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彼女side 2
GPSが反応しなくなってから約20分。
がちゃ、という、家の鍵を開ける音が聞こえた。
「ただいま〜」
という、いつもと変わらない声が聞こえる。そんな態度に、吐き気がする。俺がどれだけ不安になって、怒っていたかなんでお構いなし、と言わんばかりのその声は、俺の中のそれを爆発させる。
すちくんが帰ってくるまで考えていたことなんて捨てて、すぐに彼の元へ向かう。玄関でその顔を見ても何も思っていなさそうな顔。なんで?むかつく、腹が立つ。俺のことなんてお構いなしに、女と戯れてきたの?なんで?やっぱり行かせるんじゃなかった。ちゃんと帰ってくるって信じなきゃよかった。信じれば信じるだけ辛くなるのに。やっぱりすちくんもそうやって俺のこと捨てるんや。今までずぅっと一緒に居ったのに。こんな風に思わせないで欲しかったのに。
「なんで_______ッッ!!」
その先を言いかけた途端。
「ほんっと、」
そんな一言に、言葉を遮られた瞬間、俺は床に押し倒される。痛みを吸収するものが後ろにないから、と焦って手をつこうと思っても、その手はすちくんに拘束されたままで、解けずにそのまま痛みが走る。
「いっ…!」
反射的に、その言葉が出る。反射的だけどそれは本心で、ジリジリと痛む。
「すちくんっ、!何して____」
「かわいい…っっ♡♡♡♡//」
また遮られた、なんて思う間もなく、困惑と少しだけの恐怖が頭を支配する。今でで一度も見たことがないすちくんのその目。静かに歪んだ顔、真っ黒な目の中に光るハート型。
もうすでに半分覆い被さっている状態なのに、さらにすちくんと俺との距離が短くなって、衝動のままにという様なのキスをされる。無理やり唇を割って、舌を入れ、今までで一番、深くて甘くてぐちゃぐちゃなキスをしてくる。
「んぁ…っ、ふ♡//」
嫌でも漏れてしまうその声と、俺の口の中とすちくんの舌が絡まる音だけがするその空間に、恥ずかしさを隠せない。そうやっていつも流されて、すちくんに襲われるまでがワンセット。でも違う。今日は違う。だって今日は、すちくんがしたいはずじゃないから。何門限破って彼女置いて楽しんできて。しかも、女がいる場所。女の香水の匂いが、いつもの心地よい匂いをかき消しているものだから、きっとくっついてきたんだろう。浮気してるのに、それを隠すようにキスしたって可愛いって言ったて、俺知ってるから。どうせやっぱり俺より魅力的な人がいるとこに気づいたんでしょ?合コンとか初めて行ったもんね。
僅かに空く口と口の間でなんとか息をしていたものの、そろそろ息がしんどくなってきて、すちくんの胸板をとんとん と叩く。いつもならこれで辞めてくれるのに、全く辞める気配がない。辞めるどころか、もっと酷くなっている気がする。俺より、良い人見つけていたはずなのに。捨てるなら早く捨てて欲しいから、キスなんて嫌なのに。それでも、気持ちいいと思ってしまう。それは、本能的なものじゃなくて、俺の心の中に潜んでる、まだ諦めきれていない心。そんな自分が嫌で嫌で仕方ない。
やっと口を離してくれた頃には、酸素が脳に行ってなくて苦しい状態。そんな俺を見て、すちくんは嬉しそうに顔を歪める。やっと息が整って声を発せるくらいになって、吐く息と一緒に声を出す。
「なにしてんの…っ!//」
「何って、ディープキスだけど?」
そのまま俺を抱え上げるすちくん。軽々と持ち上げられるものだから、いつもびっくりしてバランスを崩しそうになる。
「そうじゃなくてっ!今日門限破ったやん!もう俺のこと好きじゃないんやろ⁉︎」
