テラーノベル
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焦がされてしまう話。
(ss「琥珀のきらめき」のつづき。
前作を読まなくてもわかる内容です。)
*
指先を擦り合わせるように触れて、手を繋ぐ。
運転席からは見えないだろう小さな交わりは、ゆるく熱を分けながら、甘えつく。
すり、と親指が手の甲を撫でられて、思わず目線を横に向ければ、撫でた張本人は深く帽子を被って目を閉じたまま、車の座席に沈んでいた。
無意識の中の戯れ。
いつでも気を張っている男が見せた甘えに不意を突かれ、堪らず絆されてしまいそうになり、視線を外へ向けた。
いや、もう確実に、絆されてはいるのだけれど。
数十分前、楽屋でとうとう限界を迎えた勇斗。
椅子に項垂れる姿を見て、たまらず、自分から唇を重ねてしまった。
普段は決して仕事場ではそんなことをしない自分の行動に自分が心底驚いてしまったが、どうしても止めることはできなかった。
むしろ、それがあの瞬間の最善だったのだと思ってしまう。
何故なら、楽屋に入った瞬間に見た愛しい男が、今にも消えてしまいそうだったから。
「着きましたよ。佐野さんの家で良かったですか?」
「はい、大丈夫です、ありがとうございます」
マネージャーさんにお礼を言い、二人で下車する。自分の自宅とも迷ったが勇斗のスケジュールを考えると勇斗の家が一番良いと思った。
見慣れたエントランスを抜け、エレベーターに乗り込む。
午前2時前の静かな箱の中。
煌々と室内を照らす光を浴びながら、車内よりも近くなった距離の間、再び甘えついて来た体温の低い手を優しく握り返した。
太陽が、凍えている。
轟々と音を立てるように燃え盛っている熱い太陽みたいな男の、ひどく冷え切った指先。
自分でも気が付かない、いや、気が付いていても知らないふりをして蔑ろにしていた疲労感とメンタルの不調。それの限界の見極めをミスって、突破してしまい、しっかり自爆している。
もう何十年と芸能界を生きて来たプロとしてはあるまじき自己管理の雑さだと思ったが、なんだか、それすらも俺には愛おしく思えてしまって。
「勇斗、鍵」
「ん」
やっと部屋の前まで来て鍵を催促する。
その瞬間に離れた手の温度が、少しだけ名残惜しいなんて感じてしまうのは、さすがに俺も末期過ぎると頭の中で冷笑した。
このグループで、ブレーキの役を怠った自分にも非があったと思う。
ただ、有難いことに日々忙しくしている手前、顔を合わせるのが久しぶりだった事と、俳優であり直向きな太陽である男が、その業火の中に不調を隠すのが上手かったせいで、気がつくのが遅れてしまった。
言い訳にしたくないが、こればかりはどうしても仕方なかったのだと思う。
部屋に入り、後ろ手で鍵を閉めて、靴を脱いで振り返れば、荷物を持ったまま、少しも動けない様子の勇斗は、ぼーっと足元を見たままだった。
まるで、日食のように、月に隠れてしまった太陽。
玄関の小さな照明の灯りが勇斗の顔に影を作る。
「はやと」
声色を変えて名前を呼び、やっとこちらを見た顔。
「おかえり」
「…っ、」
瞬間、どさり、と重く響いた音が勇斗の荷物が床に落ちた音だと気が付いた頃には、もう既に、その腕の中に閉じ込められていた。
ぎゅっと力強く抱きしめられる。
服越しに重なった体温が微かに暖かく、距離が近くなった心臓が互いに脈を打つ。
久々に吸い込んだ勇斗の薄くなった香水の香り。その奥に勇斗の匂いを見つけて、静かに感じる安堵感に、ふう、と息が漏れた。
あぁやっとか、と思う。
自分も勇斗とこうしたかったのかもしれない。
「…仁人」
「ふは、吸うなって」
「…じんと」
