッ!!!!!!!」
声は、出ていない。
七色に輝く光が私の視界に広がり、その光以外の存在を認めないかのように、視界の全てを光で埋め尽くす。
エネルギーの放出による凄まじい反動が私の身体を後ろに押し出そうとする。
だが、尻尾が身体をしっかりと支えてくれるおかげでその場から私の身体は微塵もずれること無く、狙い通りにエネルギーを放出し続けた。
私に尻尾があって本当によかった。
私の肺活量が続く限り放たれたそれが収まるまで、私はこの光が及ぼす影響を知ることができない。
どれくらいの時間、エネルギーを放出し続けただろうか?
水滴が身体に当たる感覚がなくなってから(エネルギーを放出してから割とすぐだった気がする)も放出は続き、平時の時の呼吸を百回ほどしたぐらいの時間が経過しただろうか?
エネルギーの放出が勢いを失い始め、徐々にそれは収まっていた。
上空を覆っていた黒に近い灰色の雨雲は欠片も残さず散っている。澄み切った青空がそこには広がり、日の光が燦々と森を照らしていた。
上手く雨雲を吹き飛ばすことができたようだ。よかったよかった。
で、終わったら本当によかったんだけどな。
上手くできてなかった!よくなかった!!まったく、よくなかった!!!
視線を下した先には、見事なまでに消し飛ばされてとてつもなく広大なまっさらな平地が、扇状に広がっていたのだ。
や、やってしまったぁ………。