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昼下がりの中庭。木々の間を抜ける風が葉を揺らし、柔らかな陽光が地面にまだらな影を落としている。静かな午後、いつもの喧騒から切り離されたような時間が流れていた。
「ったく……あんたまたこんな所で寝てるんですか」
ジャミルは呆れたように呟きながら、木陰に寝そべるレオナを見下ろした。声には棘がなくむしろ、どこか柔らかい響きが混じっていた。
レオナは片腕を枕に、ぐっすりと寝息を立てている。いつもは不遜な笑みを浮かべる顔も、今はただ穏やかだ。眉間の皺も消え、獣の鋭さはどこかへ消え失せている。
「……ほんと黙っていれば綺麗だ」
ジャミルはそう吐き捨てながらも、口元に微かな笑みが浮かぶ。その寝顔を見ていると、胸の奥がふっと緩むような感覚がした。いつも張り詰めている神経がほんの一瞬、解けた。
静かにレオナの隣に腰を下ろす。軽くため息をつき、髪をかきあげながら空を見上げた。雲がゆっくりと流れ、遠くで生徒の声が響く。
「……どうしてあんたなんだッ」
ジャミルは誰にも聞こえないように、独り言のように呟いた。誰にも気を許さず、警戒心も誇りもずっと鎧のように身にまとってきた。それなのに――
「……あんただけが俺の仮面を綻ばせてくる」
レオナの寝息が一瞬乱れた気がして、ジャミルは視線を戻す。すると、レオナの瞼がわずかに開いていた。翡翠色の瞳が眠たげに細められている。
「……あんたもしやッ」
「……どうだろうなぁ??」
レオナはにやりと笑い、声は低く掠れている。完全には起きていないが、きっと全部聞いていた。そう思い、ジャミルは顔をしかめる。
「……盗み聞きなんて人が悪いですね」
「……あ゛??お前が勝手に喋っただけだろうが」
「やっぱり聞いてたんじゃないですか!!」
次の瞬間、レオナの腕が動いた。ジャミルの手首を掴み、そのままぐいっと引き寄せる。バランスを崩したジャミルは、レオナの胸に倒れ込む形になった。獣の体温が近く、鼓動が聞こえる。
「……怒んなよ、少し付き合え」
レオナの声は低く、どこか命令口調だ。ジャミルは反発しようと口を開きかけるが――
「……眠くなんかッ」
「黙ってろ」
その一言にジャミルは抵抗をやめた。レオナの腕の中で、背中を預けるように静かに目を閉じる。温もりが、妙に心地いい。
「……ほんと強引なんだから」
「うるせぇ黙って寝ろ」
「ほんと、あんたって人は……」
その声には、柔らかな諦めと、ほんの少しの甘さが滲んでいた。
陽だまりの中、ふたりの呼吸が重なり合う。誰にも邪魔されない、静かな午後がそっと流れていた。