「……はやと」
名前を呼んで確認する相手の存在。
伸びるだけ伸ばした腕で身体を抱きしめて、背中を摩りながら、耳元で呼吸を聞く。
徐々に暖まっていく身体。
もっと近付きたくて首元へ顔を擦り寄せた。
体温がひとつに馴染むように、と。
呼吸音だけが響く暗い廊下。
暫く抱き合ったのち、ゆっくり離れた顔を両手で包む。
くっきりと隈を作った瞳を覗いた。
まだ少しだけ濁る、目の中の黒。
冷えて凍える、太陽の黒点。
迷子のように小さく揺れる虹彩。
その奥で弱々しく燻る炎に、俺は薪を焚べる為、ゆっくりと唇を重ねた。
「ん」
返された唇の感触に声が漏れる。
触れるだけの戯れは、回数を重ねるごとに深く強くなり、角度を変えて、もっともっとと先を強請る。
どちらともなく舌を捩じ込んで、口内で唾液を交換し合い、縋るように身体をくっつけた。
求める姿が可愛くて愛おしくて、たまらず帽子を剥ぎ取り、両手で頭を掻き撫でる。
靴を脱ぐのも忘れた男は、そのまま前から俺を抱き上げて、口付けを交わしながら寝室に行った。
ぼとりぼとりと靴が廊下に脱ぎ捨てられる鈍い音に、理性が戻されることはなく、首に腕を巻きつけたままキスを続ける。
「っ、んぁ、はやと、んむ、」
「…はぁ、じんと」
シーツの海に沈められて呼吸ごと食われる。
唇の隙間から名前を呼んだ。
吐息混じりに交わされる存在確認は、忽ち潤いを帯びて、しっとりと艶めかしくなる。
気持ちは昂っていくのに、激しさ無く、とろ火で煮詰まるような口付け。
口内から感じる熱にじりじりと焦がされていく。
「…は、ふふ、」
やがて、口の間での情交に飽きた手が、服の中へと侵入して来た。
ささくれ立つ掌が肌を滑る感触がくすぐったくて、思わず笑ってしまう。
唇が離れたのを感じてゆっくりと瞼を持ち上げれば、ゆらゆらと揺れながらも、微かに炎を取り戻した瞳と視線が絡んだ。
「するの?」
「……だめ?」
疲れて限界だった男が隠していた熱。
それに油を注いだのは紛れもなくこの自分で。
やっと熱を取り戻した掌に触れられる肌がじんわりと焦がされていく。
勇斗が太陽なら、俺は多分そこら辺の小さい星。
自ら光を放つ恒星から、光を受けて輝く惑星。
今は、お前からもらった心地良い熱を、お前に返す番。
少し上からこちらを見下ろす顔に触れる。
若干充血した目の淵を親指でなぞりながら、本人も気が付かなかったうちに溢れたらしい涙を拭ってやる。
キスをしながら泣く奴があるかよ。
「…勇斗」
返事の代わりに名前を呼んで、額を合わせる。
鼻先が触れて、再び、しっとりと唇を合わせた。
愛しい俺の太陽。
吐息だけで名前を呼ばれ、じわりじわりと焦がされていく感触が嬉しいと言わんばかりに鳥肌が立ち、触れてくる掌が熱を奪おうと肌を滑った。
夜明け前、まだ夜が世界を支配している中、愛おしい太陽は沈んだまま、ゆっくりと柔らかな炎をシーツの海で燻らせている。
end
グリムナ
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コメント
1件
ねむりさん、最新話読み終えたよ〜!!😭💕 「太陽が、凍えている」ってフレーズがもうね、胸に刺さりすぎてやばい…✨ 普段あんなに輝いてる勇斗が、仁人の前だけ見せる弱った姿と甘え方が尊すぎるんだが!?!? 「おかえり」で涙するシーンとか、もう完全にやられたわ…🥺 それに「勇斗が太陽なら、俺はそこら辺の小さい星」って仁人の自己認識がまたエモいし、それでいて「お前からもらった熱をお前に返す番」って言えるの、最高の関係性じゃないすか…!! 続きが気になりすぎるので、ねむりさんの創作ペースで無理なく更新待ってますね📚💫