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あめをさす

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あめをさす

1 - あめをさす

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2023年06月20日

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外は雨。

町はすっかり寝静まり、天井に打ち付ける雨音だけがよく響く。


家のすぐ隣に建つ小さな小屋。

古いソファと小さな本棚、お下がりの学習机をぎゅうぎゅうに詰め込んだ僕の隠れ家だ。


壁にかかった時計の針がもうすぐ深夜0時をさす。

秒針が真上に来たタイミングで、晴人はスイッチを入れる。

─こんばんは。雨音ラジオの時間です。

雨の日に深夜0時から放送してます。

初めての方も、そうでない方も今から10分だけ、お付き合いいただけると嬉しいです。

今晩は久しぶりの雨になりましたが、皆さんいかがお過ごしでしたか、、、




時計がちょうど0時10分になり、晴人はスイッチを切る。

雨の夜にラジオを続けて半年になる。

ラジオと言っても、ミニFMで、誰かに届いているかどうかも分からない。

最近あったことや、思ったことなんかを雨音のBGMに乗せて話すだけの自己満足な放送だ。




晴人はおじいちゃんっ子だった。

兄と妹がいるが、晴人が1番かわいがってもらった。

じいちゃんはよく小屋でラジオを聞かせてくれた。

声だけで紡がれていく話に、晴人は胸を踊らせた。

テレビっ子だった兄や妹と違って、晴人はラジオを聞きに小屋に入り浸った。


中学に入り勉強や部活が忙しくなると、おじいちゃんとラジオを聞く機会はどんどん減っていった。

次第に小屋からも足が遠のいていった。




中2の夏。じいちゃんが死んだ。

もともとの持病が悪化して、昔よりふた周りくらい小さくなり、最期は小さなツボにおさまってしまった。

よくなでてもらった大きい手は、もう二度と触れることも出来ない。


春が来て、兄が家を出るのと同時に家をリフォームすることになった。

「今小屋があるところにもう一台車を止めれるようにしよう。」

父がそう言った。


晴人は必死に頼んだ。

「小屋を残してほしい。ちゃんと管理するから!」

最初は反対していた両親も、晴人の熱意に負けて許してくれた。


その日、晴人は久しぶりに小屋の扉を開けた。



─こんなに狭かったかなぁ。

小さい頃は大きく感じたこの小屋も、久しぶりに入ると狭く感じる。

「これ、何だろう、、。」

小屋の奥に見たことがないダンボールが1つ置いてある。

中には機械の部品やマイク、アンテナなんかがいろいろ入っている。

よく見るとダンボールに小さく何か書いてある。

─ミニFM、、?

FMとはラジオのあれだろうか。

それにミニがついたのは一体なぜだろうか。

おそらくじいちゃんの物だろうが、こんな物がここにあるとは知らなかった。

晴人はスマホでミニFMについて調べる。

─個人で出来るラジオ放送ってこと、、?

どうやらこの箱の中身で簡単なラジオを放送出来るらしい。

─懐かしいなぁ。昔はよくじいちゃんと、ラジオDJごっこしたっけ。

忘れかけていた記憶が、急に鮮明に蘇る。

渋くてかっこよかったじいちゃんの声とまだ幼い晴人の声が、まだこの小屋のどこかから聞こえてきそうだ。

─じいちゃんは何のためにこれを持っていたんだろう。




「ごちそーさま。小屋で勉強してくる。」

夕飯を食べ終わると、晴人はすぐに小屋に向かう。

持ってきた勉強道具を置いて、晴人はしばらくスマホとにらめっこする。

─まぁ、どうにかなるか。

自分の部屋から運び出して、なんとか小屋の中に押し込んだ勉強机を作業台にする。

見様見真似でダンボールの中身を組み立てていく。

「これでどうだ、、」

かれこれ4時間以上格闘し、ようやくどうにか形になった。

─これ、ホントに電波にのってんの、、、?

