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四十階に到達し自動扉が開くと広大なオフィス空間が広がっていた。中央の円卓テーブルに髭面の中年男性が待っている。彼こそが《レイヴンズ・ネスト》の最高責任者である佐々木義仁統括司令だ。


「来たか、直樹」


男は椅子から立ち上がらず手招きする。促されるまま対面の席につくと、秘書らしき女性が二人分のコーヒーを持って現れる。


「飲む必要はない」


司令官はカップを避けさせるように片手を挙げた。


「まずは単刀直入に話そう。君の闇能力について我々も把握している」

「そうですか」

「実は昨夜の交戦映像を確認させてもらった。素晴らしい制御力だった」


彼は真剣な眼差しで続ける。


「問題は二点だ。第一にその能力は危険すぎる。使い方を誤れば味方も巻き添えにする」


俺は無言で聞き入る。確かに先程の戦闘では、タクシーや周辺施設にも影響を与えかねない状況だった。


「第二に……君が利用されている可能性が高い」

「利用?」

「ああ。闇属性は非常に希少かつ不安定な系統だ。通常は自己制御できずに暴走するのがほとんど。にも関わらず君は冷静に戦術判断を下していた」


司令官の声が一段低くなる。


「まるで『何か』が導いているように」


核心に迫る言葉に息を詰める。彼の推論はおそらく正しい。俺の中にいる『声』の存在を知っているのだ。


「翔太のことですが……」


思わず口走る。司令官の眉がぴくりと動く。


「何を知りたい?」

「彼は本当に俺の中にいるのでしょうか?」


沈黙が流れる。壁に掛かった時計の針音さえ聞こえるほど、静寂が支配する。


やがて司令官はため息混じりに答えた。


「科学的には否定できない。肉体的融合による精神共有は、過去にも症例報告がある。ただし通常は主従関係が固定される。君の場合……」


言葉を選ぶように彼は続けた。


「極めて珍しいケースだ。互いに独立した意志を持つ可能性が高い」


つまり俺と翔太は並存しているということか?納得しかけた矢先『声』が割り込む。


『そいつの言うことを信じるのか?』


苛立ち混じりの翔太の声。いつもより尖っている。


「黙ってろ」


小声で制止するが効果なし。司令官はじっと様子を観察している。


「その内部葛藤も含めて研究対象だ」


彼は冷静に切り出した。


「当分は我が隊で監視保護する形となる。具体的には特殊作戦班への配属だ」


唐突な提案に驚愕する暇もなく話は続く。


「班長には既に伝えてある。彼らなら君の力を最大限活かせる」


特殊作戦班?そんな部署があるとは聞いていなかった。


詳細を尋ねようとする矢先インターホンが鳴り響く。そこには一人の少女が立っていた。


肩まで届く銀髪と凛々しい瞳。制服を完璧に着こなした彼女は敬礼とともに宣言する。


「第三班所属霧島玲奈伍長であります。直ちにお連れいたします」


有無を言わせぬ迫力に押されるまま立ち上がる。司令官は小さく頷いた。


「行ってこい。結果は追って通知する」


背中越しにそう言われてエレベーターホールへ向かう。扉が閉まる寸前で司令官が付け加えた。


「あとひとつ忠告しておく。決断は常に己の意思で行え。他者に委ねれば取り返しがつかなくなる」


金属音と共に外界から遮断される。密室空間で隣を見ると霧島嬢は無表情のまま佇んでいる。どこか冷徹な印象だ。



地下駐屯区画へ降りると、特殊作戦班専用の訓練グラウンドに出迎えられた。すでに五名の隊員が整列している。いずれも若手精鋭らしき顔触れだ。


「新入り?」


金髪ツインテールの小柄な女子が好奇心剥き出しで近づいてくる。赤いジャケットにミニスカートという派手な服装だが、肩から下げたサブマシンガンは異彩を放つ。


「私は紅林舞香少尉。気軽にマイちゃんって呼んでね☆」

「ちょっとマイ……馴れ馴れしすぎだ」


横槍を入れるのは眼鏡をかけた真面目そうな少年。襟元のバッヂから判断すると副長格らしい。


「篠宮隼人曹長だ。規律厳守を要求する」


相反する性格のコンビに挟まれ困惑する俺を見て、霧島嬢が簡潔に紹介役を務める。


「紅林は情報分析担当。篠宮は教育担当。私は火力支援特化型」


淡々とした説明ぶりに苦笑いするしかない。続けて大柄な黒人系青年が握手を求めてきた。


「自分はロイ・マクファーソン伍長。アメリカ陸軍出身だ。よろしく」

「山田花梨曹長でっす! 特殊通信兵やってまぁす」


最後のピンク髪ポニーテールの女性は妙にハイテンションだ。どうやらチームワークより個性の塊らしい。


全員から順番に挨拶されつつも内心緊張は解けない。なぜならば……


『こいつら全員信用できない』


頭の中で翔太が警告しているからだ。疑念というよりも警戒心に近いトーンだ。理由を訊こうとしても返事はない。


「さて」


班長と呼ばれた褐色肌の美女、橘沙織大尉が号令をかける。


「実戦形式で能力テストを行う」


突然の指示に戸惑う間もなく、模擬戦が始まろうとしている。どうやら歓迎会というより試験会場に連行されたようだ。


『構えろ!』


翔太の叱咤を受け銃を抜く。その動作に隊員たちが一斉に構えを取る。空気が張り詰め射撃練習場全体が臨戦態勢となった。


「目標はあのダミー人形群。好きな方法で壊してみなさい」


沙織大尉の指揮棒が示す先には、多数の鋼鉄製標的が配置されている。どれもグリムリン変異体のモデル体型だ。


「開始!」


同時に四方八方から銃撃と能力行使が始まる。

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