考えたくもない事で頭がいっぱいになって、泣きそうになる。こんなんで泣くとかみっともないし、恥ずかしい。でも、泣いたっておかしくないくらい悲しくなるのは、それだけすちくんのことを愛してるから。でも、すちくんはそれ相応の愛を返してくれないの?重かったかな?相手が嫌だって感じたら愛せてないことになるの?そんなことを考えていると、
「何言ってんの?」
と、すちくんが怒っている時の低い声が返ってきた。怒らせちゃった、って怖くなってびくっと肩を震わせてしまう。怒らせちゃった?なんで、怒らせちゃったの?だってそうじゃないの?俺よりいい人見つけてきたんじゃないの?わかんない、わかんないよ。今までこんなことなかった。こんなに読めないすちくんが初めてで、不安と心配で、心がどうにも落ち着かなくなって訳もわからなく涙が溢れる。気がついたら、部屋の前に下ろされていた。
「大人しく待ってて」
ときつく言われる。怒らせちゃったって反省しようとしたけど、でも「俺のこと好きじゃないんでしょ」って言って「何言ってんの」って返ってきたことが引っかかる。その返しだと、俺のこと好きなはずなのに、俺は今怒られている。どういうこと?なんで?理解しようと思っても、どうにも頭が追いつかない。
すちくんに「ほら、入って」と声をかけられても、俺のこと嫌いなんでしょって思って動く気になれない。
「なにやってんの?入って?」
知らない。こんなすちくん知らない。今まで俺を助けてくれるたびに聞いてきた、低い声。空気がピリついて、怖くて動けなくなってしまう。すちくんは、そんな俺の右頬を掴んで無理矢理目を合わせてくる。ぐいと掴まれた右頬は、一瞬で赤くなってしまうほど痛い。
「入って」
と言ったすちくんは無表情だが、声色から“怒っている”という事が伝わってくる。このまま部屋に入って、俺はどうされるんだろう。すちくんが幸せに暮らせる様にって、閉じ込められて、顔も見れなくなるのかな、なんて考えると、辛くて辛くて仕方がなくて、胸がぎゅうっと締め付けられる。そんなことを呑気に考えていると、すちくんは堪忍袋の尾が切れたのか、俺の腕を引っ張った。その手で掴まれる腕自体が痛いのに、急に引っ張られた衝動で、肩の骨が抜けそうになって、二の腕の筋肉も強張る。俺が「痛い」と言ってもお構いなしなので、「自分で行く」と言う。
入った部屋は真っ暗に近いほど暗く、唯一一つだけある窓も、分厚いカーテンで遮光されている。その部屋の奥の方に案内され、「座って」と言われる。その場でストンと座ると、
「えらい」
と、いつもの雰囲気で言ってくれる。そのまま頭を撫でてくれる。すちくんに頭を撫でなれるのは大好き。でも、さっきまで怒られてたから、すちくんの行動の変わり様に、すごく困惑する。
「…¿♡」
しばらく撫でられていると、すちくんは軽く俺のことを抱きしめて、俺の背中の方で何かを始める。その間、ずっとすちくんの唇が首元に触れていて、すちくんのたっぷりの愛情に、浸られている気分になって、さっきまで怒ってた事とか怒られてた事とか、全部どうでも良くなった。でもちょっとだけ不安で、
「すちくん、?何やってるん…?
と聞いたけど、
「ん〜?」
って、流されてしまった。
「はい、できた」
少ししてから、すちくんは少し嬉しそうにそう言って立ち上がった。そのままどこかに行っちゃいそうで怖くなって、立ちあがろうとすると、手が重くて、同時に じゃらと言う音がした。暗さに慣れた目を凝らして見ると、それは鎖に見えた。確認と質問の意味を含んで、
「鎖…っ?」
って聞いたのに、まるで、その言葉は聞こえなかった、と言う様に無視されて、そのまますちくんは買い物に向かった。 買い物って言うのが嘘で、今日会ってきた女と一緒に居たりするのかな、なんて思ったけど、もうさっきの様な怒りは湧いてこなくて。代わりに悲しい、寂しいで心が埋め尽くされる。さっきまで、すちくんの暖かい愛に浸ってたのなんて嘘みたいに冷たくて、無意識に涙を流しながら、
俺は、彼の帰りを待っていた。