「あー、あー、テステス。聞こえますかぁ。」

ラジオだから返事をくるわけがないことに気づき、晴人は苦笑いをする。

─明日学校だし、そろそろ寝ないとな。

晴人はスイッチを切り、小屋を出る。




1週間後、晴人は雨の中小走りで小屋に向かう。

─せっかくやってみようと思ったのに、やっぱり雨かぁ。




“晴人”という名前は、晴れてまわりを照らすような人になるようにとつけられたらしい。

晴れる人という名前をつけてもらったのに、晴人はことごとく雨男だ。

大事な日にはいつも雨が降る。

今まで、行事があるたびに雨が降った。

そもそも、生まれたその日にさえ雨が降っていたというのだ。

晴人はこの名前が嫌いではないが、自分には相応しくないといつも思っていた。




そんなことをまた思いながら、ラジオの準備をする。

この1週間、ラジオで何を話そうか考えていた。

喋りが得意なわけでも、面白いネタがあるわけでもない。

─どうせ誰も聞いてないだろ。

晴人は開き直って、考えてきたことを話すのはやめる。

一応、知り合いに聞かれないように、放送は深夜0時からに決めた。

あと少しで放送だというのに、雨が強くなってきた。

お世辞にも丈夫とは言えないこの小屋に、雨が激しくぶつかる。

予定時間になり、晴人はスイッチをいれる。

─えー。こんばんはー。

今からラジオを始めます。

名前はまだ決まっていません。

(あれ、どんな感じで話せばいいんだっけ。)

