テラーノベル
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「栞月ー! 早くしないと遅刻する!」
玄関の外から聞こえてくる声に、花房栞月は慌てて靴を履いた。
「今行くー!」
ドアを開けると、そこには制服姿の堀蒼寿が立っていた。
「……遅い」
「ごめんごめん!」
「何してたの?」
「髪!」
「毎朝それ言ってない?」
「女の子には色々あるの!」
「ふーん」
蒼寿はそう言いながら、栞月の頭を軽くぽん、と叩いた。
「寝癖」
「え!?」
栞月が慌てて髪を触る。
「どこ!?」
「もう直した」
「え?」
「俺が」
「……いつ?」
「今」
「……ずるい!」
「何が?」
「急に触るから!」
「幼なじみじゃん」
そう言って笑う蒼寿。
その笑顔に、通学途中の女子たちがちらちら視線を向ける。
「ねえ、あの子誰?」
「堀くんと一緒に登校してる……」
「めっちゃ仲良くない?」
そんな声が聞こえてくる。
栞月は気にせず蒼寿の隣を歩いていた。
「蒼寿、今日も人気だね」
「そう?」
「朝からめっちゃ見られてる」
「栞月が隣にいるからじゃない?」
「え?」
「……なんでもない」
「?」
蒼寿は前を向いた。
――本当に、こいつは鈍い。
自分がどれだけ栞月を特別扱いしているのか。
本人だけが知らない。
⸻
教室に着くと、蒼寿の周りにはすぐに人が集まった。
「堀くん、おはよ!」
「おはよ」
「今日の数学の宿題やった?」
「やったよ」
「教えてほしい!」
「いいよ」
誰にでも優しい蒼寿。
栞月は自分の席に座りながら、その様子を眺めていた。
「蒼寿ってほんと優しいよね〜」
友達が言う。
「うん。昔からそうだよ」
「幼なじみなんだっけ?」
「そう! 家も近いし、毎朝一緒に学校来てる」
「えー! 羨ましい!」
「何が?」
「だって堀くんだよ!?」
「ただの蒼寿だよ?」
栞月が首を傾げる。
友達は思わず頭を抱えた。
「……栞月、恋愛偏差値低すぎ」
「え!?」
⸻
昼休み。
栞月がお弁当を広げていると、蒼寿が当然のように隣の席に座った。
「栞月、それ何?」
「卵焼き!」
「一個ちょうだい」
「いいよ」
栞月が箸で卵焼きを取ろうとすると、
「……箸で食べさせて」
「は?」
「ほら」
蒼寿が口を開ける。
「自分で食べなよ」
「栞月がくれるなら食べる」
「……子ども?」
「幼なじみだからいいじゃん」
「意味わかんない」
文句を言いながらも、栞月は卵焼きを蒼寿の口元へ運んだ。
「はい」
「ん」
ぱく。
「……うま」
「でしょ?」
「栞月の卵焼き好き」
「毎回言うじゃん」
「毎回好きだから」
「?」
蒼寿は一瞬固まった。
「……いや、卵焼きがね」
「分かってるよ?」
「…………」
――危ない。
今のは危なかった。
栞月は何も気づかず、お弁当を食べ続けている。
その横顔を見ながら、蒼寿は小さく笑った。
「……ほんと鈍い」
「何が?」
「なんでもない」
⸻
放課後。
「栞月、一緒に帰ろ」
「ごめん! 今日委員会ある!」
「……そっか」
蒼寿の声が少しだけ低くなる。
「先帰ってて!」
「……分かった」
そう言って教室を出ようとした蒼寿。
そのとき――
「花房さん!」
同じクラスの男子が栞月に声をかけた。
「ん?」
「今日、委員会終わったらちょっと話したいんだけど」
「私に?」
「うん」
「分かった!」
栞月が笑顔で答える。
その瞬間。
蒼寿の足が止まった。
「…………」
振り返る。
男子と楽しそうに話す栞月。
蒼寿の眉がほんの少しだけ寄った。
「……誰、あれ」
小さな声。
誰にも聞こえない。
けれど――
蒼寿の胸の中には、今まで感じたことのないモヤモヤが広がっていた。
そして翌日。
その男子が栞月に渡そうとしていたものを見てしまい――
蒼寿の「幼なじみだから」という言い訳が、ついに限界を迎える。
コメント
1件
おお、第2話めっちゃ良かったわ!幼なじみの距離感が絶妙で、蒼寿の「幼なじみだから」って言い訳がそろそろ通じなくなってきてるの胸熱すぎる🔥 栞月の鈍感さにもどかしくなるけど、それが逆にリアルで好き。「卵焼き好き」からの「いや卵焼きがね」の言い直し、あれ絶対本音だよな!最後の男子登場で終わるのも続きが気になりすぎる…早く更新してほしい!