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エム「猫語尾中」
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暗い。
何もない。音もない。
ただ、意識だけが浮かんでいる。
──どこだ、ここ。
考えようとして、そこで気づく。
思い出せない。
何も。
どこから来たのかも。
全部、抜け落ちている。
いや、名前は覚えている。確か「みどり」
だった気がする。
「……は……」
声が出た。
自分の声なのに、
少しだけ違和感がある。
ゆっくり目を開ける。
天井も、壁も、床も、
全部が白い部屋だった。
「……なんだよ、ここ」
起き上がる。
体は動く。異常はない。
でも、やっぱり何も思い出せない。
その時だった。
ブゥン、と低い音が鳴る。
天井のスピーカーから、
機械的な声が響いた。
『被験体003、覚醒を確認』
一瞬、思考が止まる。
「……は?」
被験体?
何の話だ。
『意識レベル正常』
『記憶領域、初期化済み』
背筋が凍る。
記憶がない理由。
今、はっきり言われた。
消された。
「なにこれ……」
思わず呟く。
その時、
壁の一部がスライドした。
光が差し込む。通路。そして足音。
誰か来る。
反射的に身構える。
現れたのは
同じくらいの年齢に見える男だった。
少し警戒した目。
でも、どこか似ている。
「……お前もか」
そいつが言った。
「記憶、ないだろ」
「……うん」
自然と答えていた。
お互いに状況は同じらしい。
その後ろから、
さらに三人。
合計、五人。
全員が同じ顔をしていた。
困惑と、警戒と、わずかな不安。
その時、
またスピーカーが鳴った。
『被験体001〜005、集合を確認』
全員が顔を上げる。
『これより実験を開始します』
「実験……?」
誰かが呟く。
その言葉に嫌な予感がした。
『各被験体には適応能力が付与されています』
空気が変わる。
『能力の確認を行います』
その瞬間、
頭にノイズが走った。
「っ……!」
視界が揺れる。
何かが流れ込んでくる。
知らないはずの感覚。
でも、体は理解している。
手を見た。指先に微かな電気が走る。
バチッ、と音がした。
「……なに、これ」
驚きよりも先に、
恐怖が来た。
その時、
隣で声がした。
「……時間が止まった気がした」
自分の手を見ている。
空気がわずかに歪んだ。
また別のやつは手に血が流れていたが止まったように見えた。
そして俺の前にいるやつは
拳を握っていた。
床がわずかに軋む。
異常な力。
さらに、俺は壁に手をかざすと配線が動いた。
まるで、操ってるみたいに。
「は……?」
「なんだよこれ……」
最後の一人は目を閉じていた。
その周りだけ空気が揺れている。
現実がぼやける。
幻覚みたいに。
全員、異常だった。
『適合確認』
スピーカーが淡々と言う。
『全被験体、正常に能力発現』
正常。
どこがだ。
その時、
頭に鋭い痛みが走った。
「っ……!」
思わず膝をつく。
ズキズキと、
頭の奥が痛む。
さっき能力を使ったせいか。
横を見ると、他のやつらも同じだった。
「……おい、大丈夫か」
さっき最初に来た男が声をかけてくる。
「……平気、じゃないけど」
息を整える。
そいつは少しだけ苦笑した。
「だよな」
少しの沈黙。
でも、
その空気は少しだけ和らいだ。
名前も知らない。
記憶もない。
でも、なぜか
完全な他人って感じがしなかった。
その時、
スピーカーがまた鳴った。
『次の実験へ移行します』
冷たい声。
『被験体は待機してください』
ブツッ、と音が切れる。
静寂。
誰もすぐに動かなかった。
ただ、分かっていた。
ここは普通じゃない。
そして俺たちは、何かに巻き込まれている。
──いや、
違う。
“ 巻き込まれたんじゃない ”
その考えが、
一瞬だけ頭をよぎる。
理由は分からない。
でも、妙に引っかかる。
「……なあ」
さっきの男が言った。
「このままじゃやばくね」
全員がそっちを見る。
その通りだった。
でも、
どうすればいいかなんて分からない。
ただ一つだけ、
はっきりしていることがある。
ここから出ないといけない。
理由は分からない。
でも、
それだけは、
間違いなかった。
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