今日はあいにくの雨模様ですね。

ちなみに僕は生まれつきの雨男なので、今日の雨はたぶん僕のせいです。

雨音がうるさいですけど、僕の声は聞こえてますか。

もはや雨音しか聞こえない、雨音ラジオみたいになってるかもしれないですね。

そうだ、この番組の名前、雨音ラジオにしてみますか。

もし公募して、いい名前があったらその時は新しくします。

それまでは雨の日の深夜0時から雨音を放送する雨音ラジオをお送りします。

ラジオ名はメールアドレス

「アマオト ドット ラジオ アットマーク ドット コム 」

までお願いします。

今日はお聞きいただきありがとうございました。

また次の雨の日にお会いしましょう。


晴人はスイッチを切る。

最後の方は昔聞いたラジオを思い出してきて、勝手に適当な言葉が口から出てしまった。

子供っぽかったかなと少し冷静に戻る。

─どうせ誰も聞いてないだろ

今度は自分に言い聞かせる。


なんだか昔を思い出した。

じいちゃんがいたあの頃を。


─ちょっと続けてみようかな。




じいちゃんの命日がやってきた。

やはり空は黒い雲で覆われ、ジメジメとした空気が身体にまとわり付く。


雨は夜になっても降り続いた。

晴人は少し前から考えていた。

今日雨が降ったら、ラジオでじいちゃんのことを話してみようと。




いつものように準備をして、時間が来るのを待つ。

─今日はじいちゃんが聞いてる気がする。

気のせいかもしれないが、初めて誰かにラジオを聞かれるようで晴人は少し緊張する。


息を吐き、そっとスイッチを入れる。


─こんばんは。雨音ラジオの時間です。

雨の日に深夜0時から放送してます。

初めての方も、そうでない方も今から10分だけ、お付き合いいただけると嬉しいです。


今日は僕の祖父について話そうと思います。




─じいちゃんは、このラジオを始めるきっかけを作ってくれました。


小さい頃はよく、2人でラジオを聞いていました。

一緒にラジオごっこで遊んだりしました。

僕はじいちゃんとラジオが大好きでした。


大きくなるにつれて、忙しくなり、ラジオからもそしてじいちゃんからも離れていきました。


1年前の今日、じいちゃんは亡くなりました。

突然の別れじゃなかったから、もっとしてあげれたことがたくさんあったのになと、胸が苦しくなりました。


そんなある日、1つのダンボール箱を見つけました。

中にはミニFMを作るための機械や道具がたくさん入っていました。

そんなものがあったなんて、僕は全く知りませんでした。

理由を聞きたくても、じいちゃんにはもう聞けなかった。


じいちゃんのことを知りたくて、どうにか分かりたくて、このラジオを始めました。

「じいちゃん、、もっと話せばよかった。

もっと一緒にラジオを聞けばよかった。

もっと一緒にいたかった、、、」






スイッチを切る。

最後の方は感情が溢れてきて、なんて言ったかも覚えてない。




次の日の放課後、隣のクラスの女子に教室で呼び出された。

晴人の背中にクラスメイトの視線が刺さる。


人目を避けて、屋上に出る。

「えっと、話って、、」

ベタなシチュエーションに心拍が上がる。

相手に聞こえるんじゃないかと心配になる。

「あの、、昨日のラジオのことなんだけど、、」

「えっ、、、」

晴人は思ってもみなかった言葉に動揺する。

「ラジオって、、」

「雨音ラジオ。」

─聞いてる人がいた!?しかも同級生に聞かれるなんて、、

「私、家が電気屋で小さい頃からよくラジオを聞いてたの。

そしたらたまたま雨音ラジオを見つけて。

雨の夜はいつも聞くようになった。」

「い、いつも、、!?」

「うん。」

晴人は今までラジオで話したことを思い出し、この場から逃げ出したくなる。

─なんかまずいこととか言ってないよな、、

「3年前、うちのお店にあるお客さんが来たの。その人は、家でラジオを放送したいって言った。」

「それからちょくちょく店に来ていろんな物を揃えては、楽しそうにお孫さんの話をしていった。

私はそのお客さんの話を聞くのをいつも楽しみにしてたの。」

─それって、、。

「私はその人のことを神田のおじいちゃんって呼んでた。」

「、、じいちゃんだ。」

「神田のおじいちゃんはいつも、ハルトがね、うちのハルトはねって楽しそうに言ってた。」

晴人は視線を少し上げて、涙をこらえる。

「それで昨日の雨音ラジオを聞いて、これは神田くんの、ハルトくんのラジオなんだって気づいたの。」

「そうなんだ、、」

アスファルトの屋上に涙がおちる。

晴人は気づかれないように涙を手の甲でぬぐう。

「それでどうしても伝えなくちゃと思って、、」

「何を、、?」

「神田のおじいちゃんは、ハルトくんと家でラジオを放送しようとしてた。

でもしばらくして体調を崩したみたいで、ラジオをするのは先延ばしにするって言ってた。」

確かに、体調を崩したのはあの頃からだった。

「最後の部品を取りに来たあの日、おじいちゃんは言ったの。

ハルトがね、じいちゃんと本物のラジオをやりたいって言ったんだ。これでいつか一緒にできる。」

涙と嗚咽が溢れだす。

忘れてしまっていた。

昔の僕はラジオがほんとに好きだったんだ。

そしてじいちゃんのことも。

2人で本物のラジオが出来たら、昔の僕はきっと喜んだだろう。

それを叶えるためにじいちゃんは、一生懸命材料を集めてくれてたんだ。

「それなのに、、僕は、、果たせなかった。

そんなことを言ったことすら忘れてた。」

もう取り戻せない時間が、晴人の胸をしめつける。


「ハルトくんは晴れる人って書くんだよね。」

「えっ、、?」

唐突な話題に晴人は顔を上げる。

「私、神田のおじいちゃん言ってたこと、もう1つ覚えてるんだ。」

晴人は濡れた手で涙をぬぐう。


「ハルトは晴れる人って書くんだ。

でも晴れの人っていう意味じゃない。

雨の日を晴らすことができる、そんな人になる

ように付けたんだ。」


「ハルトが生まれたときは、雨が降っていた。

私が遅れて病室に着いたとき、

窓の外に急に光が差した。

まるで雨雲の中をハルトが晴らしてくれたみた

いに。

だから、晴人って名前を付けたんだ。」


知らなかった。

生まれた日は雨だったとしか聞いてなかった。

この名前はじいちゃんが付けてくれたんだ。


「晴人くんっていい名前だね。」

「え、、」

「だって雨の中を晴らすんだよ。」


晴人が今にも降ってきそうな空を見上げると、

期待を裏切らず額に雨粒が落ちる。


「うん、そうだね。僕もそう思う。」



「今日も聞けそうだね、雨音ラジオ。」

─あ、そうだった、、。



雨が晴人の涙を流していく。

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